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子どもを取り巻く性暴力の現状と希望。小川たまかさんの講演(2018/10/20)から

私には中学生と小学生の子どもが3人います。子どもたちがここまで大きくなるまでに、いったい何件の不審者情報、性犯罪が近隣であったのか、もはや数え切れません。

「何事も経験」なんて聞くけれど、人生で一度たりとも経験しなくてよいもののひとつに性暴力は入る。子どもたちが何事もなく今日も帰ってきますように。

子どもたちをめぐる性暴力は留まるところを知らないように見えますが、現状の数値はどうなのか?海外の現状はどうなのか?よくなる希望はあるのか?知らないことはたくさん。

性暴力の取材に力を入れる、ライターの小川たまかさんの講演を聞きに行ってきました。

小川たまかさん
文系大学院卒業後、フリーライターへ。
2008年会社をおこし、取締役に。
2015年頃から性暴力の取材に注力するようになる。
2018年3月に退職し、再びフリーランスへ。
現在、性暴力に関する3つの会(一般社団法人Spring、性暴力と報道対話の会、被害者支援と加害者臨床の対話の会)にスタッフや運営として関わる。

<性暴力の取材を始めたきっかけ「見えている世界が違う」>

私がどうして性暴力の取材に注力するようになったかというと」と小川さんは語り始めました。

2015年の1月に、あるネット記事がプチ炎上したんですね。「女性専用車両は必要か?」というアンケートを年代別に20代から60代の女性にとっていたんですが、全体の7割から8割の女性が必要だと答えていました。

このアンケート結果について、記事を書いていた男性は「60代の女性でも7割が女性専用車両を必要だと答えています。痴漢も相手を選ぶと思いますけどね(笑)。」と書いてあったんですよ。これひどいですよね。信じられない。

それでその記事を出している編集部に電話をかけて、書いた方に話を聞かせてもらいたいと話しました。結局それは叶わなかったんですが、その時に私が感じていたのは、怒りだけでなく「この人はどういうふうに考えているのか、知りたい」という思いでした。それだけでなく、「こう考えている男性にどうしたらわかってもらえるんだろう?」という想いもありました。

さらに、自分自身小学生の頃から通学の電車内で痴漢に遭い続けていたということがあります。それも別に自分だけが被害に遭っていたんじゃなくて、友だちも同じ感じ。痴漢に遭うのが日常だったんです。

でもそれを男の子は知らない。そういう話は女の子の間では共有されているけれど、男の子はほとんど知らない。男の子でも痴漢被害はありますが、知らないことの方が多い。

なんか見えている世界が違うなあって思ったんです。その違いを分かってもらいたいと思って、記事やブログを書いた。そうしたら、「書いてくれてありがとう」とか「実は自分も…」という反応がたくさんあり、声を上げられない人がこんなにいっぱいいるんだなあと思いました。こんなに反応があることなら取材してみようと思って注力するようになりました。」

そうして取材を続ける中で、小川さんはある違和感を抱きます。

<子どもの被害を正しく認識するために>

「「性暴力の取材をしている」と話した時に、いろんなお母さんから「私こんなサバサバした性格だから、性暴力とか関係ないわ」とか言われる時があるんですが、「痴漢とかも遭ったことないですか?」と聞くと、「痴漢ぐらいならあるけど」って言うんですよ。

痴漢が性暴力だと認識されていない。「子どもが痴漢に遭ったら嫌じゃないですか?」って聞くと「そうだね」って言います。

痴漢は性暴力だし性犯罪なんです。」と言って小川さんが挙げたのは次の4つの罪名。

①服の上から触る→迷惑条例違反
②衣服に精液をかける、衣服を切る→器物損壊
③露出行為→公然わいせつ
④下着の中に手を入れる、自分の性器を無理やり触らせる→強制わいせつ

さらに、今年7月にイギリスへ視察に行かれたという小川さん。イギリスの「不同意性交」とはどんなものか?どう運用されているのか?社会の受け止め方などを調べるために行ったそうですが、その時に出会ったソーシャルワーカーの女性にこんなことを教えてもらったと言います。

「被害に遭う子どもの1/3は男の子。一番被害に遭いやすいのは障害者。社会的弱者が被害に遭いやすいんです」

イギリスでは、性被害の常識として

①どこでも(屋内でも)
②誰でも(男性でも女性でも)被害に遭う
③特に子どもが狙われる

ということが根付いているそう。「日本では性被害に一番合いやすいのは若い女性だと思われています。子どもが狙われやすいというのはなかなか認知されていないところだと思います。」と小川さん。

子どもというと小さい子をイメージしがちですが、成人未満の年齢までと考えると、中学生や高校生、大学生まで含みます。これらの年代での性被害を調べた調査を小川さんは提示しました。

日本性教育協会の調査(2011年)で、

痴漢被害
   高校生女子24.1%、高校生男子2.5%
   大学生女子38.3%、大学生男子6.4%
性的行為の強要
   高校生女子5%、高校生男子2.3%
   大学生女子6.1%

別にレアな被害じゃない。」と小川さんは言います。「性的行為の強要は高校生の女の子で20人に1人。高校生男子でも50人に1人です。」

おとなにまで広げて見てみると、内閣府の「男女間の暴力に関する調査」(平成29年度)があります。

無理やり性交などされた被害経験
(「性交など」には、膣性交だけでなく、肛門性交と口腔性交を含みます)
女性は「13人に1人」
男性は「67人に1人」
男女合わせて「20人に1人」

「めっちゃ普通にある被害ですよね。例えばfacebookに100人お友達がいたら、5人は被害経験があるって言うことです。国の調査でこれが明らかになっているのに、どうしてもっと重く受け止めて、報道したり議論にならないのか不思議。」とつぶやく小川さん。

