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スピードを出した方が安全?

車と発達障害?

発達障害の特性を、僕は自分が好きな車の例え話にします。
 
それは僕が車好きだということはもちろんあるんだけど、
色々な車のタイプがあることって、発達障害が他の障害と比べて「特性」という言葉をよく使うことにも合わせて、説明するのに都合がいいんです。
 

N-BOX vs フェラーリ

ひとくくりに「車」といっても、4輪以上のタイヤがあって、アクセルとブレーキ、ハンドルで操縦するというくくりにすると、実にさまざまな「車」があります。
とりあえずタイヤが4つの場合だけで考えてみます。

少し前ならカローラやフィットあたりを例にしていましたが、今だと一番街中で見かけるのはN-BOXのようなコンパクトな背高ワゴンでしょうか。

街中で見かける車=売れている車というのは、やはり多数派の人にとって実によく出来たものです。
コンパクトなので日本の住宅事情や町に合っていますし、駅やスーパーまでの往復といった日常使いには抜群です。
一昔前よりもうんと性能もアップしていて高速道路で長距離移動もこなす。
その上室内空間も十分にあって、特別なメンテナンスがなくてもなかなか故障しない。おまけに燃費も良くって、維持費も安い。

一方で、誰もが知っているスーパーカーといえばやはりフェラーリでしょうか。
そもそもの金額はN-BOXの10台分!
座面は低くて見通しは効かず、後ろなんてほとんど見えません。2人しか乗れないのに車幅は約2m。軽自動車よりも約50cmも幅が広い。駐車場も限られてきます。
最近はAT車になっていますが、それでもちょこんとアクセルを踏んだだけで「フォーン!」と加速する。日本国内の道路を走る上ではその性能を発揮できないどころか、抑え込んで抑え込んでやっと走っている状況。

側から見ている分にはロマンがあってかっこいいですが、
これを毎日駅の送り迎え、スーパーの買い物に使うには相当の覚悟や環境が必要になるでしょう。
もちろんハイオク、オイルもタイヤもブレーキも特別製で、メンテナンスしないとすぐに調子が悪くなります。

サーキットになると?

ところが、これがサーキットになると立場が逆転します。

背が高くタイヤの細いN-BOXはカーブのたびに車体が大きく傾くため減速しなくてはいけないし、パワーが足りずになかなかスピードも出ません。ブレーキもあっという間にフェード(熱で効かなくなる)してしまいます。
 
その横を、フェラーリは何の不安もなく涼しい顔をしてN-BOXの倍近いスピードで走り抜けます。

スピードを出した方が安全?

フェラーリなどのスーパーカーに羽根のようなパーツが随所についているのは、空力といって、スピードを出すほど空気の力を使って車体が安定するように出来ているため。
普通の車はスピードを出すと空気の力で車体が浮き上がるので不安定になりますが、
フェラーリはスピードを出すほど安定感が増すので安心して高速でカーブを走ることができます。

「スピードを出した方が安全」というのは、飛行機をイメージするといいと思います。
飛行機は空気の力を使って空を飛びます。

ゆっくり飛ぶ方が難しそうですよね。
速く飛んだ方が、空気から受けられる力が大きくなるためです。
自転車でスピードを出した時に、受ける風が強くなるのと同じですね。
 
普通は空気の力を受けるほど、走るのには邪魔になります。(空気抵抗)
スピードを出せば出すほど、空気が邪魔をします。なので、普通の車は空気の邪魔をできるだけ受けないような設計にします。

この邪魔する力を上に向けたのが飛行機、下に向けたのがスーパーカーやF1です。

F1が他のどんな車よりも速くサーキットを走れるのは、パワーがあるとか、タイヤが太いとか、軽く作られているとか様々な理由がありますが、まっすぐ走るだけなら実はF1よりも速く走れる車はいくらでもあります。

F1がまっすぐ走るだけでなく、高速でいくつもカーブを曲がるサーキットで速く走れるのは「本来邪魔な空気の力を利用している」から。

そしてその空気の力を利用しようと思ったら、スピードを上げることが必要になる訳です。

F1レベルになると、トンネルの中で壁や天井をひっくり返って走れるくらいに空気の力で車体を押さえつけているそうです。
 
トンネルをひっくり返って走る必要はありませんが、
実際のサーキットでは200km/hではコースアウトするけれど、250km/hなら曲がることができる、といったケースもあります。
(細かい数字は忘れました。)

これはN-BOXにはふんぞりかえっても真似できないことです。

フェラーリはそこまでではありませんが、スピードを出せる領域ほど性能を発揮できることは確かです。

またそのためには、万一コースアウトしても怪我をしないように安全エリアが十分に保たれていたり、ヘルメットや防炎服、頑丈な運転席になっていることが条件として忘れてはいけませんよね。

