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モンゴルときもの旅日記⑦~モンゴルで『月刊 岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(4)~

ようやく着付けと写真撮影が終わり、お待ちかねのバンシタイツァイをいただく時間がやってきた!
零下24度の外から戻ってきたみんなに、あったかぁ~いバンシタイツァイがふるまわれた。

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👘モンゴルときもの旅日記⑥~モンゴルで『月刊 岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(3)~

バンシタイツァイを日本語に翻訳すると、バンシがミニ餃子で、ツァイは茶の意味なので、「ミニ餃子入り茶」となる。
「ミニ餃子入り茶」の実物がこれだ。

バンシタイツァイ(ミニ餃子入り茶)

え?写真に写ってるの、お茶じゃないじゃん!スープじゃない?

いやいや、これはモンゴルではお茶なのである。

スーテイツァイは、「スー(乳)」「テイ(が入った)」「ツァイ(お茶)」でミルクティー。
バンシタイツァイは「バンシ(ミニ餃子)」「タイ(が入った)」「ツァイ(お茶)」でミニ餃子入り茶。

家畜の乳と茶葉を煮立て、その中にミニ餃子とジャガイモを入れて煮る。味付けはシンプルに塩だけ、という作り方をするお茶なのだ(家畜の脂を入れるお宅もある)。

バンシタイツァイを作ってくれているゲルのお母さん

他にも〇〇ツァイがいくつもある。代表的なものが、バンタンツアイ(ミニ餃子入りお茶)、ゴリルタイツァイ(小麦粉の練ったものが入った茶)、ボダータイツァイ(ご飯入り茶)。

茶葉と家畜の乳を合わせて煮たてたものは、すべて「お茶」と呼ぶ。茶葉を使わないものはただのスープで、それはシュルと呼ぶ別の「料理」なのである。

なぜわざわざ茶葉で煮立てたスープと普通のスープの呼び名を分けるのか。それはモンゴルのビタミンC獲得の歴史と深いかかわりがある。前回の記事で書いた家畜の乳からのビタミン獲得と同じように、冬の時期の茶葉からのビタミンC確保も生き抜くために大切なものだった。しかし、モンゴルでは茶葉の栽培は難しい(気候の面と遊牧の生活から)。

そこで昔は、中国との交易でこの貴重なビタミンCを有する茶葉を獲得していた。中国からお茶葉を仕入れる代わりに、モンゴルからは家畜の毛皮などを交換していた。2011年、私がモンゴルで暮らしていた時に知り合ったコンゴ人の民族学者からこの歴史を聞いた。彼に言わせると、シルクロードの絹の道と合わせて重要だったのは、ユーラシア大陸の北部へと続くお茶の道なのだそうだ。

中国からモンゴル、ロシアへとつながるお茶の道の文化については、「On the tea Road」というコンゴ人民族学者Gaby Bamanaの本を参照してほしい(英語版のみ。私は英語が苦手なので全部読めていない(ノД`)・゜・。)。

冬の貴重なビタミン源と身体を温めるためにふるまわれたゲルのお母さんのバンシタイツァイは、あったかくて身体に染みわたる美味しさ。バンシ(ミニ餃子)をほおばると口の中でぷりっぷりと弾む。その皮をぎゅっと噛み開くと、羊の肉汁がじゅうっと染み出して柔らかい肉の旨みが一気に広がる。スープ(お茶と言うべきだが)は塩加減がちょうどよくて、乳の甘味と塩と茶葉のほんのり気づかないくらいの苦味が合わさって、寒さで冷え切った身体にしみ込み、体がぽかぽかと温かくなっていく美味しさなのである。

「遊牧民が作るバンシタイツァイは美味しいわぁ~」
ボルガーがホッとしたような口調で漏らした。

ゲルの中でくつろぐみんな

彼女はわざわざ「遊牧民が作る」という表現をした。

どこの国でもそうであるが、伝統的な生活文化は廃れていっている。
モンゴルでも同じだ。

首都であるウランバートルは、もともと10万人が住むことを想定して作られた都市なのに、今や160万人が暮らす大都市となった。(外務省データ、2020年、NSO)遊牧文化を捨て、現金収入を得るためにウランバートルへ移り住む遊牧民は多く、後を絶たない。多くの人々が都会的な生活に憧れているのだ。

ツェギーさん夫婦は都市部で生活する機会もあったのだそう。しかし彼らは自ら遊牧民として生きる道を選び、自給自足に近い昔ながらの遊牧生活を続けている。

脂ののった羊の肉からバンシ(ミニ餃子)を作り、お茶として遠方からの旅人をねぎらう。10年前に居た時と同じ遊牧民の生活にホッとしながらも、「世の中の変わらないことは、変わっていくこと」と言う言葉が頭に浮かぶ。

ゲルへ到着した客人へ嗅ぎたばこを渡す遊牧民のツェギーさん

人間の文化が大きく変革を迎えている、ちょうどその挟間に私はいるのだと思ったら、急にバンシタイツァイが目にも染みてきた。
(つづく)

※『月刊 岩ときもの』とは、着物を着て岩場に行き写真を撮り、それを雑誌の表紙風に加工してインターネット上にアップするという活動です。紙媒体はなく、インターネット上でしか見られない雑誌で(しかも表紙ばかりがたくさん!)、コアなファンの方々からは「幻のエア雑誌」と呼ばれています。

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👘モンゴルときもの旅日記②~女子トーーク!世界の民族衣装事情~
👘モンゴルときもの旅日記③~民族衣装デールの今昔~
👘モンゴルときもの旅日記④~モンゴルで『月刊岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(1)~
👘モンゴルときもの旅日記⑤~モンゴルで『月刊岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(2)~
👘モンゴルときもの旅日記⑥~モンゴルで『月刊岩ときもの』*遊牧民のお宅で着物の着付けをやってみた(3)~

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