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[ライブレポート]11/11「Senzoku Jazz Heritage Vol.5 金管楽器とジャズ」その喜びを金管に託して

Senzoku Jazz Heritageシリーズは、2018年のビッグバンドジャズを皮切りに2019年のレジェンド・ジャズ・ボーカリスト特集と回を重ね、2020年に入っても世界の音楽シーンを応援する "Never Stop The Music"や飛散防止シールドを活用した“Big Band JAM”と、洗足音大教員陣を中心にオンライン配信で世に音楽を送り続けてきた。2023年に入りようやく“Senzoku Jazz Heritage Vol.5 金管楽器とジャズ”を11月11日、洗足学園音楽大学カレッジセンター Museで通常開催できる運びとなり、その喜びを金管に託したかのようなフェスティバルとも云えるコンサートの一部始終をまとめてみた。

コンサートは4つのバンドで構成され、蟻正行義(Pf)、楠井五月(Wb)、原大力(Ds)という日本を代表するリズム隊をバックに各リーダーが3つの選曲を任されている。

蟻正行義(Pf)
楠井五月(Wb)
原大力(Ds)

中西暁子(Tp)率いるセクステットは、洗足学園音楽大学Jazz Brass GUMBOを意識してかディキシーランド・ジャズのレパートリーが並ぶ。原曲はコルネットとトロンボーン、クラリネット、ピアノ、そしてリズムセクションに深みを与えるバンジョーという編成だが、リズム隊の3人がバンジョーの役割をも担う。特にピアノソロではリズム隊の反応が増し、ピアノがベースとドラムを鼓舞するかのような躍動感あふれる表現はさすがとしか云いようがない。青年期のルイ・アームストロングが活躍した頃のスタンダードに加え、ニューオリンズ・ジャズを継承するウィントン・マルサリスでもおなじみの「2nd Line」で華やかに締めくくられた。軽やかなステップを踏みたくなる独特の明るさは幕開けに相応しく、教員と学生が織り成す一体感がいっそう微笑ましく映った。

中西暁子バンド:中西暁子(Tp) 森千颯(Ts) 榎土潤(Tb) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)  
中西暁子(Tp)

西村健司(Tb)バンドは、ジェリー・マリガンのバラードで始まり、2曲目からは石川広行(Tp)が加わって、トロンボーン奏者カーティス・フラーとアート・ファーマーへのオマージュを感じさせた。トランペットとトロンボーンの相性が良いのでその点に注目して欲しいと語る西村、フロントが少なく小編成が多い昨今、こういったバンドをもっと聴きたくなった。最後は有名なスライド・ハンプトンのアレンジバージョンで締めくくられた。

西村健司バンド:西村健司(Tb) 石川広行(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds) 
西村健司(Tb)

石川広行(Tp)バンドが一番個性的だったかもしれない。トランペット奏者ウディ・ショウがハンガリー出身の作曲家に影響を受け書いたという曲に始まり、作曲家イヴァン・リンスのブラジリアンの香り漂う「Love Dance」へと続く。ウディ・ショウがライブで取り上げられることは少なく、素晴らしい楽曲がまだまだあることを知って欲しいと選曲したのだそう。業界内でも研究熱心で知られるミュージシャンの熱演に、観客の応援はひときわ大きかった。最後にカナダ出身でロンドンに渡ったトランペット奏者ケニー・ホイーラーを取り上げる。豊かな倍音をもち、そのフレーズのユニークさ、美しい旋律を得意とするところなど、石川先輩のメッセージを十分に受け取れたような気分に浸った。

石川広行バンド:石川広行(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)
石川広行(Tp)

トリを飾るのは、これまでたくさんの卒業生を世に送り出し、芸術としての“Jazz”を先頭に立って追及し続ける原朋直(Tp)教授のバンドだ。ジャズにエレクトリック楽器を持ち込み、フュージョンという当時の革新的ジャンルの先駆けとなったマイルス・デイヴィスの曲で始まる。学内ではマイルスのみを取り上げた“ジャズ作品研究”の授業を担当しているだけあって、曲全体から発せられる説得力が半端ない。どこかで聴いたフレーズは忘れ、無地のキャンバスに筆を無作為におろす気持ちで絵を描くようにインプロヴィゼーションすると指導されるのだが、その日々に決して終わりが無いことを思い知る。最後はマイルス・デイヴィスの思索的なプレイと今年惜しくも亡くなった独創的で卓越した作曲スタイルをもつ伝説的サックス奏者ウェイン・ショーターの代表作で締めくくられた。

原朋直バンド:原朋直(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)  
原朋直(Tp)

ラストは出演者全員に加え、管楽器コースの学生であるホルン、チューバ、ユーフォニアム、トロンボーンが加わり、原朋直作曲、ユキ・アリマサ編曲のオリジナル「Brass Band」を披露。観客も手拍子で参加して賑やかにお開きとなった。


Text:坂井奈々香(かわさきジャズ公認レポーター)
Photo:Tak.Tokiwa

●公演情報

Senzoku Jazz Heritage Vol.5 金管楽器とジャズ
日時:2023年11月11日(土)開演18:00
会場:洗足学園音楽大学カレッジセンター Muse

●セットリスト

中西暁子バンド:中西暁子(Tp) 森千颯(Ts) 榎土潤(Tb) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)  
01. Muskrat Ramble
02. Big Butter and Egg Man
03. Second Line

西村健司バンド:西村健司(Tb) 石川広行(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds) 
01.Tell Me When
02. Two Quarters of a Mile
03. You Don’t Know What Love Is

石川広行バンド:石川広行(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)   
01. Zoltan
02. Love Dance
03. For Tracy

原朋直バンド:原朋直(Tp) 蟻正行義(Pf) 楠井五月(Wb) 原大力(Ds)  
01.In A Silent Way
02. Nefertiti
03. E.S.P.

出演者全員 管楽器コースの学生
01.Brass Band
作曲:原朋直 アレンジ:ユキ・アリマサ