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【インド・カシミール編】小さな裏路地の物語①

この物語は、僕が旅をした中で、路地裏や道端で遭遇した人とのエピソードを綴ります。実際に書いた千夜特急では出てこなかった方もいます。もしよろしければ、旅を彩る短いストーリーを小説風味でお楽しみください。

(思い付きで書いているため、時系列はバラバラに紹介していますが、その点はご了承ください。)


あらすじ

インドの北端に位置するカシミール。そこは「地上の楽園」と呼ばれており、有名な観光地として賑わいを見せていました。しかし現在(2019年)はインド政府との衝突により、情報統制が敷かれている状況で、観光客は全くいませんでした。そしてこの地域は、宗教がイスラム教徒が多く、政治的にも地理的にもカシミール問題というものを抱えていました。
そんな中、3日間のみの滞在を決定し、ホームステイ先のマニッシュの家から唐突にカシミール州のスリナガルを訪れたときの話です。




カシミールの路地裏


 
 
 インド政府軍から遠ざかるように、僕は大きな道路を中へと入る。すると少しピリついた街の雰囲気から大きく変わり、奥には人々の小さな談笑の場が見えた。

 細い道はバイクが二台通れるほどの幅しかなく、コンクリートが塗られた壁からは、時たま中のレンガが顔を出す。

近代的な雰囲気はそこになく、大きな道路とは少し違った緊張感が辺りに漂っていた。


 朝方の日差しはまだ目に眩しく、その光は路地裏に輝く道を作る。小さな水たまりが地面から反射しており、僕はその光を前に、右目だけを強く瞑った。

 足取りは軽く、路地裏は治安が悪いといった感じはしない。午前ということもあるだろうが、家の前で座る人たちの表情が明るいからだろう。そこに朝陽が共にあるのだから、一層それらは輝きを増す。


そんな裏路地で右側の家のドア前に、老人が静かに一人で立っていた。僕が彼に顔を向けると、老人は穏やかな表情でその皴の数を増やした。

僕はその姿に小さな痺れのようなものを感じ、彼の前で立ち止まった。


『こんにちは。この辺りは自然が豊かでとてもいい場所ですね』


 彼はその言葉を聞いたあと、僕が聞き取れない言葉を話した。しかし彼の表情が変わらないことに、僕は心の中に再び小さな痺れを感じた。


『ここに座ってもいいですか?』


 僕はそう言うと、老人の座る椅子の横を指さした。そして座るしぐさをすると、彼は穏やかな表情で、少しだけ横に体をずらした。そして彼は扉の前の木でできた椅子に腰を掛けた。


 彼は何かを語ることもなく、ぼんやりとした視線で空を見上げる。その視線の先を見ると、細い路地裏の壁を彩るように、澄んだ青空が一本走っている。そこからは見えない太陽が、光で路地裏の壁に温かい色を加える。


 横の彼はこの地で何を見てきたのだろう。そして何を感じて生きてきたのだろう。大河の流れのような膨大な時間の中で、ヒトというものを、彼の皴が物語る。


 男のかぶる帽子と白いひげが、いまだちょっぴり寒い朝を思いださせた。僕は彼と肩を並べながら、Mという文字のついたキャップをそっと整えた。
 





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