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詩集

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練習帖ですが、よければご覧ください。
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記事一覧

母の姿

春の日溜まりで 色とりどりに咲く 窓辺のパンジーを 体を縮めて見ている 母の姿 強い日差しに照らされ 光り輝く いつかは消えゆくその姿 私がこの世を去るときに この一時も連れて行こうか うららかな春と一緒に

夢の丘

夢の月の丘は まあ、きれいなバラの花が 咲き乱れていること あのきれいな人の 白く細い腕 穏やかな川が 真珠色に輝いている なだらかな芝の丘の 月の光よ まどろみの中で それは一つになるだろう 鏡の破片を 一枚の鏡にするように 夢よ 不在の私をいつも何処へと つれてゆくのだ

春の夕暮れ

春の夕暮れ時 橙色の街灯の下を 勤めを終えた人びとが 緩んだ空気の中を おのおの向かうべき場所へ 歩いていく カフェへ? 愛する人のもとへ? それとも孤独の中へ?   春の浮き浮きした雰囲気に 人びとは溶け合いながら 春の夜の一つの情景になっている

春の歌

自由の歌を歌いませんか 涼しい木陰の やわらかな小道で 大きな酒樽を沢山積んだ 馬車の周りに集まって 緑や青のペンキを顔に塗った髭のじいさんや 頬が紅色に染まった女たちと一緒に ああ、風は青い山に吹くし 花吹雪が犬小屋に吹き込んでいる 春の歌を歌いませんか 今はいっときの悲しみはどこかに忘れて

春の朝

昨夜 春の嵐が 窓のシャッターをうるさく鳴らしていたが 今朝 嵐は去って  静かな朝だ ときおり思い出したような風が 竹林の間に吹き 音を立てている 空は晴れわたり まるで春が たった今 つぼみのようにいきいきとふくらんで 花ひらく準備をしているかのようだ

草原の音楽

月光が照らす草原で 二人の男が座ってる 一人はギターを抱え もう一人は太鼓を抱え 一人は石の上に座って もう一人は草むらに胡座をかいて 一人が太鼓を打ち鳴らし もう一人はギターを爪弾いた 音楽がさざ波のように 草原を駆け巡った 最初に馬が寄ってきて 次に野ウサギが茂みから飛び出した 色んな愚かな鳥が空から飛んできた あれはなんだ あれは死んだ弟だ あれは 見知らぬ人の魂のボロ布だ 足もとの小さい円が 徐々に大きくなって  円は男たちをすっぽり囲んだ 円は下がっていく 舞

眠れない夜に

眠れない夜は 夜中にスマートフォンを見るのはやめましょう お風呂にゆっくり浸かりましょう 瞑想をして アロマを炊いて アイマスクをしよう いいベッドを買おう いい枕を買おう いいパジャマもいいかもね 夜10時には布団に入って 朝は5時には起きよう 午前中の太陽に当たるとセロトニンが出ます そう、セロトニンが セロトニンが セロトニンが 朝起きたらモーニングルーティーンします モーニングルーティーンを します それからミックスジュースを飲みま

〈詩〉大きな木

春の息吹とともに小さな芽が 他のたくさん生まれる芽の中に混じって ひょっこり顔を出した さんさんと太陽を受けた静かな土地の 最後の光が落ちる時 父親の固い意思のような風と 母親の愛撫のような夕陽を浴びて その芽はやがて立派な大木になった 汽車が汽笛を鳴らす時、大木はざわめいた 大木はどんな風雨にも酷暑にも耐えた 大木の木陰でいくらかでも涼もうと 子供たちがやって来た 「ほらそっちだ」 「走れよう」 子供たちはボールを投げて、打っては、走った 遊び

〈詩〉ドロスの世界

永遠の中の瞬間に 雪がちらちら舞って 黄金の木から羽ばたく夢来鳥 手探りで探し出した埃まみれの扉 開けるとそこには鏡 ああ、哀しき人間のさが 洞穴の松明の火に 照らされた壁画 果てなく続く夜の大地 銀色に輝くタワー 遠近法の直線の上を 曲芸師が渡って行った

誇り

「お前はいつも洗うときの右脇と左脇の綺麗さが平等じゃないんだよ」 車が言った。 「いったい、いつになったらこの俺をピカピカにして、みんなの前で誇らしく走らせてくれるんだろうか」

海の音楽

浜に降り立つと 海の轟が 頭の中をつんざいて 目を見えなくし うまく聞くことも出来ずに 頭をくらくらにさせる それが カリフォルニアの方から聞こえてきて 約六十年前の トランペットのかすれる音や ヒッピーの歓声や 黒人の教会の賛美歌の音が いっしょくたになり カラフルな色彩を帯び 長い年月を経て たった今 海の音楽に変わったんだ

お母さん

お母さんが あなたに与えられることはごくわずか でも ご飯の支度や 幼稚園に連れて行ってあげたり お話も聞いてあげられる 将来の夢の計画も、どんなお母さんにも負けない あなたがお母さんとの思い出を忘れても お母さんはずっと記憶に留めていられる あなたが体調を崩さないように見守っていられる だからお母さんは悲しい 愛とは何か知らないことが あなたがお母さんの背中に腕をまわして ぎゅっとしても、お母さんの心はからっぽのまま おかえしに、何かあげたいとは

〈詩〉23:12分

23:12分、海は暗闇に紛れて 荒々しく、ただ荒々しく 白波が砕け散るのを見た 空には幾万の星の光が輝き 宇宙が巨大な口を広げて 退屈そうに 待っている でも今、空はアーチ状になって 小さなプラネタリウムに見える 僕は車の傍らで 煙草を吸って、煙を吐く 吸って、吐く という運動 呼吸は海の満ち引きのようで 宇宙の膨張のようでもある それらの揺らぎは 誰も知らぬ間に遂行される 夜はそんな秘密を隠して 僕に教えてくれる    

ある別れぎわ

「じゃあまたね」とあなたは言った あなたの影は優しく伸びて タクシーのきらびやかなホイールに反射して 虹になった