世界設定は作者のためにある

世界観、もしくは世界設定などと言われる「設定」は、ストーリー作りにおいては前提となる要素である。それは、登場人物たちの生きる日常を規定し、世界のルールを明確にし、ストーリーの方向性を定める。ストーリーを形作るに際して、世界を設定するとはそういうことである。

そして、この「物語世界」は誰のためのものかと考える。当然、読者のためだろう。物語世界のことを知れば、そこで展開されるストーリーをより楽しむことができるからだ。世界観に親しむことで、そのストーリーの面白いところを理解することができる。だから、世界設定は読者のためにある。

そのことは間違っていない。基本的に世界設定は読者のためのものだ。けれど同時に、世界設定はストーリーの作者のためのものでもある。

何故ならば、たとえ作者であっても、「世界」というほどの大きな物事を把握しきるのは不可能だからだ。ストーリーを形作っているのならなおさら、その場面や出来事や登場人物の動きに着目せざるを得ない作者は、ある種、読者よりも視野の狭いストーリーの読み手である。そのため、作者には読者よりもしっかりとした地図や設計図が、手元に不可欠である
なので、世界設定は作者にとって、とても大切な手引きとなる。そのストーリーの行く末、世界の決まり事、登場人物たちの普段の生きざま。そういったことを確認できるツールとして、世界設定は必要なのだ。

言ってみれば、作者こそ、世界設定を参考にして、ストーリーを形作るのだ。それは、自身の思い描く世界を理解していないからではなく、そればかりでなく意識を割かねばならないことが多いがゆえに、作者の頭にとどめておけないからなのだ。
ストーリーどころか、登場人物達の前提にすらなる世界設定というものは、あまりにも広大で、死角も多く、簡単には見通せないものである。それらを常に意識してストーリーを形作るのはとても難しい。ならば、その都度参考にしてストーリーを作っていかねばならない。だから、作者にとって、世界設定は、読者よりも大事なものとなるのである。

ゆえに、ストーリーを形作る者は、このような世界設定のありかたに留意しなければならない。大切なのは、その設定がどのように手元にあるかである。しっかりした設定を作るのは大いに結構だが、それを全て頭に収めるようなやり方は効率が悪い。作者自らが作ったものなのだから、ちゃんと分割し、必要な部分だけ取り出しやすいように加工し、「使う」ことを意識するほうがいい。
作者はマニアな読者と同じようにじっくり世界を眺めてはいけない。作者だからといって、世界設定ばかりにこだわると、他の作り上げねばならない部分が疎かになる。
「世界」という大きなものの設計図は、せっかくならば設計図として扱うのが望ましい。無理に頭に入れようとせず、ほどほどに切り離し、「自ら参考にする」という態度が、1つの上手い付き合い方と言えるだろう。

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