<被害を打ち明けられた時の対応は?>

性被害に遭った子どもが被害を打ち明けるのは、身近な信頼している相手です。そんな時に被害に遭った子どもに「言ってはいけないこと」として小川さんが挙げたのは以下の3つ。

・嘘じゃないの?
・どうして気を付けなかったの?
・そういうこと他のひとには言わない方がいいよ

疑わない、責めない、口止めしないのが大切だと小川さんは言います。

またイギリスでの視察の中で見かけたポスターがあるそうです。「「凍り付きは自然な反応です」被害者が襲われそうになった時、抵抗できずに固まってしまうのは当たり前ですよってイギリスでは言われています。「イヤだ」って言えたでしょう?言わなかったの?という質問もナンセンス。」

また逆に「言ってあげたいこと」はこのように挙げていました。

・話してくれてありがとう
・あなたは悪くないよ

こう伝えた上で、サポート機関や支援機関があることを伝えてあげてほしいと言います。

<性被害に対する教育がない現状>

薬物やアルコールの危険性、交通安全に対する教育はあるのに、どうして性被害に対する教育はないのかな。」と小川さん。

「私が取材したある女性は、子どもの頃から性被害に遭っていました。彼女は中学校などでドラッグに対する教育をたくさん受けたと。誘われたときに断るデモンストレーションみたいな授業もたくさん受けた。彼女が言うには「私、薬に誘われたことは一度もないです。でも性被害にはずっと遭っていた。でも性被害に対する教育は、誰も何も教えてくれなかった。

イギリスでは性被害を子どもにもわかりやすい形できちんと教えている。教えることは必要だと考えられています。でも、日本では子どもが狙われやすいという認識を増やすところから始めないといけません」

また「加害者にならないための教育」も必要だと小川さんは訴えます。

小さいうちから言ってはいけないこととして

・男の子はスカートめくりくらいしたい
・同性同士の触りっこは普通だよ
・脱がしっこはただふざけているだけでしょ
・ふざけているだけなのに怒ったらかわいそう

「同意」の問題も重要な課題です。加害者の言い分を聞くと、「同意だった」と言うひとが多い。「相手もいいと思っていると思っていた。どうして訴えられたのかわからない。」と。相手の被害者の抵抗に気づいていない、何が悪いのか?をそもそもわかっていないのが問題だなと思っています。

自分の意志を尊重することも、相手の意志を尊重することも大切。男の子にも女の子にも加害者になる可能性があるのです。子どもたちのその時々の気持ちをちゃんと尊重することが、「同意」の問題を解決する糸口かもしれません。」

<子どもを取り巻く性暴力に対する希望>

「性暴力の取材の中でのつらい話が続きましたが希望もちゃんとあります」と小川さんは切り出しました。「子どもへの性暴力を減らしていくための取り組みや防犯など、希望となる考え方のヒントを紹介します」と言って挙げたのが防犯社会学の小宮信夫さん。小川さんは取材した時に「日本の公園は世界一危ない」と言われてびっくりしたそうです。

日本の公園は犯罪しづらい設計になっていないとおっしゃっていました。例えば公園のベンチ。防犯効果を理解している国では、公園の遊具に向かってベンチを設置しないそうです。

犯罪者は突然子どもを連れ去るのではなく、まず物色する。例えば、ベンチに座って休憩しているふりをして、子どもを物色します。ベンチを遊具のそばに置かないか、逆向きに置けば、保護者でない大人がそこにいることの心理的なハードルが高まります。周囲もなぜあの人はあそこに立っているのだろう?と感じる。

スペインの公園などは、遊具の周りにベンチがない上に柵に囲まれていて、保護者や子ども以外が入りづらい設計なんだそうです。

トイレの場合も、男子トイレよりも女子トイレを奥に設置した方がいい。盗撮や、子どもをトイレへ連れ込もうと考えた時に、女子トイレが奥にあればそこまで行く心理的なハードルが上がる。周囲の人も奥まで行く男性に対して「間違えてますよ」と声かけができるというお話でした。」

こういった仕組みが写真で紹介されているのが写真でわかる世界の防犯という本だと小川さんが紹介しました。街づくりの段階から防犯を意識して設計することができたら、日本の子どもたちはもっと安全になるのではないかという気付きでした。

先ほど日本では性被害に対する教育がまったくないという話をしましたが、イギリスのやり方が参考になるのではないかな」と小川さんは話します。特に良いと思ったものが「PANTS」という言葉で説明される、小さな子供向けの性被害に対する教育だそうです。

Privates are private(プライベートゾーンはあなただけのもの)
Always remember your body belong to you
(あなたの体はあなたのものだって忘れないで)
No means no(Noの意味はNoだよ)
Talk about secrets that upset you
(あなたを困らせている秘密を話してくれる?)
Speak up, someone can help(話してね。そうしたら助けられる)

子どもたちを守るには、「こうするとよい」という自衛の方法だけでなく、「あなたは悪くない、守られている」というメッセージを同時に伝えることが大切だと小川さんは結びました。

<最後に>

静かで控えめな口調で終始話した小川さんの話は、つらい内容を経て、確かで具体的な希望が見えるものでした。また、講演の始めと終わりには「話す内容によって気分が悪くなったら」など心遣いのゆき届いたお話もあり、重い内容の続く取材を乗り切る暖かさを感じました。

性暴力となると、その重たさから近いところにばかり目をやりがちですが、イギリスの視察のお話などは学びが多く、親子の会話に活かせるヒントが詰まっていました。重いテーマとは裏腹に光を感じる講演でした。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。(麓 加誉子)

小川さんの記事はこちら↓


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