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佐賀関の櫓漕ぎのレース「大漁おし初め大会」

 大分県大分市の佐賀関半島では、日本の伝統的な船の手漕ぎのレース「大漁おし初め大会」が開催されます。2020年~2022年は、コロナ禍で大会の中止を余儀なくされましたが、2023年9月9日(土)に再開されることが決まったようで、うちに案内が送られてきました。
その名も「WOC(World Oshizome Classic)大漁おし初め競技大会」。2023年で29回目の開催となります。

 「大漁おし初め大会」とは、大分県大分市佐賀関で開催される「関の鯛釣り踊り大会」の同日のお昼に催される手漕ぎの船のレースのこと。昔ながらの一丁櫓の伝馬船を漕いでタイムを競うレースで、一般的に知られているボートのオール(櫂)で水を掻いて進むものではなく、「櫓(ろ)」という長いプロペラのような道具を使って船を進ませます。

大会の案内には、こう書かれていました。

 その昔、漁民たちは手こぎの木船を懸命にこいで漁場に向かっていました。
 大漁をあげるためには誰よりも早く好漁場に一番乗りすることが求められました。そのため、船の櫓をこぐことには腕力と技術が必須の条件とされ、若者たちの間では体力をはぐくむことと船を速く進めることに懸命になっていました。
 このようなことから「おし初め」は、正月2日に新しい年の出漁初めの行事として、各地区から選抜された若者が木船を繰り出し、漁民仲間や地域の声援を受け、力と技で船の速さを競ったことが行事の始まりです。
 この大会は失われかけていた伝統文化の継承と地域の風土や歴史を後世に受け継ぐ事を目的としています。

WOC大漁おし初め競技大会実要綱より一部抜粋

 私がこのレースに出場し始めの頃は、網立て漁をしているベテランのお姉さまと一緒に出場しておりました。船を操る技術の高さといったら、そんじょそこらの男には負けないもので、海の上をすすいのすーいという感じでエンジンでもついているのか?というくらい速かった覚えがあります。今は、そのお姉さま方はこのレースからも、漁からも引退され、年々高齢化が進んでいます。そんな時代の中、参加者が減りライバルが少なくなると思いきやそうでもなく、SNSが当たり前になってきた近年は若い方の参加も増えてきています。また、チーム分けも、老若男女分け隔てなく出場できるように改定されたため、出場者も観客も大変に盛り上がるようになりました。

 さて、このなかなか聞きなれない「櫓」を使った船についてですが、「櫓」というのは、櫓腕(櫓を操る部分)と、水に浸ける櫓脚(平たい水をかく部分)に分かれた長いプロペラ状のもので、これを船に装着して使います。「櫓」の三分の一ほどの場所に凹みがあり、そこを船の後ろにある櫓べそと呼ばれる凸部分にはめて(この大会では一丁櫓なので、船の後方に櫓べそがついている)、そこを起点として水の中に浸かっている櫓脚を八の字を描くように動かして推進力を得て船を進めます。プロペラの原理と同じで、水を八の字に掻いて浮力を起こすとともに前に押し出す力を発生させて船を進めるのです。この推進力を櫓腕(櫓を操る部分)でうまくコントロールする必要があり、初心者はまず「櫓」の扱いと水の抵抗に慣れることから始まります。(宮崎駿のアニメのどこかにちょこちょこっと出てきたような記憶があります。手漕ぎの船のシーンを覚えている方なら、ああ、あれか!と思えるはずです)

漕いでいる様子をはたから見ると簡単そうに感じるのですが、これがなかなかコツがいるのです。ボートだと、オール(櫂)を使って水をかいて進みますが、「櫓」は海水を操ると言ったほうがイメージが湧きやすいかと。面白いことに、「櫓」で漕ぐためには、単に力が強ければ良いというものではないのです。「櫓」の先をうまくコントロールして推進力を得るコツがつかめなければ、力だけ入れたとしても永遠にぐるぐると回り続けて全く進まないということだってあるのです。

私も初心者の時は、どうしても腕の力だけで漕いでしまい、力んでいる割には進まず、腕だけが筋肉痛になっていました。

 どうやったらうまく漕げるのかしら?と思って、練習時に上手な人の漕ぎ方を観察してみると、どうやら体の中心(おへそあたり)を基点にして前に後ろにと全身の体重移動で櫓をコントロールして漕いでいるようです。そして、自分が漕ぐ位置(足元)や櫓の持ち方、力のかけ方の癖など、自分自身の身体の動きを熟知している人は、状況に適応して漕げるのではないかしら、と感じました。そして、ある程度うまく漕げるようになると、おなか、背中、太ももが筋肉痛になります。

 この「櫓」漕ぎのレースの一週間ほど前から、練習用に佐賀関漁港に船が四隻準備されます。大会当日も、この四隻の船で競うので、どの船に当たってもいいようにみんな必死に練習に励みます。
 この練習時に、田舎ならではなのか、運が良ければ近所の漁師のおいちゃんが船に同乗して漕ぎ方を教えてくれることがあります。あ、おいちゃんではなく、ベテランのお兄様💛が、実践してご指導くださいます。

お兄様が檄を飛ばしておっしゃるには、
「櫓が外れたら、流れを使って櫓べそに戻す」 おぉ~ためになります!!
「バックもできる」 おぉ~すごいぃ~
「漕ぎ方は人それぞれなので、漕ぎやすい方法で」 おぉ~???
日が暮れる頃には、なかなか上達しない我々に残すお兄様のお言葉は、「最後は自分なりに体得しなさい」ってことで、〆られます。自分でコツをつかむしかない、ということなので、実践あるのみ、が結論です。

初心者の練習の順番としては、
① まっすぐ進む。
② 右に曲がる。
③ 左に曲がる。
④ 自分の行きたいように舵が取れる。
⑤ 船を早いスピードで進めることができる。
⑥ バックができる。
の流れで進めていくことをお勧めします。

 2度ほど女子の部で優勝した経験がありますが、たいてい欲のない時に入賞できるようで、入賞を狙って漕ぐとかえって焦ってしまい、かけなくても良いところに力が入りうまく漕げなくなるというのが今までの経験から分かったことです。
ですので、今年の出場が叶うのであれば、毎年の合言葉、
「まっすぐ進んで綺麗に曲がってまっすぐ帰る」
を目標にして完走したいと思っております。

櫓漕ぎの練習の様子

2014年大漁おし初め大会(男子の部)の様子

2023.08.12

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