清水 佳代子|kayoco shimizu

Artist/Painter 画家。日々の思いと回想録、時々制作日記。 HPはこちら…

清水 佳代子|kayoco shimizu

Artist/Painter 画家。日々の思いと回想録、時々制作日記。 HPはこちら→ http://kayocoshimizu.mystrikingly.com

最近の記事

サッカーボール

駒沢大学駅から程近い駒沢オリンピック公園で開催されている、ラーメンショーに行ってきた。ラーメン屋をやっている友人が手伝いで来ていたので、一人で会いに行った。会場はたくさんの家族連れや友達同士、恋人達で賑わっていて、寒い中温かなラーメンを、食べ比べしながら半分ずつ分け合ったりしていた。 帰り道、園内の遊歩道で、遊んでいた親子連れのサッカーボールが勢いよく転がってきた。ボールは目の前の水溜りを通って私のすぐ横をすり抜けるところだったので、反射的に手がでた。止めたボールを男の子に

    • がらくた

      最近家中のものを、次々と捨てている。大きなゴミ袋2つ分を、週に1度のペースで捨てる。いつか使うかもしれない、いつか必要になるときがくるかもしれない、いつか、いつか。だけどいつかはきっとこなくて、それは本当はがらくたと同じなのだ。 一度も袖を通さないままのワンピース、UFOキャッチャーのぬいぐるみ、止まったままの腕時計、聴くことのないCD、興味を失った美術書、何年も履いていない靴、誰かの忘れていった傘、ほとんど身につけないアクセサリー、雑誌の切り抜きやスクラップ、読み返すこと

      • 初めて絵を購入した話

        久しぶりに人からの言葉に落ち込んで、誰にも話せずに沈んだまま真夜中に一人ぼんやりネットで絵を見ていたら、ものすごく素敵な絵が目に飛び込んできた。作者は「森山楓」さん、タイトルは『その線を越えて』。添え書きに、「その線を越えて、扉を開けて、温かな風が吹き抜けますよう」とあった。ちょうど翌日まで抽選販売をしていたので、勢いに任せて初めて絵を購入しようと申込ボタンを押した。 描けば描くほど、理想は近くなるようで遠かった。誰がそばにいてくれても、深淵を覗くような孤独はどうしようもな

        • 夜更けの電話

          なんとなく、夜更けにどうしようもない気持ちになって、酔いも手伝って懐かしい同級生にいきなり電話してしまった。彼女は夫も子供もいて、毎日忙しく働いているというのに。なんて迷惑な話だと思う。 すぐに繋がって、嬉しさと申し訳なさが一気に込み上げて、遅くにごめん、何も用はないんだと言った時、間髪入れずに彼女は、ずっといつも思ってたよ、と言った。思い出したでなく、思ってた、と。何度も。きっと私の声がいつもと違うことに気がついたのだろう。 そして自分の話をしてくれた。私が無理に話さな

          紙芝居

          図書館に行くと大抵児童書のコーナーで紙芝居をやっているので、そばで絵本を漁りながら聞き耳をたてる。紙芝居を見に行ったことなんてないのに懐かしい気がするのは、幼い頃母に絵本を読んでもらった記憶と重なるせいなのかな。 コールタールまみれになってしまうウサギの話を、何度も繰り返し読んでもらった。タイトルは忘れてしまったけど、本の挿絵と添えられた母の手を覚えてる。「コールタール」という不思議な言葉と音の響きに、世界は本当に知らないことだらけだと思った。 紙芝居を見ている子どもが、

          夢日記

          時々長い夢を見る。断片が次第に繋がって、一つの物語を成してゆく。 夢の中の母は、まるで母親然としていた。安心感に満ちた観音様みたいな顔で、ふふふ、と笑った。私を挟んで向い側で、同じように父が笑う。私はほっとしながら、かすめた違和感に蓋をする。 突然、素敵な指輪ね、と母が言った。ふと自分の手に目をやると、大きな宝石のついた、美しいリングが嵌っている。リングは確かに素敵だったけれど、私はそれがイミテーションであることに気がついた。見た事のない色だったし、その石は不自然に大き過

          ビルエバンスの言葉

          つまづいたとき胸の中で反芻する、敬愛するピアニスト、ビルエバンスの言葉。 「僕のところに多くの人がやってくる。先行きに不安を持った人たちだ。彼らは外から仕事を眺めるばかりで、現実的な方法でそれに挑戦しようとしない。真実を見つめ、何をどうするか明確にすべきなんだ。ところが彼らはそれを嫌い現実からいつも逃げようとする。事柄を明白にし、現実に直面しそれを分析する力を持つ。それが何より大切だと僕は思う。 全体像をぼんやりとつかんでそれで問題が解決すると思っても、結局は混乱が増すば

