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【ファンタジー小説】シルバー・ウイング《5》※小説垢に引っ越してきました

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如月卿(きさらぎ きょう)

 夢魔であるシルバー・ウイングの父と人間の母の間に生まれた少年。本人はその事実をずっと知らずにいたが、『ブラッド・ウイング』との戦いに巻き込まれたことによって、数分だけ覚醒する。その時に現れた翼の色は、1000年前に国の危機を救ったと言われている伝説の王と同じ純銀だった。

ティコ

 シルバー・ウイングの女性戦士。外見は小学生女子にしか見えないが、れっきとした成人女性で、剣の腕は男性戦士以上の実力を持つ。
 尊敬する君主『テラ』の命令により人間界に降り立ち、彼の息子である卿の行方をずっと探していた。

4話までの相関図です

 
《如月きょう


 何かが始まってしまったようだ。

 そして……その『何か』に自分は巻き込まれてしまった。

「…………」

 いや、ちょっと違う。

 どうやら己の誕生自体が、『何か』の中に既に組み込まれているらしいから……。

 自分は一体……何者なんだろう。 

 

◇◆◇◆◇◆

 
 かなりの築年数が経っていると一目で分かる和室。その部屋の中央に敷かれた布団の中で、ティコが静かに寝息を立てていた。
 戦いの後、彼女は道に倒れこんだままブツブツ何かを言っていたが、そのうち気絶するかのように、眠りに入ってしまったのだ。

「…………」

 膝を抱えて座ったまま、改めてティコの寝顔を見つめる卿。この小学生のような外見を持つ彼女のどこに、あんなパワーが備わっているというのだろうか?

 (まあ、……『人外』だと言えばそれまでだけど)

 「自分は『シルバー・ウイング』という種族の『夢魔』だ」と彼女は卿に告げた。実際に白い翼を持つ姿を見せられたのだから、信じないワケにはいかない。

 そして翼は卿自身にも現れた!

 あの銀色の翼は、『ブラッド・ウイング』との戦いを勝利に導き、絶体絶命の危機を救ってくれたが、今となっては彼を混乱させている一番の要因となっている。 

「………」

 消えた翼は、実際にはあるはずのない重力を卿に与え続けていた。

 『宿命』という名の避けられない重力を……。

◆◇◆◇◆◇
 

「卿、あなたも少し横になったら?」

 ティコの側には彼の母親である直子もいた。卿は「大丈夫」と言って笑みを浮かべようとしたものの、上手く口角を上げることができない。


 ーー約1時間前ーー

「ちょ、ちょ、……ちょっとあなたたち!? 一体何があったの!?」
 
 玄関先で卿たちの姿を見た直子は珍しく取り乱し、挙動不審者のように視線を右往左往させていた。当然といえば当然だ。3人それそれが異様な光景を作り出しているのだから……。

 殴られたような跡が頬に残り、口元から血を流している卿。
 
 ベソをかきながら卿の腕をしっかりと掴んでいる夏芽。
 
 そして卿におぶられているのは、深い睡眠に入ってしまったティコ……。

「卿、その女の子誰な……」

 ティコに目を止めた直子だったが、質問を最後まで言い終えぬまま、不自然に言葉を断ち切ってしまった。

 そして母は震えながら腕を伸ばす。その手の行き先は卿の背中にいるティコだった。

「母さん?」 

 指先がティコの服にそっと触れる。

「…………テラ?」 

「!?」

 母が呟いた『テラ』という名。

 それはきっと……ティコが言っていた『テラ様』と同一人物なのだろう。

 やはり……間違いないのか!? 

 (俺の……父親?)


◆◇◆◇◆◇

 
 ティコが目を覚ます気配は、全く感じられなかった。

「…………」

 一般的な感覚であれば、ティコが着ている異世界風の装束自体に目が行き、ほとんどの人間が彼女に対して『アニメ好きのコスプレ少女』という答えを出すに違いない。

 しかし直子が注目し、一瞬でティコの正体に気がついたのは、その服を作っている生地の繊維だった。
 母曰く、こんな特殊な織り方と手触りの生地は、『テラ』がまとっていた装束以外では見たことがないと……。

 正直な所、卿にはその違いが分からない。さすがハンドメイドで生計を立てている人間は違うな……と思ったが、すぐに訂正をした。

 こんなにも『テラ』を想っていたから、母は気づいたのだと……。

「卿、どこまで知ってしまったの?」

 まるで遠くを見ているような瞳を自分に向けて、直子は口を開いた。その視線の先の先に見えるのは『テラ』の姿なのだろうか?

