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小さくて愛おしい新美南吉の世界

新美南吉の『花をうめる』がとてもいい。
うわぁぁ〜、なんてきれいで儚い世界なんだ〜!と感動したので、ここに備忘録的に書いておく。

その遊びにどんな名がついているのか知らない。(中略)
なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案(そうあん)したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯(ゆうぎ)をつくり出したのは。

(新美南吉「花をうめる」青空文庫より引用)

花を土に埋め、ガラスの破片と砂をかけて隠し、それを指先だけで探す──ふたりもいればできる、ささやかな遊びだ。
「私」はこの遊びが好きだった。しめった土の匂い、指先に触れる冷たさ、埋められた花の色。興味の中心は勝ち負けではなくて「土中の一握りの花の美しさ」だった。
でも、この美しい世界はある日終わりを迎える。同じ景色を共有していると思っていた遊び仲間たちが、実はそうではなかったと知ったときに。
子供達の世界は気まぐれで残酷だ。遊びには終わりが来るし、変わらないものはない。それがすこし悲しくて、とてもいい。

新美南吉の作品で有名なのは『ごん狐』だと思うんですが、ああいうお話ばっかりだと滅入るな…と思って避けてました(ごめんよ)。

だけど、カシワイさんのコミックで読んだ『ひとつの火』(この原作が新美南吉)が優しくてきれいで、「新美南吉って最高か!?」と目から鱗だった。

「この世界を新美南吉はどういう言葉で表現してるんだ?」と思って、青空文庫巡りを始めたけど、この作家の美意識・文学観は、読めば読むほどわかる気がする。切なさがいい。もっと長生きしてたらどんな作品を書いたんだろう。

命日の3月22日は、新美の詩にちなんで「貝殻忌」というそうです。

ヘッダーは、@od_chiaki 様よりお借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/95474855

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