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2024年2月感想雑記

 こまごまとした軽い感想を残しておくための記事です。新しいものを上にして追記していきます。
 軽率に、気に入った音楽とか動画とかもさらっと覚え書きしておこうと、今月から入れてみました。詳しくなくてもいいんだいいんだ。なんとなく好きなものを集めて置く場所なんだ。

 それと、先月から、長年使ってきたEvernoteを諦めてNotionに移行したのですが、以降のどさくさで読んだのに感想を書いていなかった本が2冊ありましたので、とりあえずここに載せておきます。
 しかし、面白かったのに忘れちゃってて、気づいたときにびっくりしました。お嫁にも感想を話してたのになあ……。


ゲーム

『龍が如く7』

 昨年末からこっち、ずーっと『バルダーズゲート3』をやってて、さすが2023のGotYだ、さすが海外の骨太RPGだ、などと、ある種の風を吹かしながら遊んでたんですが、まあ一度試しに起動してみるか、くらいの気持ちで始めた『龍が如く7』。

 いやーーーーーーハマっちまったなーーーーーーー!!!!!
 てかこれ、『JUDGE EYES』の時とまったく同じパターンだわ……!

 Twitterに書いた感想を雑に書き連ねておきます。こういうのはちゃんとまとめて書こう、とか思っちゃうともうダメなのよ。2022年に遊んだサイバーパンク2077の記事とか止まってるからね!(みずから痛がゆいところを触っていく)

・とりあえず、八神さんの2作しこたま楽しんでおいていまさらなんだけど、如くシリーズめちゃくちゃ好きだわ我が家!

・旧作やってないので比較できないけど、春日一番という主人公が、とても好感が持てるナイスガイでとにかくよかったよね。 神室町も異人町も八神さんで土地勘ついたので、ハードルが低くて助かった。疲れたおじさんに優しい。
 サイドクエストじゃなくて……なんて言うんだ、サイド要素? プレイスポットでいいのか? は、わりとすっ飛ばしてて、会社経営だけガッチリやった。おじさんにはね、これくらいでちょうどいいんだよ……。まあ60時間くらいはやったけどさ。気楽に始めて積み重ねた時間だったな。よかった。
 ところで、7も旧作なのでは? うるせえ!!

・棒読みのガールズ(失礼な表現)もぜんぜん進めなかったな。製作所の子だけかなり貢いだけど。設備投資で。2000万円とかかかるので笑ったな。一番ホールディングスの資金力でどうにかならんものかね!

・会社経営のCMが好きだったな。 お嫁もめちゃくちゃ気に入ってて、一回だけ飛ばしたら「なんで見ないの!? すごく好きなのに!」とか言われて笑った。好きすぎるでしょ。
「私が社長です」も、 ホールディングスになってからの雰囲気もそれっぽすぎていい。空から見て「一」の字になってるとことか吹き出してしまった。ぽい、すごくぽいよ!!!

・さっちゃんのレベルアップ時のセリフ、アレなんて言ってるの?  最初は「吉田ーーー!」って叫んでるFF14プレイヤー説があったけど、最終的に「こげちゃーーー!」にしか聞こえなくなった。こげ茶……?

・キャラクターみんな好きだったけど、初期以外だと趙くんがわりとお気に入りだったかな。ああいうキャラ、ずるいよね。好きになっちゃうじゃない。 街中の会話でもかなり活躍するので面白い人だ。
 でも一番好きな宴会トークは「パン・ジュンギ」かもしれない。くだらなすぎていい。

・あと、ナンバの中の人の安田さん話がちょいちょい出てきて笑ったね。黄色い着ぐるみはまだしも、エビチリの話とかまあまあ渋いところを突いてきたよね!

・いま話題のパルワールド問題(?)、スジモン博士の登場シーンでこみあげるものがあった。赤のスジモンを選びました。

・オープンワールドあるあるの「そんなことしてる場合か?」状態、現代日本が舞台なので、緊迫した場面でふらっとカラオケ館に入っちゃえるのが楽しすぎる。
「足立さーん!」
「盛り上がりますねえ!」
「延長でお願いします」
「お前の合いの手邪魔だよ!」
そんなこと、してる、場合か!!!

・自分がなんかほかのことをしている隙に、お嫁がたくさんカラオケをやってて面白かった。L・O・V・E・ラブリィ・紗栄子ォォ!!!

