書店の今後
こちらのニュースを見ました。
このニュースが流れると、関連して本屋に対する支援策のアイディアが色々と流れてきました。現場の人から消費税についてとか、図書カードを配るとか、流通に関して本屋の取り分を増やすとか。
ただ正直言うと、そういう問題じゃないと思っているのです。そもそも論として、未来の本屋がどうあるべきかということが、論じられていないからです。どんどん数を減らしていくリアル書店を保護しようという話になっている。
特にここで問題になるのは、語る人のイメージと実態がずれていることだと思うのです。この場合守るべきとイメージされている「本」はエンタメ系ではありません。週刊誌とかでもない。
ところが、本屋の経営は、この辺りのジャンルの売り上げによって支えられていました。本屋の店頭で並べられていた、漫画、ファッション、ゴシップ系の雑誌。漫画単行本にライトノベル。文芸ではミステリーぐらいまでですかね。ぶっちゃけて言えば、他の「本」はそれに寄生していたのです。
週刊誌やファッション誌などの情報は、ネットで得られるようになりました。漫画も先週こちらに書いた通り、電子書籍へのシフトが順調に進んでいます。現在のリアル書店の苦境は、売れ筋だった物以外の適正な需要に向かって縮んでいっているからだとも言えるわけです。なので「減っているから保護しよう」はおかしい。考えなければいけないのは、そういうものを取り除いた時に、実体のある本を売る本屋でなければいけないものは何なのか、ということだと思います。
手厳しいことを書いていますが、僕自身は紙の本が絶滅するとは思っていません。
例えば、他のもので言うと、音楽。書籍よりも先にデジタル化が進み、さらにネット上に音源が上がるようになりました。ところがそういう時代になってみると、一度は絶滅すると思われたアナログレコードが生き残っており、むしろ売り上げが伸びています。
理由として聞くのは、大きなジャケットの芸術性とか、アナログならではの音の耳触りのよさとか。まさに細かい味わいのレベルまで求めているお客さんがいたということです。
同様にフェスなんかはむしろ昔よりも活況です。生の空気の振動や、その場の熱狂。デジタル音源だけでは感じられないものを求めているお客さんが多くいたわけですよね。
演劇なんかもそうですね。昔々は芝居小屋で生で見ていたものが、映画ができ、テレビができ、そして動画の形でネット上に上げられるようになりました。けれど世の中から演劇はなくなっていません。ちゃんと劇場があって、そこで生の体験をしたいというお客さんがいます。
「本」にもそういう部分があるはずで、書店というのはそういう人たちの需要を満たす産業に変わっていくのだと思います。
そう考えているので、僕は自分で出している個人出版の本はBCCKSから発行していて、オンデマンド印刷で紙の本が作れるようにしてますし、文学フリマでそれを売ってたりするのですよ。
「本」に付帯するいろいろなものを仕分けしていって、その場に出向く実体験じゃなければいけない部分を提供する。ただその時、そんな濃いどころの需要はあまり大きくないはずで、かなり数が絞られることにはなると思います。
逆に、ネットの方に持っていかなきゃいけないサービスとか機能もあるはず。例えば僕がよく書いている、リアル書店のプレゼンテーション力。流れてくる意見の中にも、本屋さんでうろうろしながら本を見つけるのは楽しいとあったのですが、読者との出会いの部分はネット上でも持たないと、入り口が狭くなってしまう。
そっちに持っていかずにリアル書店に公的補助を、とやるとこうなっちゃう。
多分八戸ブックセンターのことかなと思うのですが、市内の本屋と競合しないように売れ線を並べていないとのことなので、赤字はしょうがない。ただ、この本屋保護の話の流れで出てきている「本」は、多分にそういう商業的ではないものを指しているので、同じようなことになる恐れがある。
現在の日本は人の命を切り捨てるというレベルまで来ているので、ここに公金を使ってる場合じゃないなと思うんですよね。本が好きで本の力を信じてるなら、自分たちでそれを目いっぱい引き出して、本を広めていかないと。
そういう前向きなチャレンジをしている人は応援したいし、自分もそうでありたいと思うのです。
(ブログ『かってに応援団』24/3/11より転載)
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