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営業必見!北京大学eMBAから学ぶ、関係値のマネジメント

自己紹介:いち

中国でビジネスをするには「人と人との関係」が非常に重要な意味を持ちます。極論を言うと、同じ値段であっても、100点満点の解決策を誰かわからない人から買うよりも、60点の解決策を顔馴染みから買う、ということがよく起こります。

この関係を体系的に整理して、使いこなせるフレームワークにできれば、非常に再現性が高い「関係値のマネジメント」ができるようになります。これは特に「営業管理」をやっている人間にとって、大きな武器となります。

数年前に北京のeMBAに通っていた際に、「関係値のマネジメント」という授業がありました。授業自体は非常に面白かったものの、営業担当ではなかった当時は『なるほど』くらいにしか思っていませんでした。しかし営業のマネジメントもするようになった現在、このフレームワークが実践で非常に役立つようになったので、シェアさせていただきます。

このフレームワークを使えば、「定性的」で「属人的」、つまり「曖昧になりがち」なビジネスにおける人間関係を「可視化」できるようになります。その結果、関係性に優先順位をつけて、「管理できる」ようになります。

これは、日本であれ中国であれ、どの場所でも汎用性が効くフレームワークとなりますので、営業に関わる方はぜひご活用ください。

【関係値を読み解く2つのキーワード】
①コミュニケーションフィルター
・人間は、全ての関係に置いてこのフィルター越しに会話をしている
・このフィルターは”関係レベル”によって左右される

②有用信息(=有用な情報)
・ビジネスにとって役立つ情報のリスト
・関係値と、この”有用信息”をいかに効果的に結びつけるかが鍵

情報量が結果を左右する

営業をやっている方には言わずもがなですが、情報量というのは営業における最重要の資源となります。私はマーケティングの会社にいるのですが、情報量は少なくとも下記の3点においてビジネスに直結します。

①業務効率化
・キーマンは誰なのか、その人の関心ごとに合わせて業務を最適化
・成果につながらない業務を削減、キーマンの求める情報に集中

②新規ビジネス獲得
・普段から悩み事を聞く中で、新たなビジネスの芽を発見
・相談を受ける前に、先手を打って悩み解決の提案を実施

③リスク回避
・クライアントの人事の変化に伴うリスクやチャンスを把握
・起こりうるリスクに対して先手先手で準備をする

極めて当たり前のことではありますが、上記の①〜③のようなことが実現できれば、営業効率は飛躍的にアップします。しかし、そもそもこれらの状態に至れるのは理想論であり、「それができたら苦労しないよ〜」「時間をかけるしかないんじゃないの?」というのはごく自然な意見かと思います。

しかし、クライアントとの関係性を戦略的に整理し、営業の一人一人の意識と動きに「指針を与える」ことで、この関係作りのスピードは段違いに上がります。では、その指針はどのように作っていけば良いのでしょうか?

Connection Marketingと2つのキーワード

eMBAでの学び、それが「Connection Marketing(=関係性に着目したマーケティング)」です。戦略的に、お得意との関係を整理し、営業一人一人の意識と行動に指針を与えることで、「成果の出る」関係を構築していく手法となります。

このConnection Marketingには2つの重要なキーワードがあります。それが「コミュニケーションフィルター」と「有用信息(有用な情報)」の2点です。

コミュニケーションフィルター
・人の発言をコントロールするフィルター
・このフィルターをいかに突破して「有用信息」を引き出すかが鍵

有用信息
・ビジネスの成果に直結する情報
・関係レベルによって得られる情報が変わる
・この「有用信息」を軸に、営業資源を配分することで営業成果を最大化

それでは一つずつ説明していきます。

キーワード1)コミュニケーションフィルター

人の発言とは、常に「コミュニケーションフィルター」というものを通じて行われます。コミュニケーションフィルターは、ビジネス、プライベート問わず、常に人の発言をコントロールするものになります。

eMBAの中で、発言をコントロールするコミュニケーションフィルターを説明する概念として”認識レベルにおける『先物取引』”という、面白い定義がなされていました。

認識レベルにおける『先物取引』とは?
契約関係にはない、未来に期待できる利益交換を前提にした関係。人間は常に、発言をするときに、様々なことを無意識のうちに考えており、その根底にあるのは「利益交換の概念」である。

