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水曜日のひだまり 強いまなざし

描くためにはよく見ること。そう教わった。抽象画とかって話になるとまた違うけど、絵を描き始める時はきっとみんなそう言われる。
だからと言うわけでもないけど、人に見られるのは好きじゃないのに、人を見るのが好きだ。好き嫌いというよりは、見てしまう…もしくは目についてしまう…と言う方が正しいかもしれない。
先生も人のことをよく見た。すごく見た。穴が開くほど見た。そのうち、右手の人差し指をクルクル動かしながら見た。絵を描く人はよく見る。見る人と見る人の視線がぶつかるととても困る。私は先生といるとよく困った。お互いに見るからだ。でも、先生には負けた。私は先生より先に目を逸らしてしまう。先生はそのまま私を見つづけ、私は視線を感じたまま先生に背を向けた。先生は私の後ろ姿も指でなぞっていたかもしれない。
先生には何でも見透かされている気がした。どんなに繕っても嘘をついたとしても見透かされると思う。だから、最初から本当の私でいる他なかった。私もそのくらい強いまなざしが欲しい。
よく見えると誰も気づかないような素敵なことを見つけることが出来るけど、見えなくてもいいことも見えることがある。人のちょっとしたしぐさや表情で見えなかったところが見えてしまう。だから、嫌なモノや嫌いな人のことはあまり見ないようにしたいけど、そういうことほど見えやすい。いろんなことが人より見える繊細さんは結局のところ弱い。見えるからこそ強くありたい。
先生は最強だ。私は、いまだに弱い。まだ、知ったつもりで知らないことがたくさんあるのだと思う。


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