          ぎゅうぎゅう詰めの同窓会

          このごろ毎日長い夢をみる。眠ってばかりいるせいかもしれない。夢は次第に現実から過去に遡って、懐かしい場面や面々が次々と登場する。遠くにいる、故郷のなかなか会えない友人にだっていっぺんに会える。まるでぎゅうぎゅう詰めの同窓会みたいに。 高校3年の夏を過ぎてから、みんなで笑ってばかりいたあのころが、学生生活の中で一番楽しかった。休み時間に真剣にゲームをして、授業中にふざけた罰ゲームを決行した。受験勉強の真っ最中だったけれど、そんなことはどうでもよかった。ただ可笑しくて、授業中笑

          ぎゅうぎゅう詰めの同窓会

          夜道の散歩

          小さな女の子みたいな母。 ずっと昔、母と祖母と三人で暮らしていた頃、よく母と二人で夜道を月をみながら散歩した。あなたは私の宝物、と言ってうれしそうに笑う彼女を、守ってあげたかった。私もまだ小さな女の子だったけれど。 長い時間を一緒に過ごした。でも私と母は幾度となくぶつかり合った。何となく、いつか必ず解り合えるような気がしてた。だけどそれは私の勝手な妄想で、私達は傷つけ合い、すれ違い、それから微かな祈りのような感情を持ちながら、全く別の世界を生きてきた。 幸せになってほし

          クリスマスソング

          友人との待ち合わせは新宿駅新南口の改札だった。 ふと路上に目を向けると、一人路上ライブをしている青年がいて、彼は寒空の中ずっとクリスマスソングを歌っていた。 イブの夜に一人きりで、街行く人達に向けて歌うクリスマスソング。 待ち合わせまでまだ時間があった。私はしばらくそこで、彼の優しい歌声をきいた。ポケットに手を突っ込んで、それから静かに目を閉じて。

          友人からのメール

          私の英語力が拙すぎるので、英語の先生である友人からのメールは、英語と日本語が混在している。B型の双子座という最強な共通項を持つ私達は、子どもみたいな無邪気さで、チープな楽しさを心から愛している。 私と彼女はデパートの屋上の小さな観覧車に我先にとこぞって滑りこむ。いい大人二人を乗せた可愛らしすぎるお花の観覧車は、あっというまにてっぺんについて、またすぐさま地上に降りて来る。小さくわーい!の万歳をして、小走りに観覧車を降りる。一日の始まりが100円の観覧車だなんて、素敵すぎて心

          自己紹介

          自己紹介が遅くなりましたが、制作している絵のことを少し書いてみます。 作品は主にアクリル絵の具を使い、偶発的な表情や混ざり合う途中の色を美しく見せる事にこだわって制作しています。それらを組み合わせ、「感覚に訴える絵画」を意識して描いています。最近は抽象的な作品が多くなっています。 日常の中で生まれる様々な感情を、絵の具で表現することができないだろうかと試行錯誤していく中で、色同士が混ざり合い、美しく呼応しだしたとき、言葉では表現し得ない、想い以上の何かが伝わるような気がし

          サプライズメール

          「Life is serious. It's a hard work not to make it so serious, but it's a great art.」 友人からのメールは、「ホテルニューハンプシャー」という映画の台詞だった。どこかでみているのかな、と思うタイミングで、メールは届く。年に数回、こんな粋な英文メールをサプライズしてくれる素敵な友人は、英語の先生をしている。 Life is serious. 人生はシリアスだ。悲しい事に目を向けたら、それが全て

          あのころもしも

          「泣いても、いい?」 大人たちはみな一瞬驚いて、そして、笑った。 泣くことに、許可をもらうような子どもだった。 家で、学校で、私の小さな世界の中で。何もかも押し込めて、何も言わないこと。それがあの頃の私が思いついた唯一の、自分を守る方法だった。ふと幼い自分を思い出したのは、あの親子を見たからだ。 寒くて凍えそうな夕方。買い物客でにぎわうスーパーで、小学生にもならないくらいの小さな男の子がわんわん泣きながら、母親と何やら言い合いをしている。かまってほしくてぐずっている子

          通り雨

          のんびりな休日の午後、久しぶりに自転車で近所に買い物に行った。ふと突然の雨。急などしゃぶりに思わず、自転車ごと小さな八百屋の軒先に滑り込んだ。 雨はものすごい音を立てながら次第に雷雨へと姿を変え、一時しのぎのお客で、店はいつもより少し賑わい始めていた。 なかなか止まない雨に痺れを切らし雨の中へと走り出そうとしたその瞬間、軒先で呼び込みをしていた若い青年が、 「どうぞゆっくり雨宿りしていってください。」 そう声をかけてくれた。 「雨が止むのを待たないのは日本人だけら

          絵のままの絵で

          ある審査での短い講評。絵の技術面に対しての評価は悪くなかったけれど、「言葉による説明がもっと欲しい。」との趣旨の言葉が繰り返し書いてあって、ちょっと残念に思った。プロの、絵を扱う人が、そんなにも言葉を必要とすることに。 アメリカ屈指の美術評論家、ジョン・キャナディ氏は、生前、「絵には作品名がない方がいい。作品名があると、見る側がそれに左右されてしまう。自分の目で判断しているので、僕は展覧会へ行っても、作品名はみない」と言っていたそう。ギャラリーからの説明も受けない(自分の判