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ロバート・ジョンソン (1) 〜 “Sweet Home Chicago” 歌詞の謎 (2004.07.14)

夏になると私は、ロバート・ジョンソンが聴きたくなる。しかも、朝に。その高い歌声と枯れたギターの音色が、ミシシッピ・デルタを吹き渡る風すら思い起こさせ、窓を開けると乾いた土の道に陽炎がゆらゆらと立ち昇っていそうな、そんな空想を味わわせてくれるからだ。

Robert Johnson “The Complete Recordings”

その生も死も、謎に満ちた伝説的ブルーズマンの R. ジョンソンなわけだが、歌詞の中にもいくつかの謎がある。数多くのミュージシャンにカヴァーされている名曲のひとつ、“Sweet Home Chicago” の歌詞の一節に疑問を持った人は少なくないだろう。

Oh - Baby, don't you want to go
Back to the land of California
To my sweet home Chicago

「シカゴはイリノイ州なのに、何故 “the land of California” と歌われているのか?」という疑問を持つのは、日本人だけではない。実際、後年この曲をカヴァーしているシンガー達はあまねく、この部分を “same old place” などと変更・修正して歌っている。「R. ジョンソンはシカゴ市がカリフォルニア州にあると誤解していた」などという説もあるようだが、受け入れ難い。旧来、白人が黒人の文化について称えた説というものは、往々にして黒人を馬鹿扱いした安易なものが多く、これらの説を鵜呑みにしている日本人も多い。が、いくら R. ジョンソンが学の無いディープ・サウスの田舎者だったとはいえ、ハイウェイを辿って北上するミュージシャンも少なくなかった1930年代、彼がシカゴの位置を知らなかったとまでは考えにくい。

この問題について、ブルーズミュージシャン/教師であるスコット・エインズリー Scott Ainslie が著書 “Robert Johnson - At The Crossroads” (Hal Leonard Publishing Corp., 1992) の中で述べている説は、現時点で最も信ずべきものといえる。以下に拙訳でご紹介する。

・・・19世紀の中期から後期にかけて、「カリフォルニア」という言葉は、ゴールドラッシュ、富、カネといった言葉と同義となった。東部の探鉱者達は無謀にも故郷を捨て、大挙してカリフォルニアへと向かった。そこには黄金が埋もれていて、どこかの幸運者によって掘り起こされるのを待っている、と信じていたのだ。この歌で、ジョンソンは恋人に向かって、一緒に黄金の埋もれる土地へ行こうと誘っているわけだ。1930年代のブルーズ・ミュージシャンにとっての「カリフォルニア」は、他ならぬシカゴだったのである。

(2004.07.14)


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