塔 2016年10月号掲載歌/川田果弧

わが嫁ぐ朝に姉貴と呼びかくる弟鴨居に額をつけて
ベランダに雀の糞の黒くあり野に桑の実の熟れたるころは
僕といふ一人称のをみなごのあけぼの色のひなげしを摘む
音のなき裏門に咲くあぢさゐは監視カメラに撮られてゐたり
どの人も供花を提げつつ列となり服部坂をしづかに上る
苔生せる地蔵の面眺めをり 祖父に遺影の一枚もなく
コトコトと父の手になる椅子揺らし子は『人体のしくみ』読みをり
チヨさんは目の見えぬ犬かがまりてつめたき鼻に私を嗅がす

(若葉集/三井修選)※新樹集
塔に入会してはじめて載せていただいた歌です