狼少年と7匹の子ヤギ(少し残酷)

「狼が来たぞー!」

今日も元気いっぱい、男の子は叫びます。村人たちは笑います。その時、積みわらのかげから、オオカミが出てきて言いました。

「君はどうしてそんなことをするんだい?オオカミって叫ぶからてっきり呼ばれたのかと思って来ちゃったぞ。まあ、俺は純粋なオオカミじゃないがね。こうして君と喋っているし。」

男の子はびっくりしました。まさか本当に出てくるなんて!村人たちに伝えなくては!しかし、いつも嘘ばっかりついてる男の子のいうことなんて、村人は信じないでしょう。困っていると、オオカミがこう切り出しました。

「なあ、君、取引をしないか?今ここで村人の誰かを襲って食べてしまうのは容易い。しかしな、そんなことをすれば他の村が黙っていないだろう。銃で撃たれるのはごめんだ。そこでだ、俺はこの村に飼われている7匹の子ヤギを毎日1匹ずつ食べることにする。そのままヤギの小屋に近づいても母ヤギに見つかってしまう。あの母ヤギは苦手なんだ。そこで君の出番だよ。大事な仕事だ。」

男の子はまたもやびっくり。なんてよく喋る狼だろう。しかし断ればここで食い殺されてしまうでしょう。

「何をすればいいの?」

ごにょごにょごにょ、オオカミは男の子の耳元に囁きます。

「いいか?俺が言ったことを忘れるんじゃ無いぞ。俺の言う通りにしろよ?言う通りにできたら、俺はお前を友達にしてやろう。だが、言う通りにしなかったら、ククク。」

男の子は村長であるお父さんの部屋に忍びこみ、紙のお金を何枚かくすねてきました。それから、母ヤギのところへ行きました。

「美味しいものをご馳走してあげる。」

母ヤギはまんまと騙されて男の子について行きました。そしてお父さんの部屋に入ったところで、男の子は必死で叫びました。

「うわーん!ヤギがお父さんの部屋に入って紙のお金を食べちゃったよー!」

もちろん、母ヤギをはめるための嘘です。お金はちゃんと、男の子のポケットにあります。すると、隣の部屋にいたお父さんはすっ飛んできました。そして話も聞かずに母ヤギを捕まえると、納屋に閉じ込めてしまったのです。お父さんは聞きます。

「何枚食われた?」

「わからないよ。」

お父さんは必死の形相で数えます。

「大きなお金が7枚、無くなっている。まったく、やってくれるな!今度から部屋に動物が入らないように気をつけるんだぞ!それにしてもムカつくヤギめ!市場に売り飛ばしてやろうか。」

男の子はきつく叱られて、とぼとぼと村の外れの方に行くと、あのオオカミが待っていました。

「よくやった!お前もなかなか勇気のあるやつだ。俺の友達として認めてやろう。これで邪魔ものは消えたな!母ヤギが納屋に閉じ込められた今、子ヤギたちを狙うのは容易い。紙のお金は俺が持っておく。両替えしたらちゃんとお前に渡すからな。」

男の子はなんだか複雑な気持ちです。元はお父さんのものですから。ですがオオカミに「勇気のあるやつ」と褒められて、ちょっと鼻が高いのです。男の子は今までに一度も褒められたことなんてありませんでしたから、嬉しかったのです。オオカミはうーんと唸りました。

「次なんだが…、いや、これはいくら勇気があって頭のいいお前でも、できるかどうか…」

「言ってみてよ、何をすればいいんだい?」

「ほほ、やる気になったようだな。次はだな、ごにょごにょごにょ。」

オオカミはまた、耳打ちします。

「じゃあな、健闘を祈る、俺の友よ。うまくできたらお金をやるからな!」

男の子は子ヤギの1匹を連れ出そうとします。子ヤギは聞きます。

「お母さんは?」

男の子は泣きながら答えます。もちろん嘘泣きですが。

「君たちのお母さんは馬車にひかれて死んじゃったんだよ。とってもいいヤギだったのに、ああ、胸が張り裂けそうだ!君たちはこれから、市場に買われて行くんだ。1番年上の君、君には買い手がついた。さあ、行こう。」

子ヤギたちはびっくりしました。しかし、お母さんがいない今、新しい買い手にもらわれて行くほかないことを納得しました。今回も大成功です。

オオカミは舌なめずりをして待っていました。

「素晴らしい!ゆくゆくはどんな大人物になるか楽しみだ。俺はお前が恐ろしいぞ。」

そして、男の子が騙して連れてきた子ヤギをペロリと食ってしまいました。オオカミは報酬として、どこから両替えしてきたのか、コインを渡しました。元はと言えば男の子がお父さんからくすねてきたお金を両替したものです。この調子で男の子は子ヤギをオオカミに差し出し、コインをたんまりもらいました。自分の欲しいものを買ったり、村の子どもたちに小銭をバラまいてガキ大将になったりしました。母ヤギの閉じ込められている納屋の側を通る時、わざと村の子どもたちに自慢しました。

「市場で子ヤギを売ってお金をたんまり手に入れたんだよ!お前たちも賢い僕を見習うがいい!」

もちろん、これは嘘ですが。すると村の子はびっくりします。

「市場?ここからはすごく遠いいのに。それに、この村から市場へ行く途中には人食いオオカミが出るって父ちゃんが言ってたぞ?」

男の子は答えます。

「へへ、僕しか知らない、オオカミに狙われない抜け道があるのさ。そこを通って市場へ行ってきたのさ。」

「へえ!知らなかった。君は賢いんだなあ。」

男の子はますます尊敬を集めました。こうして、6日経ち、子ヤギは残り1匹になりました。

しかしやがて、男の子のお父さんは不思議に思いました。飼っている子ヤギが毎晩、次々と消えてゆくではありませんか。首をかしげていると、納屋に閉じ込めたあの母ヤギが、呼び止めます。