何を言うか、言わないか、誰がいるのか、どんな場所なのか、など。発言の際には、これらの様々な要素を超高速に演算、その結果としてその瞬間における「コミュニケーションフィルター」が生み出されます。この「コミュニケーションフィルター」はこの発言を今、この場ですることで、将来自分の利益になるだろう(=認識レベルにおける『先物取引』)ことを判別してくれます。人の発言は、そのコミュニケーションフィルターによって処理されたのち、発言されるのです。

そして、このコミュニケーションフィルターは、「関係性」に大きく左右されます。Connection Marketingの本質は、後述する「有用信息(=役立つ情報)」を持っている人(=キーパーソン、見極め方は後述)との関係強化に徹底的に営業リソースを集中することで、キーパーソンとの関係レベルをアップさせる。その結果、キーパーソンのコミュニケーションフィルターを可能な限り取り除くことで、「有用信息」の獲得量を最大化していくことになります。

コミュフィルター

コミュフィルター違い

「有用信息」の獲得量が増えれば増えるほど、最初に述べた
①業務効率化
②新規ビジネス獲得
③リスク回避
の実現が容易になるのです。

では先ほどから何度も述べている「有用信息」とはいったいなんなのか?実際に、どうやって獲得していくの?という、具体論に入っていきます。

キーワード2)有用信息(=有用な情報)

「有用信息」とは、意味のある情報、役立つ情報、という意味の中国語です。Connection Marketingでは、この「有用信息」をどこまで取得できるかが鍵となります。

「有用信息」を話してもらえるかどうかは、相手の自分に対する「コミュニケーションフィルター」によって左右されます。そしてその「コミュニケーションフィルター」は、相手との関係レベルによって左右されます。

相手との関係レベルは大きく4つのレベルに分かれます。

関係レベル

関係レベルの4段階
レベル1:何も話さない
レベル2:一般的でオフィシャルな内容のみ話す
レベル3:「有用信息」を話し始める
レベル4:なんでも話せる

では、先ほどから出てくる「有用信息(=役に立つ情報)」とは、どのように定義されるのでしょうか?役に立つ、役に立たない、というのが個人の主観になってしまうと、それこそ管理困難な状態になってしまいます。

「O部長は肉は好きだが、魚は苦手」

これは、「有用信息」でしょうか?それとも全く使えない情報でしょうか?これを判断するためには、「有用信息」とは何か、についての共通認識を持つ必要があります。

「有用信息」の共通認識を持つためには、下記のステップで実施していきます。

さまざまな情報

「有用信息」となるもの

「有用信息」の共通認識を作る3つのステップ
1:想定しうる情報リストを列挙する
2:ビジネスのKPIと関係が深いもので優先順位をつける
3:「有用信息」をリスト化して管理する

このステップで、「有用信息」のリストを作っていきます。ちょっと手間にはなりますが、「有用信息」のリストを作ることで、下記の2つの恩恵を得られます。

①営業活動の価値計測
・各営業の有するクライアントとの関係の良し悪しがビジネスに直結するかが可視化できる
・関係が良いけど、実は「有用信息」を全く取れていない、という”なんちゃって営業”を特定できる
・結果、良質な営業活動に絞って、営業リソースを最適化できる

②「有用信息」の資産化
・関係とは往々にして「俗人的」になりがち
・このリストによって、それぞれの個人が抱え込みがちな関係から得られる情報資産を、個人ではなく「チームの共有財産」にできる

この2つは、持続可能な強い営業チームを作る上で欠かせない要素となるので、リスト化のメリットは非常に大きいです。リストができた後は、誰が、いつ、どのようにその情報を取ってくるのかをタスク化して配分。リストを常に最新の情報になるように更新してチームでシェアすることで、情報武装された強いチーム作りができるようになります。

Connection Marketingの核となる「有用信息」のリスト化ができれば、営業管理の効率はグッと上がります。最後に応用編として、これらの考えをベースにして、どのように営業リソースを配分していくかについて、2つのマトリクスを用いながら見ていきます。