・しかし……ふつうにストーリーが面白かったよねえ……めちゃくちゃよかったよ。 光と闇の行方って、ドラクエ的なことかと思ってたけど、そういう……。

 そんなわけで、ゲームパスに入ってたので7外伝をやり始めました。積みゲーがーーー。
 ところで、ゲームパスだとXbox準拠でボタンがABXYになるけど、これがswitchと配置が違うからややこしいのなんの。カラオケが難しすぎる!!!(またすぐにカラオケに行っちゃう)

『君のクイズ』

  • アメトークで紹介されてた本。まんまと面白そう! と思って手に取る。

  • 読みやすく面白く、話の展開もワクワクして先が気になり一気に読んだ。

  • 「競技クイズ」という知らない世界を案内してくれるのも面白ポイント。

 クイズが僕を肯定してくれていた。君は大事なものを失ったかもしれない。でも、何かを失うことで、別の何かを得ることもある。君は正解なんだ──クイズが、そう言ってくれているみたいだった。
 僕は翌週からクイズ大会に復帰した。それまで以上にクイズに対して真剣に取り組んだ。僕にとってクイズをすることの一番の魅力は、クイズが僕の人生を肯定してくれることにあった。どんな人生であれ、それが間違いではなかったと背中を押してくれることにあった。
 僕は思い出す。『深夜の馬鹿力』のことを。『アンナ・カレーニナ』のことを。『三日月宗近』を、『OTPP』を。そして、これまで正解したすべてのクイズを。
 クイズに正解するということは、その正解と何らかの形で関わってきたことの証だ。僕たちはクイズという競技を通じて、お互いの証を見せあっている──そんなことを考える。

p.144

 僕は再度「なるほど」とうなずく。うなずきながら無力感に包まれている。 『Q-1グランプリ』はヤラセでも魔法でもなかった。
 だが、僕の知っているクイズでもなかった。本庄絆は「クイズ番組」というものの本質を理解し、その仕組みを解いた。どのような問題が出されるかを読んで当てた。すべてのクイズに意図がある以上、たぶんヤラセではないが、僕の信じていたクイズとも違う。
 これはなんだったのだろう。あえて言うなら、ビジネスだったのだろうか。

p.184-185

 この両者の対比が際立っている!
 読者の視点からどうしても主人公に肩入れしちゃうけど、本庄絆を勝手に想像していた同士、痛いところを突かれて、それでいてどこか気持ちいいという、シニカルな痛快さもあるなあと思う。

『ダンジョン飯ワールドガイド 冒険者バイブル完全版』

 か、完全版……! 前に出たやつも買ってたけど、完結の勢いで買っちゃった、その2。
 うう、面白すぎるし好きすぎる……! 内容も完結を踏まえたアップデートがされてるし、迷ってる人も買いですよ、これは!

 ワールドガイドってのに弱いんですよね。設定資料集とか。
 冒険者の部屋事情のコーナーなんて、胸がキュウウってなるくらい好きなやつ。こういうのにからきし弱いんだ。なんだろうなあ、異世界の雰囲気を味わえるものに弱いのか……。なんにおいても雰囲気を満喫したいってのがあるかなあ。
 これを書いてるいま、駅ナカのコーヒースタンドみたいなカフェにいるんだけど、コーヒーの味だけで言ったら、ちゃんとした豆を買えば家で飲むほうが美味しいは美味しい。でもこう、仕事帰りにお店に入ってコーヒーを飲みながら、本を読んだり、お嫁と喋ったりするっていう雰囲気を味わいたくて。

 デパ地下に行く一行の漫画(なんだこの話!)のやりとりがお気に入り。デパ地下でテンションが上がるマルシルに対して、

センシ:そんなものは家で簡単に作れるし
    作ったほうが安くてうまいぞ

マルシル:出たな自炊至上主義者
     わかってないなーこういう特別感が!

センシ:わかっていないのはお前のほうだ
    売り場で見る惣菜は華やかに見えるが
    それは場所の魔法によるもの
    家についた途端その魔法は切れ
    冷めた飯をわびしく食うはめになるぞ

マルシル:出来合いの食事に偏見もちすぎ!!!