「旦那様!聞いてください!子ヤギたちを売り飛ばしたのはあなたの息子です!抜け道を通って市場に!それで私の子ヤギたちを売り飛ばしたのです!村の子どもたちに自慢してました!」

男の子のお父さんは聞く耳を持ちません。

「わしの書斎に勝手に入ってお金を食べたくせに何をわけのわからないことを!お前の嘘はお粗末だ。
説明してやろう。この村から市場へ、馬車も使わずに抜ける道なんて無いよ。道は一本だけで、それが最短ルートだ。わしが何十年この村と市場を出入りしていると思う?男の子がたった1人で、しかもオオカミの出る森を抜けて子ヤギを売りに行くなんて絶対に不可能だ。お前は何か聞き間違えたんだろうさ。あの子が嘘をつくなんて、そんなことあるものか。」

母ヤギは訴えます。

「お金は食べてません!本当です!あの子たちに会わせて!」

お父さんはかんかんです。

「まだ言うか。言っただろう、男の子がたった1人で子ヤギを売りに行くなんて不可能だ。お前はわしの息子に悪事をバラされたからそれを根に持ってるからそんなことを言うんだろう!」

お父さんは母ヤギを相手にしませんでした。

その夜、男の子はまた家を抜け出し子ヤギをオオカミに差し出しました。家に戻りましたが、納屋の前を通りかかった時にお父さんに見つかってしまいました。母ヤギはそれみたことかと、彼の悪事を主張します。男の子の嘘も、いよいよ終わりを迎えるのでしょうか?

「ごめんなさい!」

男の子は突然、泣き出しました。

「まさかお前!」

「僕が悪いんだ、僕が!僕が止めなかったから!お父さん、とっくに母ヤギを売り飛ばしたと思ってたんだ。市場に売られたんだと。」


「そう言えばそんなこと言ってたな。反省したら出してやろうと思って納屋に閉じ込めてたんだ。」

「子ヤギたちに、お母さんは売られたって話したら、探しに行くって言って、市場に向かって歩いて行っちゃったんだ!僕、どうしていいかからなくてでも、森にはオオカミが出るし子ヤギさんが危ないから、やっぱり助けに行こうと思って!」

男の子は泣き、お父さんは慌てて慰めます。よしよし

「お前は優しい子だ。危険をかえりみず、子ヤギを探しに行こうとするなんて。それにひきかえ、お前はなんて悪いヤギだろうね!こんな優しい子に濡れ衣を着せようとするなんて。こんな小さな子が、市場までたどり着けるわけがないだろう!森を抜けようとしたところでオオカミに食べられてしまっただろうよ。」

こんな風に言われて母ヤギは、何を言っても無駄だと諦めました。しかし、妙にふに落ちないところがあって考え込んでしまいました。お父さんは男の子の頭を撫でます。

「よしよし、わしに任せなさい。きっと子ヤギは探してあげる。お前は森に行ってはいけないよ。オオカミが出るから、明日、わしが探しに行くからね。もう、寝なさい。」

男の子は部屋に戻されました。その一方、母ヤギは夜の間に必死に力を振り絞り、納屋を脱出してしまいました。そして子ヤギたちを探しに、暗い森へと入って行きました。

翌朝になりました。するとどうでしょう、母ヤギが、7匹の子ヤギを連れて村に帰ってきたのです。その姿は、今までに見たどんな英雄よりも誇らしげです。子ヤギたちはひとまわり大きくたくましくなったような気がします。その様子を、男の子は、あんぐりと口をあけて見ています。

母ヤギは言います。

「あなたの言った通りだったわ。この子たちは私を探しに森へ入ってしまったのね。でも、良かった。こうして無事に。探し出すことができたわ。ありがとうね。あなたのおかげだよ。」

そして森の中でオオカミに襲われそうになったこと、勇猛果敢にオオカミに立ち向かい、倒したことなどを話しました。オオカミを気絶させ、腹を裂いて子どもたちを助け出したこと、代わりに石をつめて再び縫い合わせたこと。最後に、オオカミは水を飲もうとして井戸に落ちたことなどを。男の子のお父さんも、村人も、目を丸くしてその話を聞いています。

しかし、1番驚いたのは、男の子です。子ヤギは母ヤギを探して森に入ったのではありません。男の子に騙されて、とっくに、オオカミに食べられたはずなのです。

その時、奇妙なことに気がつきました。子ヤギや母ヤギの背中に、縫い目のような、赤いあとがあるのです。子ヤギにしてはあまりにも大きすぎるし、ふさふさのしっぽは長すぎます。その目はどこかうつろで、まるで何かに食いちぎられたような跡が。

母ヤギはにっこり笑うと、男の子に近づいてきました。そしてオオカミの声で耳元でささやいたのです。

「食うものがなくなったから、次は村人全員だ。安心しろ、仲間にはお前の命だけは狙うなと言ってある。」

次の瞬間、8匹のオオカミ達は、着ていたヤギの皮を脱ぎ捨て、村人たちに一斉に襲い掛かりました。

〈終〉

こんなんですいません笑

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