N-BOXがえらいのか、フェラーリがえらいのか。

さて、相変わらず長くなってます。

では、
「じゃあN-BOXよりもフェラーリの方がやっぱりすごいのか。」
とか、
「どうせサーキットなんて走らないから意味ないやん。」
とか、そういう話ではないんです、とりあえず。

N-BOXの扱いやすさや経済性、故障の少なさ、も、
フェラーリのサーキットでのスピードや安定性、も、
どちらも「特性」でしかありません。

サーキットにN-BOXを持って行って全然速く走れないからと、ホンダに文句を言ってもしかたないのです。そもそも、そういう作りではないのです。

フェラーリに乗ってる人が、「買い物に行くのが大変だし燃費悪いからこれはダメな車だ。」と言うこともありません。

それぞれの「特性」を知っていて、それに合った使い方をしているからです。

道路には他にも、軽トラから20tダンプ、トレーラー、観光バス、ジープ、高級車、バイクも走っています。

N-BOXとタントを比べることはあっても、軽トラと観光バスを比べる人はいないでしょう。

これらはすべて「特性」が異なるため。

特性に合った場所や環境で、その能力を発揮しているだけのこと。

発達障害はフェラーリ?

ここまで書いておいて、誤解しないで欲しいのは、
「じゃあ発達障害はみんなフェラーリだから才能がある!」
とか、そういうことではないんです。

上に述べた通り、N-BOXもフェラーリも軽トラも観光バスもダンプも特性が異なるよ、という話。

でも、たとえばサーキットまで行かずとも、高速道路やバイパスなら、狭い住宅街や砂利道よりも走りやすい車が多いですよね。
これが、言ってみれば「基礎的環境整備」。
 
多くの人が通る道は、出来るだけ広くて見通しが良い方がいい。

その上で、細かい脇道に入ることが多い配達の車なら軽トラックの方がいいでしょうし、人をたくさん乗せるならバスの方が良いわけです。

N-BOXを目指さなくてもいいよ、ということ。

今の日本社会で、多くの人にとってN-BOXが都合いいですが、世の中全部N-BOXになっちゃったら、それはそれでうまく行かないし、
フェラーリ、ダンプやバスがN-BOXになろうと頑張っても「特性」と合っていなさすぎる。

運転技術を向上させれば、大きな車体でも狭い道をスイスイ走れるようになる!

というのは、まぁせいぜいアルファードやランドクルーザーくらいならN-BOXと同じ道も走れるかもしれませんが、バスやダンプには無茶な話でしょう。
何より、その道をN-BOXのドライバーは何の苦労もせずに走ってるんですよね。
同じだけ運転技術が向上したら、N-BOXはもっとスイスイ走れちゃいます。

端的に言えば、わざわざ相手の土俵にあがらんでもええやん、という話です。

一番大切なこと。

もっと危険なのは、「スピードを出した方が安定する」という特性を一般道で発揮しているのを見て、
「さすがだね!」
「その調子で頑張れば遅れを取り戻せるよ!」
という風にフェラーリを見ていないか、ということ。

そうではなく、
「狭い道はキツイけどバイパスならそこまでじゃないよ。」
「こっちの道はボコボコの砂利道で走れないから頼むよ。」
と、それぞれにとって頑張らずすむところや、頑張らずにすむ人を探すこと。
 
また、
「この機能を使えば長距離でも疲れにくいよ。」
「雪道を走るにはこのタイヤがいいよ。」
「このカーナビは大型車が通れる道を教えてくれるよ。」
と、テクノロジーを使って、「楽」なところを増やすこと。
 

生まれ持って乗ってる車は、幸にも不幸にも、乗り換えることは出来ません。
いくら大改造したり、運転の練習をしたりしても、元々にそう設計されている車にはかないません。

それでも「俺はフェラーリだけどN-BOXみたいに毎日コンビニ往復に使いたい!」「N-BOXだけどサーキット走りたい!」と言う人はそれでいいんです、とても。

「なんで俺はN-BOXみたいに上手く走れないんだ。」
「俺はいくら頑張ってもフェラーリに勝てないんだ。」
と、今、走りにくさを感じている人は、運転席からだけではなかなか自分の形や大きさ、性能といった特性を外から見ることは難しい。

「あぁ、俺はフェラーリだったのか。」
「私は、トレーラーだったのか。」
そうすると、「なーんだ!」と、楽になったり、向いていることが見えたり、目指す方向が分かったり、するよね。

それに気づかずに、明後日の方向に向かって無理をしちゃわないように。
 

そんなことをよく思うのでアルフィー。

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