センシ:出来合いに夢を見過ぎ

 マルシルの言い分もわかるけど、家でいざ食べる時になるとたしかにちょっとアレだよね……。家でデパ地下の惣菜を袋から出してるマルシルの絵がいい感じにわびしい……!
 上に書いた、駅ナカのカフェのコーヒーも魔法なんだろうね。

『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』

 原作完結の勢いで買っちゃったやつ、その1。
 ファンから怒られそうだけど(?)、実はそこまで期待しないで買ったのに、めちゃくちゃ面白かった。プレゼント交換のコーナーとか、作者自身がが自作の大ファンみたいなノリでもう最高。

 漫画家は基本的にそうなんだろうけども、それにしても絵を描くの大好きそうで、読んでてニコニコしちゃう。
 アニメのEDも作者の素敵な絵が流れてていいよなあ……いやあ、すっかりファンですね。

『永遠の終り』

 図書館で探したのでぜんぜん気づかなかったけど、ガッツリ絶版なのね!

 正直、前半はあんまり乗れなくて毎日寝る前に2〜30ページだけ読んでいたけど、途中から話がハッキリしてきて、どんどん加速していって最終的にはかなり好みの話で面白かった。

 同名のゲーム(『エンド・オブ・エタニティ』)は、本作となにか関連してるのかな……とかぼんやり思った。どうなのかしら。

 アシモフぜんぜん読んだことなかったんだけど(えへへ)、かなり面白かったのでほかのも読みたいね。

「ご承知のとおり、ぼくは社会学士ではありません」
 ヴォイは微笑した。「そう聞くとぞっとしますな。人が話を始めるにあたって、ある特定の分野における自己の能力の欠如をまず表明する場合は、たいていそのすぐあとに、その分野での断固たる意見がつづくものですからな」

p.15-16

「素人質問で恐縮ですが」(とまったく同じではないけど)みたいで面白い。昔からこういうのあるのねえ。

 ノイエスは言った。「あなたがたはたったひとつの<現実>しか知らない<時間人>の無知を笑います。わたしたちは、<現実>はたくさんあることを知っていても、一時にはそのうちのひとつしか存在しないと思いこんでいる<永遠人>の無知を笑います」

p.328

 このあたり、かなりマルチバースの話とリンクする気がする。いやあ、やっぱりSF読むと賢くなるんだなあ(バカ発想)。

『ジェイソン流お金の増やし方』

 なんか……読んだマネー本をさらすのって異様に恥ずかしい気がする。これも偏見なんだろうけど。そもそも小説でもなんでも、読書感想をこういう風にweb上に書いているだけでそう思う人もいるだろうし。

 お金がたくさんあるから本当に必要じゃないけれど買っちゃおう、という考えは違うと思う。本来、収入と使えるお金は比例しないはずなんです。収入が上がると支出もどんどん増やしてしまう人が多いんだけど、これではいくらお金があっても資産は増えないし、結局幸せを感じることができないんだ。

P.49

 これはそうよねえ、と思ったかな。あと、「家族がお金に対して同じ価値観を持つ」(P.64)ってのは大事よね。

『マルチバース宇宙論入門』

『なぜ宇宙は存在するのか』と同じ著者によるマルチバース論についての本。とっても面白かった。

 ときどきとはいえ宇宙論の本を読んでいながら、これまでビッグバンとインフレーションのちがいがぼんやりしてたけど(アホなので!)、ようやくなるほど、少しは整理がついた。

 しかし、これは泡宇宙の外側が実験的に観測不可能であるということを意味しない。我々はその領域に行くことはできないが、(図中に矢印で示した通り)シグナルがその領域から来ることは可能だからである。そして泡宇宙の内部の人間にとっては、これは宇宙が始まる前の時代からのシグナルとして感知されるのである。(もちろん宇宙が始まった後には、インフレーション、ビッグ・バン等様々なことが起こったので、これらのシグナルは一般に大きく薄まってしまう。しかし、これは泡宇宙の外側/開闢以前が原理的に観測不可能だということではない。)

 この話は、前掲の本でも書かれてたけど、わかるようなわからないような……ただロマンはすごい。

 マルチバース理論は以下のような意味で極めて「保守的な」理論である。1980年代に超弦理論が重力を含む無矛盾な量子理論であることが明らかになった時、少なからぬ科学者はこの理論――「究極理論」(中略)を解きさえすれば、電子や他の素粒子の質量から力の強さに至るまで我々の宇宙の全てが導出できると考えた。
(中略)
 しかし、よく考えてみればこの考えの方こそ「革命的」である。第2章でも述べた太陽系における太陽と惑星間の距離に代表されるように、我々の歴史の中でそのような状況が訪れたことは一度もない。科学の歴史は、常に我々が自分たちが思ってきたよりちっぽけな存在であることを思い知らされる経験の連続であった。我々の住んでいる大地は、太陽系の数ある惑星の一つに過ぎず、その中心に位置する太陽ですら銀河系の中の数ある恒星の一つに過ぎなかった。そして我々の銀河系も、局部銀河群と呼ばれる銀河群の中の一つの銀河に過ぎず、その銀河群も宇宙に数ある銀河群や銀河団の一つに過ぎない。いま我々が全宇宙と思ってきたものがより大きなものの一部であると判明したところで、ある意味ではそれ程驚くことではないとも言える。

