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ジーンとドライブ 思わぬスキル

ジーンと結婚して8年目になる。
ふと思い起こせば、私はジーンと結婚したせいでスキルアップしていることがいくつかある。スキルアップと言っても、ただ出来るようになった…するようになった…だけだけど。

ひとつは魚を捌けるようになったこと。
釣りに誘われて行ったら、鱗がついたまま氷水でカチコチになった丸まんまの魚を夜遅く持って帰ってくる。その鱗を取り、捌くのはジーンではなく私である。目の前にある魚が何という魚かさえ分からない。丸まんまの魚を捌くのは、鰯や鯵の小さな魚くらいだった私は慌ててググる。カチコチとは言え、鮮度が落ちないうちに捌いた方がいいに決まってる。必死な私の傍で、
「まだ?できそう?疲れた~。眠い。」
と連呼するジーン。全く、殿様みたいな奴だ。
「他の人、軽く鱗取って内臓出してなかった?教えてもらってそのくらいやってきなよ!釣りは捌くとこまでが釣り!自分でできないなら、もう釣りに行くな!」
「・・・・・。」
貴様、だんまりか。焦るし冷たいし、固くて力がいるし、眠いし腹が立つし。様々な壁を乗り越え、私は魚の捌き方を覚えた。

ひとつはミッション車の運転ができること。
「これで、お願いします。」
おもむろに渡された封筒にはお金が入っていた。私はずいぶん若いうちに車の免許を取得したが、これからの時代AT車でしょ?とAT車限定で所得していた。ジーンの少ない趣味はバイクと車。それも古めかしいミッション車を大層愛している。この先もミッション車しか乗らないから、私にもミッション車を運転できるようになってほしいというのだ。
「はぁ~?」
いやいや時代はAT車どころか自動運転の時代っすよ。断固拒否したが、ジーンのミッション車に対する思いがしつこすぎて、結局私が折れたのだ。
やるからには楽しんで…がモットーなので、アトラクション気分で免許を取得した。悔しいかな、運転してみれば意外と楽しいものだが、時代錯誤も甚だしい。
だが、先日トラブルがあってJAFを呼んだのだが、来てくれたJAFの人に、
「あれ!これミッションですね。え?これ、奥さんが運転してたんですか?え~すごい!」
と驚かれ称賛された時は、免許取得の日々、日頃見えない足元や左手が人よりも多く動いていることなど、他人には決して気づかれることが無いところでの私の苦労がやっと報われたような気になって、目が潤むほど嬉しかった。

ひとつは散髪が上達したこと。
高校生の頃からお世話になっている美容院の人から、
「これで、散髪してあげて。」
と、父が介護を必要とするようになった時にハサミを頂いた。父の髪の毛くらいは随分薄くなっていたし、私でも容易にできた。
ジーンはそれを知ってから、床屋へは行かず私に頼むようになった。しかし、父とジーンの髪質では全く違うのだ。ジーンの髪は固い。量も多いし、何より文句が多い。
「左右対称にして。」
「もっと濡らして。」
「ここは切らないで。」
文句と注文が多すぎるのだ。結果、面白おかしい髪型が出来上がる。そして、逆切れされて、私は半ばべそをかきながら、最終手段のほぼ坊主にするべく再びハサミを握る。
それをもう長いこと繰り返し、今はジーンの文句も注文も減り、意外と上手にカットできるようになった。最近は母も私にカットを頼んでくる。母の髪は猫毛なので切りやすい。
ヘップバーンやケイティ・ペリーにしてだのと注文してくる。ジーンの注文と違ってやる気の出る注文である。
もう父はいないので、ジーンと母、お二人様専用の美容師に時々なる。

ジーンにはいつも苦労させられる。なんで私が!と腹も立つ。だけど、気づけば私のスキルが上がってる。皮肉だけれど、ジーンのお陰様である。文句を言いつつ、やってみれば楽しくなってしまうのは私の長所かもしれない。楽しそうにやっているのを見て、自分もやってみようかな?と思う様で、今ではジーンも自分で魚を捌く。
しょうもないことでも、出来ないより出来た方が人生面白い。


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