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ステロイドを使った話

8月末から原因不明の肩痛に悩まされていました。いわゆる「四十肩」と呼ばれる肩痛で、何もしていなくても激痛があり、腕を上げたり、回したりという可動が困難になり、トレーニングができないどころか、日常生活にも支障がありました。

四十肩はそのちょっとトホホなネーミングから想像するような生やさしいものではなく、発症する原因がわかっておらず、人によって回復期間は様々で、長い人だと1年以上かかり、場合によっては手術を要する場合もあると聞きました。

痛み止めを打ちながらリハビリをして、筋肉の緊張をとっていくという地道な作業を繰り返します。通院から2週間が過ぎた頃、かなり痛みが強いことを医師に相談すると、「違う注射をしてみますか?」と提案を受けました。トレーニング系の仕事の都合もあり、早期回復が必要だったので、お願いすると、しばらくして劇的な回復をしたのです。

このとき、打った注射はステロイドです。「ステロイド」と聞くと、筋肉増強剤の違反薬物を想像する人も多いと思います。そんな誤解を解き、皆さんが少し賢くなるように、今回はステロイドの話を書いていきましょう。

ステロイドは基本的にコレステロールからつくられています。コレステロールは六角形3つと五角形1つの構造を持っていて、同じ骨格を持つものはすべて「ステロイド」と呼ばれます。そのため、一口にステロイドと言ってもいろいろな種類があり、どこでつくられるかによって、機能が決まってくるのです。これを知らないと、「ステロイド」=「筋肉増強剤」の認識になってしまうわけです。

腎臓の少し上にある副腎でつくられるのが副腎皮質ステロイド。これは一般的に薬用で使用されているもので、炎症を抑えたり、免疫力を抑制したりする作用があり、リウマチや喘息、肺炎などの自己免疫疾患や炎症性のさまざまな疾患の治療に使われています。私が治療で使用したのも、この副腎皮質ステロイドです。ただ、筋肉増強剤とは違ってもステロイドは副作用が強いため、医師との相談のもと使用することが絶対です。

一方、副腎ではなく、生殖器でつくられるステロイドには、身体機能的に、女性を女性らしく、男性を男性らしく形作る働きがあります。例えば、女性ホルモンであるプロゲステロンは乳房や卵巣を成長・成熟させます。そして、いわゆる「筋肉増強剤」と表現されるのが、男性の精巣でつくられるテストステロンなどのアナボリックステロイドです。

アナボリックは「構築する」という意味で、その名の通り体に筋肉を構築する作用があります。短期間で劇的な筋肉増強を実現するとともに、常態では得ることのできる水準をはるかに超えた筋肉成長を促す作用から、長年にわたって運動選手らの間で使用されてきました。アナボリックステロイドは、食事から摂取したアミノ酸からタンパク質をつくり出す作用があり、タンパク同化ステロイドとも呼ばれます。ちなみに、「同化」の反対は「代謝」で、「分解する」という意味になります。筋肉の敵とも言われるカタボリックのことですね。

このアナボリックステロイドも筋肉増強剤ではなく、治療薬としても使われています。たとえば骨髄不全の患者さんは血を増やすことができないため、アナボリックステロイドによって血をつくる細胞を増やしたりします。

また、LOH症候群と言って、加齢によりテストステロンが低下する病気にも使われます。いわゆる男性の更年期障害と言われている症候群です。テストステロンが低下すると、鬱や性機能低下、認知機能の低下など、さまざまな問題が起こります。そこで、テストステロンを一定レベルまで引き上げるためにアナボリックステロイドを用いるのです。ステロイドは必要な人が必要な形で使う場合には、とても有効な薬です。

副腎皮質ステロイド同様、アナボリックステロイドにも副作用はあります。もっとも一般的な副作用は血圧上昇とコレステロール値の上昇。これにより、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系の病気を誘発する原因ともなります。海外のプロレスラーがステロイドの使用過多により早死にする原因の一つと考えられているのが、この副作用です。

このようにステロイドと言っても、病院で処方されるステロイドと筋肉増強剤のステロイドはまったく違うものです。ステロイド=筋肉増強剤ではないということを覚えておいてください。

というわけで、ステロイドの投与により、肩痛から回復した私は、仕事を含めたトレーニングに復帰することができました。ただ、筋肉の緊張をほぐすストレッチやインナーマッスルの強化は欠かせません。体の調子を見ながらボチボチやっていこうと思います。

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