 なるほどたしかに。そもそも自分は、この宇宙のスケールアップ感が好きなので、マルチバース理論に惹かれるのも当然なのかも、といまさらながらに気づきました。

 第5章がめちゃくちゃ面白かった。以下、とくに感動したところ。

 量子力学の標準的解釈(コペンハーゲン解釈と呼ばれる)では、これを観測が粒子の状態(波動関数とも呼ばれる)をAとBの重ね合わせの状態からAもしくはBの状態に「収縮させた」と記述する。
(中略)
 このコペンハーゲン解釈は、通常の実験結果を予言しそれを検証する上では何も問題がない。実際、現在までの実験結果はこの解釈を用いて矛盾なく理解できる。しかし、この解釈は概念的なレベルで本質的な問題を抱えている。特に、何をもって粒子(やより一般のシステム)が「観測された」ということができるのだろうか? 例えば犬が見たらどうだろうか? 蝿だったらどうなのか? ウィルスが触れたら波動関数は収縮するのか? もっと言って空気を構成する分子が触れたらシステムは観測されたと言えるのか?(しかしそのようなことは常に起こっているはずだし、我々は通常それを観測とは記述しない。)それとも、何か人間(もしくは高等生命体)が観測をするということには物理学上の特別な意味でもあるのだろうか?

 これこれ! そうなの、「観測」ってどういうことなの? ってずっと不思議だったのよ!

 エヴェレットの描像によれば、観測後の世界も重ね合わせなのである。ただしそれは単なる粒子の状態の重ね合わせではなく、それぞれにおいて観測者が異なる結果を得たと思っている二つの「異なる世界」の重ね合わせなのである。これは、(我々自身を含む)観測者も宇宙の一部である以上、自然なことである。量子力学では、電子は一般に重ね合わせの状態にある。それは、陽子、中性子、それらを構成するクオーク等も同様である。そしてこれは、これらの集合体である我々自身についても当てはまるのである。
(中略)
 つまり、マルチバースは時間が経つにつれ、異なる泡宇宙が異なる場所と時間に生まれた状態の量子力学的重ね合わせ(量子力学的多世界)になっていくのである。そして、この確率的に生まれる様々な世界(ブランチ)のそれぞれにおいては、事象の地平面の外側の(無限に広がっていると思われた)空間は存在せず、よって無限大の問題は生じない。これは、無限に広がるマルチバースというものは、実は確率の世界に(のみ)存在していることを意味する。

 ははぁーーー……なるほど……なるほど……? わからんにしても、ちょっと深まったね! いやあ、うれしい楽しい大好き。

『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』

 ハヤカワのnote記事で冒頭を読んだのと、YouTubeで小島秀夫がおすすめしてたのを見て手に取った本。
 ちょくちょく挿入される、断片的だけど象徴的なエピソードで時間が行きつ戻りつするのが、少しだけ読みにくさもあるけど、とっても好き。毎晩寝る前に1章ずつ読んでたんだけど、たいがい「どうなっちゃうのよ……!」ってなって寝つきが悪くなってしまった。ひどいよ!(ひどくはない)
 ちょっと照れちゃう感想なので言いにくいけど、終盤、久しぶりにクラクラっとするくらいに感極まってしまった。まいったねえ、これは。

 セイディは笑った。セイディが心の底から楽しそうに笑う声を聞いたのはいつ以来だろう。セイディのいろんなところが変わってしまったが、笑い声は――おとなになった分、声の高さはわずかに変わったとはいえ――大枠で変わっていないことにサムはほっとした。こんなにすてきな笑い声の持ち主はそういない。相手に自分が笑われていると感じさせないような笑い声。 “私はおもしろいと思うんだ、だからぜひ一緒に笑ってよ”。「違うよ、おばかさん。今度からちゃんと約束して会おうって話。せっかく来てくれたのに私は出かけてる、みたいなのはいやだから」
「だから約束しよう。こんなことはもう二度としないって」セイディは続けた。「約束して。何があろうと――きっとつまらないことで相手を怒らせたりするだろうけど、それでも――六年も絶交するようなことは二度としないって。何があっても私を許すって。私も何があろうとサムを許すって約束するから」それは、言うまでもなく、若者が気軽に交わす種類の約束、人生がどんな運命を用意しているか知らないからこそ交わせる約束だった。

