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30分間で書いた掌編/'23.2.27


 布団の中で感じるシンとした空気。カーテンでは隠しきれない柔らかな陽の光。遠くから聞こえてくる電車の通る音。地元を離れてから、何度このひとときを味わったことだろう。

 就職の為、首都圏に引っ越してきた私は、この雰囲気に最初は慣れなかった。地元に比べて空気は鋭いし、電車の音はうっとおしいし、一人暮らしは初めてだから寂しいし、何度も地元が恋しくなった。でも、住めば都という言葉があるように、忙しい日々を過ごしているうちになんとも感じなくなったんだけど、今は違う。

「もうすぐここともお別れか」

 身体を起こし、大きく伸びをする。そこらに点在していた家具は跡形もなく、有るのは壁際に整頓された段ボールの山だけ。広くなったこのワンルームを、私はもうすぐ出ていかなければならない。


「さ、身支度しないとあの人が――」

 ピンポーン

「もう、誰? こんな早くにチャイムなんて」

 はーい、と返事をして家のドアを開けようとドアノブを回すと外からの力によってドアが引かれてゆく! その勢いに抗えずに身体が倒れそうになったが、どさ、と柔らかくも固くもない、温もりのある何かに押さえられた。


『3月26日』
~未完~

※完結作品は以下のリンクからご覧ください。


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