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ロボットコンテストで見た息子の成長

 息子が小学5年生の頃。夫が審査員を務める、地域のロボットコンテスト(通称:ロボコン)に好奇心を抱き、参加したがった。
 2人一組が基本で、小学生は親子で参加する子も多かったけど、息子は同級生と参加することにした。
 与えられた最低限の道具に、条件内でならプラスしても良いけど、息子の友達も息子も、なかなか特別なアイディアが浮かばないようだった。
 日々、ウチで待ち合わせては、二人で作る。
 でも元々、学校から帰ったら一人で遊ぶか、私と遊ぶかを選ぶタイプの息子。仲が良い友達とも、あまり遊びたがらない。
 毎日のように友達が来る状況に、息子は段々ストレスをため、苛立ちを募らせていった。さらに息子にとって不運なことに、その友達は参加したいけど作ることには非協力的であった。不器用な息子は当然うまく作れず、苛立ちはますますひどくなる。ケンカも繰り返すし、見ていてハラハラした。

 私は自分の気持ちに耐えきれず、夫に聞いてもらう。でも夫は「そうかそうか」と言うばかり。
 わかっていた。親が手伝うのは、夫の本意でない。私だって、そういう方針ではない。それで息子が失敗したとして、恥ずかしい思いをするのは見ている私なのであって、息子は自分で作ったものの責任を負わなければならない。手伝うのは違う。きっと手伝おうとしても息子のことだから、全力で抵抗するのは目に見えていたけど。
 こんなんで良いのだろうか。
 夫は審査員なのに。息子がひどい出来で恥ずかしくならないのだろうか。「失敗するならしたら良いんだよ」と、投げやりでなく、夫は微笑みながら言っていた。

 ロボコン間際になって、息子と息子の友人は、決定的な大喧嘩をした。どうひいき目に見ても、息子が悪いとはとても思えなくて、横で見ていて私が泣きたくなった。


 当日。
 朝会場に着き、何度目かの試運転の段階で、息子の作ったロボットが動かなくなってしまった。考え方だけでなく、造りそのものも甘かった。
 夫は「ああなるほどねえ」とその実物を見ながらつぶやいていた。

 結果は0点。最下位。

 それでもかんしゃくの時期をようやく抜けていた息子は、帰り道、ただ黙っていた。誰も責めないけど、息子はずっと車の外を見ていて、もうそれで充分だった。


 それから数年後。
 中学の部活で、息子は参加した。
 部活内で繰り返し、入念に打ち合わせをしていた。取り掛かる前のアイディアを出し合う。それを形にする。実際に作っては試行錯誤。どのように動くか。
 やはり2人一組だから、組んだ相手と気の合う合わないも、どうしても生じる。
 でも部活内の全体的なムードは良かった。みんな、許された部品とサイズの範囲内でアイディアを絞り、なんとか思うように動いてほしいとそれぞれに懸命だった。
 その過程を聞いていたから、うまくいくと良いなと願った。

 夫は審査委員長になっていた。

 よーい。


 スタート!
 合図と共に、息子のロボットが動き出す。

 発達のゆっくりだった息子は、当時、女子たちに理解されにくかった。
 それでも同じ部活の男子たちは仲が良かったようで、「落ち着けよ」「集中」などと声をかけて応援してくれた。「行ける、まだ行ける」「ガンバレ!」と言葉をかけられ、表情を変えずに黙ったままロボットを動かす息子。本当は緊張しているのが伝わってくる。緊張していても、操縦している。ロボットも、組んだクラスメイトの指示通り、動いている。一度失敗してこぼしても、またやり直す。

 一回戦を勝ち抜けた!
 みんながトーナメント表を見に行く。
 精巧なロボットを作っているチームは、スピードも正確さも優れ、勝ち抜いている。

 次もギリギリで勝った。
 息子のチームはベスト8まで行けた。


 最後に夫が、大会評を述べた。
 そしてそれぞれの賞をもらったロボット、一つ一つの工夫を称えていた。夫らしいなと思いながら聞いた。時間がなくなって段々言葉が短くなっちゃったのも含めて。
 終わってから直接、息子に「よくやったね。面白かったよ」と伝えていた。

 息子は、ロボットを作るのが大好きなわけではなさそうだ。
 その後、そちらの道に進む気配はまったくない。
 でも以前は、友達とケンカしながら最下位だったのだ。その数年後、仲間と協力し、工夫して作ったロボットで挑戦できたのは楽しくて、たくさんのものを得た体験となっただろう。

 写真の中の息子は、友達たちと顔を見合わせ、晴れやかな笑顔を見せている。

#エッセイ #ロボットコンテスト #ロボット作り #子供  

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。