営業リソース配分指針を決める2つのマトリクス

2つのマトリクスとは下記の2つです。

営業管理の2つのマトリクス
1)「会社」単位で考えるクライアントポートフォリオ
・クライアントの「会社」単位で優先順位を判断
・クライアントとの関係性と、将来のビジネス拡張性のマトリクス
・クライアント別に、どこに営業リソースを投下すべきかの方針判断

2)「個人」単位で考える営業のプライオリティ
・クライアントの「個人」単位で優先順位を判断
・社内でのポジションと意思決定の影響力のマトリクス
・個人別に、どこに営業リソースを投下すべきかの方針判断

では一つずつ見ていきます。

1)「会社」単位で考えるクライアントポートフォリオ

会社単位で考える場合、次の2つの軸の掛け合わせでマトリクスを作成します。

「会社」単位で考えるクライアントポートフォリオ

1:クライアントとの関係性=「有用信息」の量
・そのクライアントから得られている「有用信息」の量
・「有用信息」のリストをクライアント別に並べて見て、多いか少ないかを相対的に判断

2:関係の重要性=ビジネスの拡張性
・そのクライアントからさらに多くのビジネスを得られるかどうか
・この拡張性自体が「有用信息」の一つであり、この拡張性の正確な情報を得られていればいるほど、営業効率は上がる。

これをクライアント別に整理をして、1st Priority→3rd Priorityの順で、各クライアントに対して、営業を投下する。これによって、営業効率は飛躍的に向上します。

2)「個人」単位で考える営業のプライオリティ

個人単位で考える場合は、次の2つの軸の掛け合わせでマトリクスを作成します。

「個人」単位で考える営業のプライオリティ

1:社内でのポジション
・対象となる人の、社内でのポジションの高さ

2:意思決定の影響力
・クライアント内で意思決定をする際に、対象の人がもたらす影響

実はこのマトリクスが非常に重要で、特に縦軸となる「意思決定の影響力」は「有用信息」の中でも優先順位が非常に高いものとなります。

よくあるのが、クライアント内でポジションが高いから、というだけで、営業リソースを徹底的に当て、良い関係性を築く、というミス。営業チームからすると「あんなにポジションが高い人と良い関係を築いているので、営業活動はうまくいっている」という錯覚を持ちがちです。しかし、実際にその人が意思決定に対する影響力を持っていなければ、その営業活動の価値は、ゼロに等しいものとなります。

逆に、ポジションは高くなくても、意思決定に大きく影響を持っている人は必ず組織の中には存在します。そしてこの社内の「意思決定の力学」は、なかなか表に出てこない情報となります。この重要な「有用信息」をいかに引き出すか、ということは、営業活動の中でもトッププライオリティと言っていいほど重要なアクションとなります。

ここで先ほど述べた「O部長は肉は好きだが、魚は苦手」が「有用信息」になりうるか、改めて見てみます。仮にこの「O部長」が、社内で意思決定に大きな影響力を持っている。そして、現在O部長との関係レベルは3であり、レベル4を目指していくことが非常に重要、とします。

そうなると、O部長との会食はビジネスにとって非常に重要な活動となり、その会食の場所選定に直結する、O部長の食の好みというのは「有用信息」足り得るのです。

この2つのマトリクスを駆使することで、「有用信息」を獲得した後、どのように営業活動を効率化していくかの明確な指針が得られます。

まとめ:関係を管理して営業効率を徹底改善

関係とは、一見俗人的で、「管理不可能」な対象のように見えます。しかし、今回ご説明したフレームワークを用いて、「関係を可視化」することで、戦略的に営業リソースを配分することができるようになります。

私もこの管理手法を取り入れることで
・営業活動の価値計測
・「有用信息」の資産化

ができるようになり、その結果として
①業務効率化
②新規ビジネス獲得
③リスク回避

を実現。これまで人が辞める、辞めない、で動揺ばかりしていたマネジメントから、より少ない人数で、より安定したマネジメントができるようになりました。

下記は、人が辞めていくチームをどのように管理するかについて書いた記事です。この離職に対するリスクヘッジにもなります。

営業に関わる全ての方に活用できる手法ですので、ぜひ余裕があれば取り入れてみてください。


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