P.85

 笑い声の素敵な表現と、あとになって読み返してグッとくるところ。


 ゲームで何より大事なのは手順だ。ゲームを動かすのはアルゴリズムだが、プレイヤーもプレイアルゴリズムを作り出さなくては勝てない。どんな勝利であれ、手にするには手順が肝心なのだ。どんなゲームであれ、プレイするには最適な手順がある。アナの死後に訪れた沈黙の数ヶ月、サムは頭のなかで執拗にリプレイを続けた。仮にアナが『プレス・ザット・ボタン!』出演を引き受けず、お金がなくて、新しく車を購入していなかったら。新しく車は買ったが、あの日の夕食のあとまっすぐ家に帰っていたら。もう一人のアナ・リーがあのビルから飛び下りず、アナはロサンゼルスに移らないままだったら。コヨーテに遭遇したあとも停車せずに運転を続けていたら。ハザードランプのスイッチがすぐに見つかっていたら。アナがジョージと寝ていなかったら。サムが生まれていなかったら。そうやって出た結論は、こうだった――あの夜、サムの母親が死なずにすんだ手順は無限にあったが、死に至る手順はたった一つだった。

P.236-237

 手錠のことにサムは気づいていないなんて、そんなことがあるはずがない。何時間も隣に座っていたのだから。ゲームをプレイし、ゲームを作り、キーボードの上を飛び回る彼女の手、コントローラーのボタンを押す彼女の手を見つめていたのだから。僕がきみをまるで知らないなんて、本気か? 僕はこの手を――きみの手を――正確に絵に描けるんだぞ。記憶だけを頼りに、裏も表も細部まで正確に描けるんだ。

P.289

 マークスとの友情が合計で何日続いたか、計算するには始点となるデータポイントが必要だ。サムはマークスの死のリハーサルをしたその夜を始点と定めて計算すると、多少の誤差はあるにしても、四千八百七十三日という答えが出た。ほかのことでは数値化すればそれだけで心が慰められたが、これに関してはその数字の小ささにかえって苦しくなった。マークスはサムの人生にあれほど大きな位置を占めていたのに。念のために二度も計算し直した。合っている。四千八百七十三日だ。眠れないとき、サムはよく頭のなかだけでそういう初歩的な算数をした。
 四千八百七十三。十七歳の子供の貯金の最高額。タイタニック号の乗客数の二倍。住民全員が顔見知りの小さな町の人口。一九九〇年のインフレ調整後のノートパソコン一台の価格。十歳代の若いゾウの体重。僕が母さんと一緒にいた期間プラス半年。

P.425

 サムはなんでも自分で抱え込んでそれを共有しなかった。いろんなシーンでつらくて悲しかった。


「愛してるよ、サミー」ドンヒョンは言った。
「僕も愛してるよ、おじいちゃん」これまでずっと、”愛してる”と口にするのに抵抗を感じてきた。大切な相手に愛情を示すのは傲慢なことに思えた。しかしいまは、この世で何より簡単にできることの一つだと思う。愛しているのに、愛していると伝えなくてどうする? 誰かを愛したら、相手がうんざりするまで愛していると何度でも伝えるのだ。その言葉にもはや意味がなくなるまで。理由などいらない。とにかく何度だって伝えるのだ。

P.528

「愛してるよ、セイディ」サムはささやいた。
「わかってるよ、サム。私も愛してる」
 セイディは列に戻っていった。もう少しで順番が来るというところで、肩越しに振り返った。「サム。いまもゲーム、やるよね?」その声は軽やかで、セイディの目はいたずらっぽくきらめいていた。プレイ開始の合図だとサムは瞬時に悟った。ゲームのタイトル画面と同じで、見間違いようがない。
「もちろん」サムは急いで、そして勢いこんで言った。「もちろんやるよ」

P.547

 うわーーーめちゃくちゃよかったよーーー。
「プレイ開始の合図だとサムは瞬時に悟った。ゲームのタイトル画面と同じで、見間違いようがない」って、すっげえいいなあ……。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』

 人生のこととか、お金のことを考えていて、その流れでたどり着いたのでパラ読み。

  • わかるようなわからないような。まあ、自分がミニマリストから遠い人間だとは自覚しているけども。昔はだいぶ、溜め込む快楽の味が好きだったからなあ。最近は少し改めてきたんだけどね。

  • それはそれとして、引っ越しが梱包から荷解きまで1時間半で終わるというのはすごいなあ! これはたしかに身軽だ……!