「う~ん、『どこまで』って言われても、全体が見えていないからなぁ。あまりにも荒唐無稽すぎて…」

「そうだよね」 
 
 母の視線が卿本人へと移った。

「俺さ、髪も目も色素が薄くて、昔から何度もハーフに間違えられたけど……」

「…………」

「まさか……人外とのハーフだったなんてね。『シルバー・ウイング』?……だっけ? 正直、俺……今は混乱している」

「…………」

「母さん……俺は生まれてきて良かったの?」

「当たり前じゃない!!」

 直子の声が部屋全体にピシャリと響く。その声にぶたれたような感覚を覚えながら、卿は天井を仰いだ。

「俺の血の成分って、一体どうなっているんだろう? 一応は赤いけどさ……。間違っても輸血なんかできなそうだね。それに細胞は? DNAは? つまり俺は完全な人間じゃないってこと!? それにさ……」

 母を責めるつもりはないが、己の思考をすり抜けて、次々に口から飛び出す卿の言葉は、間違いなく直子の心をえぐっているハズだ。

「卿、それでも……」

 自分の話を遮った直子の口調は、先程と違って優しく温かい。

「…………」

「私は卿を産んで良かったと思ってる」

「………」

その時だった。

「直子ちゃん、卿くん、入るよ!!」

 卿が黙ったタイミングで、襖越しから男性の声が割って入ってきた。 この家の家主、そして夏芽の祖父である結城源三郎だ。彼は襖を開けるやいなや……、

志穂子ばーさんから聞いたんだけど、直子ちゃんの旦那さんの国から、女の子がやって来たんだってなー?」

「えっ?」

 まるで親戚の子でもやって来たかのような軽い口調に、少々脱力してしまった卿。おかげで自分で自分を縛っていた緊張の糸が、フワッと解れた。

 そして、卿は1つの事実に気付く。

「源三郎さんは……知っていたの?」


◇◆◇◆◇◆◇◆

「……そりゃあ、最初に直子ちゃんから話を聞いた時はびっくりしたよ。でも、私らは元々、不思議な縁で知り合ったからな」

 源三郎は「よっこいしょ」と呟きながら、卿の横に腰を降ろす。

「…………卿、私ね」

「ん?」

「……今だから言うけど、『テラ』のことや『シルバー・ウイング』のことを話すかどうかは直前まで迷っていた。だけど全てを話さなければ、親身になってくれている源三郎さんや志穂子さんに対して、失礼だろうと思って……」

「…………」

 自分が知らなかった自分の正体を結城夫妻が既に知っていて、しかも彼らはそれを受け入れていた!?

 自分が生まれる前からずっと……。

 驚くことがまた1つ増えてしまったが、この事実は揺さぶられていた己の精神をしっかりと卿の身体に戻してくれた。

「卿くん」

 源三郎が自分の目を見る。

「はい?」

「生まれてきてくれてありがとう」

「…………えっ?」

「君がいなかったら、夏芽は今と同じように笑っていられたか?……って思うよ。いや、難しいだろうな。卿くん……私ら家族はね、出生の背景がどうであろうと、君が存在しているだけで救われていると思っている」

「…………」

 涙が出そうになった。小学生時代、自分の複雑な家庭環境をバカにされても、涙一つ流したことのない自分なのに……。

 泣いたら負けだ。そして母と夏芽を守らなければいけない自分には、涙など必要ない…と卿は必死に頑張ってきた。

 母と夏芽を……

「あ、源三郎さん、そういえば夏芽は?」

 鼻をこするフリをしながら、そっと涙を拭う卿。

 志穂子によって、夏芽は卿から半ば無理やり離され、別の部屋で何かを話しているようだったが……。

志穂子ばーさんがこれまでのいきさつを説明しているよ。『何かが起こったら、卿と夏芽には包み隠さず話そう』って、元々3人で決めていたからね」

「……そうだったんですか。あの、俺ちょっと夏芽の様子を見てきます」

 卿は立ち上がった。


◇◆◇◆◇◆

 (……でもなぁ)

 廊下に出たのはいいが、ふと浮かんだ新たな不安によって、卿の足が止まってしまった。

 (彼氏が『人外のハーフ』って、夏芽からしたらどうなんだろ?)

 得体の知れないヤツと遭遇し、更にソイツの標的になってしまったことで、夏芽は命の危機に直面していた。
 あの時の彼女は、それらの恐怖によって思考が混乱していたハズだ。

 ……が、とりあえず日常に戻ったことで、今度は卿のことを冷静に考えるだろう。

 (なんたって、夏芽の目の前で『翼』が現れちまったからな……)

 しかし、そんな心配は必要なかった……ということが、この直後にハッキリとした。

「卿!!」

 別の部屋から出てきた夏芽が、卿の姿を確認するやいなや、自分に抱きついてくる。

「な、な、な、夏芽?」

 壁を隔てた所には、3人の大人がいるので、少々焦る卿。

 (う~ん、まあ、仕方ないか)

 観念した彼は、夏芽の細い身体にそっと腕を回す。

「卿……卿……」

「夏芽、全部聞いたんだよね? 本当に俺が彼氏のままでいいの?」

「……卿がいい。ううん、卿じゃなきゃ嫌だ」

「夏芽……」

 卿は腕の力を少し強めた。

「……だから卿」

「ん?」

「どこにも行かないでね」

「!?」

 即答が……できない!?

 そんな自分に対して彼は密かに驚く。

 約束したいのに!! 自分だって同じ気持ちなのに!!

 自分の宿命が、彼女との確約を拒んでいる!!

「……もちろんだ…よ、夏芽」

 数秒の間をおいてやっと言葉に変換できた卿の声には、微妙な動揺が交じってしまった。

 そんな卿の葛藤に夏芽が気付かないハズがない。

「約束だよ……卿」

「…………」

 哀しい瞳で自分を見つめる夏芽を、卿は更に強い力で抱きしめた。

『この嫌な予感が、ただの杞憂で終わりますように』と思いながら。

 
   《6》に続きます


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