夢中(ゆめなか)2話
見慣れた団地に着くと二階に登り、201号室のインターホンを鳴らした。
インターホンを鳴らして出てきてくれたのは中学2年生の弟だった。たかとにはもう1人、小学校3年生の弟がいる。
小学三年生の弟はもさっきまで泣いていたのか、目が少し赤い。たかとの部屋に行くとたかとが寝ていた。
みおちゃんはたかとの横にぴったりと張り付いて泣いていたが、俺が来たことを確認すると軽く会釈して俺にそこのポジションを譲ってくれた。
俺は生まれて初めて死体を見た。死体は体温を失って冷たく、硬かった。たかとの表情は死ぬ1秒前まで苦しんでいたのだなってわかるくらい、苦しそうな表情をしていた。
たかとを見た瞬間一気に現実が俺に迫ってきた。たかとを見るまでは心のどこかでもしかしたらこれは質の悪いドッキリなのではないかと薄っすら期待している自分がいた。
しかし目の前にあるのは自分の親友で自分の一番の理解者のたかとの死体だった。
しばらくたかとのことを見ていた。どのような気持ちで死んでいったのか、どれだけ辛かったのか、たかとがどんな気持ちであの世に行ってしまったのか、わかりたくてもわからない。
しばらくしてから、みおちゃんにたかとの横のポジションを渡し、俺は近くのソファーでぼーっとしてたり、たかととのLINEを見返したりしていた。みおちゃんはたかとのそばで泣いたり、たかとにキスをしたりしていた。
俺も相当ショックだったが、付き合って3ヶ月目の高校一年生の女の子には酷なことだと思った。
少しでも元気付けてあげたかったが、俺にはそばにいることくらいしかできなかった。
みおちゃんも俺も少し落ち着いて来たところで、少し会話をした。実を言うと、みおちゃんと会うのはこれが初めてだった。
たかとから彼女ができたんだ~と聞いていて、写真を見せてもらっていたが実物を見るのは初めてだった。
第一印象としては、たかとが好きそうな女の子だなーと思った。これでは俺とたかとにしかわからないので、一般的な言葉を使うと優しさが顔から溢れ出ている子だった。
今の女子高生でここまで顔から優しさが溢れているのは俺はみおちゃんしか知らない。そのくらい優しい雰囲気を持っている子だった。
「たかととは高校からの友達なんですか?」
と、みおちゃんのほうから喋りかけてきてくれた。
「そうだよ、大学は別々だけどね」
それからある程度、みおちゃんとたかとの出会いを聞いた。2人はファミレスのバイト先で知り合ったらしい。
「最初は怖かったんですけど私がミスした時とかにフォローとかしてくれて、優しい人だなって思ったんです。」
たかとらしいなと思った。たかとは第一印象は無愛想なのだ。俺とたかとは高校の時に同じクラスで同じ野球部だった。
最初は深く関わることは無いないと思っていたが、高校1年の初めに俺がヘルニアになってしまって、落ち込んでいる時にたかとが毎日励ましてくれた。そこから俺達は深く関わって行くことになった。
たかとのことはある程度知っているつもりだった。高校の時は毎日一緒にいたし、大学に入ってからもお互いが連絡したい時に連絡を取っていた。
けれど、みおちゃんの話を聞いていくうちに俺の知らない、たかとがいた。
たかとはみおちゃんのことが大好きだったのだ。
「私から、写真撮ろ?とか恥ずかしくて言えなかったんですけど、たかとから言ってくれたりして嬉しかったんです。」
この言葉を聞いた時衝撃だった。
高校の時、たかとは彼女を作ったが自分からツーショットを撮ろうとしたり、自分からデートに誘うことがまず無かった。
たかと自らアクションを起こすことがなかったので、みおちゃんに対して自分からアクションを起こしていたことに俺は驚いた。
たかとはみおちゃんと本気で付き合っていたんだと高校の時から親友だった俺には一瞬でわかった。
たかとが死んだ日、みおちゃんとたかとは会う約束をしていた。しかし大学が終わってみおちゃんに会いにいく途中でたかとが倒れてしまい、そのまま病院で息を引き取った。
みおちゃんはたかととの最後のLINEを見せてくれた。
「死にそう」
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