『同志少女よ、敵を撃て』

 とっくに読んでたのに記事にしてなかった。Evernoteからnotionへ移行の狭間で落としものその2。
 途中までふつうに面白く読んでたんだけど、後半に入ってからがまあ、すごかった。圧倒されて打ちのめされて揺さぶられた。いいものを読んだ。

「明日、十歳の新しい友達が家に来るんだ」
 セラフィマが微笑むと、イリーナが笑った。
「なにをしに?」
「友達と仲良くする方法を教えてほしいって」
「それはいい。それは大切だ。私たちも、それを教わらなければね」
 イリーナの肩に手を置くと、首元に顔を埋めた。

P.478

『ナイフをひねれば』

 とっくに読んでたのに記事にしてなかった。Evernoteからnotionへ移行の狭間で落としものその1。
 あいかわらず面白く、あいかわらず推理はさっぱりわからぬ。今回わりと描写でひっかかるところがあったのに……!


「あの女の書くものは、ときとして濃硫酸も同じでね。注意ぶかく言葉を選び、嫌みったらしい評論の中に、誰か特定の人間に対する侮辱をこっそりと忍ばせておく。噂によると、記者として世に出たものの、もっと影響力をふるえる仕事がいいと劇評家になったんだとか。そう、あの女の求めているのは、結局はそこなんだよ。芝居が好きかどうかもあやしいもんだ」
「まあ、そうはいっても、ほかにも劇評家はいっぱい来ているだろう」
「いちばん影響があるのは、あの女の劇評だからな。悪意に満ちているからこそ、読者に喜ばれるんだ。自動車事故を見物するようなものだよ」

 うっかりYouTubeでドラレコ動画とか見ちゃって、そのたびに意地の悪い快感と落ち込みを覚えるんですよね。Twitterのおすすめとかもたいがいそう。そんなことを考えました。


「この庭は、あの子たちの秘密の遊び場だった。(中略)子どもならではの一途さで、ふたりはお互いが大好きだったんだよ。うちでこの話をしたら、かみさんがなんと言ってたと思うね?  あの子たちはそれぞれ自分の運命に負けそうになってて、そんなお互いを必死に助けようとしてたのよ、とさ。(中略)ふたりとも、それぞれひとりぼっちで、誰からも見捨てられてた。だが、いっしょにいられるときだけは、ふたりとも幸せだったんだ。いまでも、あの子たちが笑ったり叫んだり、ただ子どもらしくすごしてたときの声が、この耳にまざまざと聞こえてくるよ。
 いや、以前はたしかに聞こえてたんだ。いまはもう聞こえない。ハリエット・スロスビーの本のおかげで、もう聞こえなくなっちまった。あの子たちを〝悪い子〟なんて決めつけて、実際はぜんぜんそんなじゃなかったのにな。」

 このシーンにだいぶ感じ入ってしまった。
 ていうかね、そうなのよ、どう考えてもここは力の入る場所なんだよ! ぜんぜんちゃんとした推理じゃないけど、作品としてここの熱量から考えて犯人と動機がわかったというのに……! くやしい!

音楽

龍が如くシリーズ『ばかみたい』

 『龍が如く7』と7外伝でうっかり聞きすぎた。仕事中にエンドレスループになってしまってばかみたい。
 変な言い方になっちゃいそうだけど、なんなら歌が上手くなくてもめちゃくちゃ気持ちよく歌える曲な気がする。いい声ならそれだけで最高になるし、渋い声の声優が歌うと最強な感じだ……!

マヒトゥ・ザ・ピーポー『失敗の歴史』

 ちょっと照れる感(セリフのところとかね!)もあるけど、SFテイストのエモーショナルソングの名曲。ちょいちょい帰り道に聞きながらしんみりしてしまう。PVのワンちゃんかわいいね。

crap clap『Love me do』

 こ、こんなにも自分好みなテイストのバンドが……! と驚いたら、2023年に解散しちゃっててそれにも驚くやら悲しいやら。

きのこ帝国『金木犀の夜』

 YouTubeの広告で流れてたやつ。
 春が近いなぁ……と動画を見ていて思ったけど、金木犀って秋だわ!

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