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第50回研究会「食べものを通じた農山村・生産者と都市・消費者の相互作用」(谷川彩月さん 安井 大輔さん)

記念すべき第50回かわきゅう研究会は、2023年11月12日(日)に、キャンパスプラザ京都で開かれました。節目の今回は、日本村落研究学会東海・関西地区研究会との共同開催となりました。お二人の報告者を招く、豪華な回でした。

今回のテーマは「食べものを通じた農山村・生産者と都市・消費者の相互作用」。本年度の日本村落研究学会の大会テーマをふまえて、「食べもの」にかかわる農山村・生産者側と都市・消費者側の取り組みについて、それぞれの問題関心に沿った視点を提示していただきました。

第1報告は、谷川彩月さん(人間環境大学 環境科学部)の「大規模経営による地域農業の持続可能性を考える:水田地帯における複合経営を事例に」、第2報告は、安井大輔さん(立命館大学 食マネジメント学部)の「持続可能な食農システムをめざすフィンランドの地域食政策と諸実践」です。

対面とオンラインによるハイフレックス方式で、参加者は会場が報告者を含めて16人、オンラインが10人でした。3時間半という長丁場でしたが、活発な報告とディスカッションが繰り広げられました。

第1報告の谷川彩月さんは、宮城県登米市をフィールドとして、「環境保全米」の普及過程の実証的研究を進めてきました。当地域は今、小規模な農業経営体が離農し、経営面積の規模拡大が進行することで、少数の担い手に水田管理が集中しています。畦畔管理といった作業量が増加することで、これまで維持してきた環境保全米の生産が危ぶまれています。今後の展望として、農協が集団的土地利用の形成を支援することが考えられます。

また、農畜複合経営によって循環型農業を実現した、「新しい小農」様式の経営体の事例を紹介されました。この経営体は、規模拡大や反収を追求するのではなく、スマート農業機械を導入することで、作業効率を高めていました。この事例は、地域農業の社会的・環境的持続可能性を支える、現代的な地域資源管理の一形態になります。

会場からは「保全の実践の先に有機に進む選択肢はあるのか?」「資源管理の意識はどれぐらいあるのか?」といった質問が出されました。さらに、分析結果の妥当性、耕地面積を拡大しないという選択肢、環境保全の効果、食味の向上、「家族農業」の定義、小農的経営と企業的経営の違いなどについて討議されました。

第2報告の安井大輔さんからは、フィンランドにおける地域食政策(ローカル・フードポリシー)についての現地調査の結果が報告されました。地域食政策とは、食を切り口に、持続可能な社会への転換を目指す諸政策です。食の多面的性格に注目し、健康、環境、社会のあり方を総合的にガバナンスします。報告では、地産地消を推進させるためのFacebookグループ(REKO)、食品ロスを軽減させ、食料アクセスを担保させる事業(Waste&Feast活動)、保育園や小学校の給食制度、市民農園やコミュニティー・ガーデンが事例として紹介されました。

地域食政策の課題として、健康・栄養・文化と環境・自然・社会の持続可能性を両立させることが困難であることをあげました。例として、給食で菜食(ビーガン、ベジタリアン)メニューを増やしたとしても、子どもたちがそのメニューを選択せず、大量に残食してしまい、環境によいとは言えないことを挙げました。また、上述した諸実践は、相互連携しているわけでなく、個別活動として実践されています。このような課題を踏まえると、地方自治体には、国家単位のフードポリシーと民間・市民の活動をつなぐ、メゾ主体としての役割が期待されます。

報告のコメントでは、伝統食に関する言説、フィンランドの地理・文化的な背景、フィンランド農業の特徴(近年は人工光栽培が盛ん)、食事への捉え方、などが話題に上がりました。食政策が立案される背景にある欧米の肥満・健康問題についても話されました。

文責:土屋憧真

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