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[ライブレポート]JUNKO ONISHIが見せる景色

11月13日、JUNKO ONISHIが自己のオーケストラを率い、かわさきジャズに帰ってきた。

 メンバーの作曲能力を最大限に生かすラージ・アンサンブルって?敢えて大編成をプロデュースする意味とは。伝統を重んじ、且つダイナミックに躍進する彼女が、ミューザでどんな景色を見せてくれるのか。現代のラージ・アンサンブルについては、2019年のジャズアカデミー【ジャズ・オーケストラの未来】(http://kawajazz.sblo.jp/archives/201910-1.html)を、参考にしていただきたい。
 
この中で「作曲家とは漫画でいえば原作者、インプロヴィゼーションを任されるプレイヤーはアニメーターや声優。彼らがその世界観を自由に表現することで原作を越えるアニメ作品が誕生するように、作曲家はプレイヤーに託すことで、楽曲の更なる高みに期待する」と書いた。
 
プレイヤーでありながら、作曲をもこなすツワモノを多く抱えるオケなら、リスナーだって期待は大きい。

鉄壁のカルテット

ステージ左に大儀見(perc)と吉良(ds)を配し、軸となる井上(b)を挟んで大西(Pf)が待ち構える。ミューザの地底から唸りを上げるベースを取り巻くように、3人の打楽器は縦横無尽に駆け回る。大西のグルーヴを違和感なく増強するパーカッションを得たことで、ラージ・アンサンブル実現に繋がったのか。

吉良の挑発的なドラミングは大舞台でもひるむことなく 大儀見との炸裂するDuoを披露。まるで風神雷神の熱演に息を弾ませる大西だったが、その豊潤なピアノは、淀みなく湧き上がった。

多彩な鳴り物が、 “Wind Rose” の郷愁を誘う。かと思えば、荒ぶる倍テンの景色へと変幻自在だ。即興を緻密に反映できるのが小編成の利点である。息の合ったカルテットの妙技を存分に楽しませてもらい、オーケストラへの期待はますます高まる。

バラエティ豊かなショーケース

第二部は、バンド全体を見渡す若井(Pf)に対し、大西が絶賛するゲストのスガ(Pf)は、客席に音を向けた格好だ。大儀見に替わり岡本が登場してドラムとパーカーッションとが向かい合い、その横に馬場(Gt)を配置。背後にホーンセクションもスタンバイして、大西順子 Presents オーケストラが全貌を現した。

プロデューサーに徹するためと、若井とスガを紹介した大西は一旦、舞台裏に消えた。
 
スガのダイナミックな演奏は上層階やサイドからもよく見える。行け!行け!と背後のホーンに鼓舞され、スガは一心不乱に疾走する。超絶技巧のギターがミューザの天井を突き抜け、それを追うホーンは高らかに鳴り響き、呼応しあう響きは美しさを増しながらホール全体に染みわたった。ライブハウスでは叶わない、ミューザだから成し得る体験だろう。若井とスガのP×Pバトル、岡本と吉良の丁々発止なども、眼からも十分楽しめた。

若手にチャンスを

大西の哲学はホーンセクションにも注がれる。セクステッドを組む吉本と広瀬が中心となり召集されたホーンは、若手ビッグバンドを率いたり、学生バンドにコンテンポラリーを書くなど血気あふれる若手も多く含まれる。その楽曲を演奏している筆者には、年齢以上に身近な存在に映った。分厚いアンサンブルに進境著しい若手を取り込むことで、ユニークさはより深まる。大西氏の「いつかはラージ・アンサンブルを」との思いは、コロナ禍が要因となって早くに結実したのかもしれない。

独創的な響きでアンサンブルを彩る

楽器編成や音の重ね方、ユニゾンそしてハーモニー、ソロイストの演奏スペースの広さやアドリブ展開の自由度など、現在進行形のNYサウンドそのもののようだ。

大西氏の好む重厚で心地よい低音がスウィングする中、ホルンの豊かな響きや木管の幻想的なハーモニーが層を成し、クラシックファンにも刺さるであろう展開が続く。“オオタニ” の出現によって、伝統と革新のはざまで揺れ動く大リーグを尻目に、多様性を武器に発展してきたジャズは、いまも飄々と前に進んでいる。

推しを見つける

井上陽介(b)、吉本章紘(Sax)、広瀬未来(Tp)、池本茂貴(Tb)らは、作曲や編曲にも果敢に取り組むプレイヤーだ。個性際立つ、みずみずしい楽曲をこれからも期待したい。
 
若井との連弾という形で最後に大西も加わって、荘厳なピアノサウンドが繰り広げられた。広瀬の掛け声で舞台と客席とが一体となる。鳴り止まない拍手は、挑戦者たちを鼓舞し続けていた。

Contemporary Jazz というスタイル のきっかけは、第二次世界大戦だ。歴史と共に進化した当時を知るレジェンドから薫陶を受けた大西がいま伝えたいこと、その想いは間違いなく聴衆にも伝わったに違いない。
 
挾間美帆をいち早く紹介してから僅か3年で、“純国産” の本格的なラージ・アンサンブルが誕生し、この場所から発信されたことに、何よりも感銘を受けた。


 
Text by 坂井奈々香(かわさきジャズ公認レポーター)
     坂井広美(かわさきジャズ公認レポーター)
 Photo by 藤本史昭

公演概要

かわさきジャズ2022
JUNKO ONISHI in Kawasaki
2022年11月13日(日)@ミューザ川崎シンフォニーホール

More Info

セットリスト

【1部】
Harvest! Harvest!
Charlie The Wizard
Un Dia de Cielo Azul
Tridacna Talk
High Tide -Low Tide
Kippy
Wind Rose

【2部】
Rise's Triangle
Blue Flower
Suite Estaciones
Won't Cry No More
Jungle Run
Both Sides Now
Manteca

In Need
Naughty Ghost