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君はDvorak配列を知っているか

 メクラチビゴミムシ、という名前の昆虫がいる。
 いくらなんでもあんまりである。

 メクラでチビでゴミ、というヘイトスピーチのオンパレードのような名前なのであるが、洞窟や地中での生活に適応し視覚が退化したチビゴミムシ亜科というゴミムシの一種という意味なので和名としてはかなりシステマティックな名付けをしている。
 私はかつて昆虫関連の仕事をしていた関係があり、こういったシステマティックな名付けの学名や和名は結構好印象だ。

 体毛がトランプ元大統領の前髪に似ているから、という理由でNeopalpa donaldtrumpiという学名を付けられた可哀想な蛾に比べれば名前を見るだけでどのような特徴を持つ昆虫かが判る収まりの良さは嫌いではない。

 早速話が逸れた。

 本日、注文していたパソコン用のキーボードが無事到着した。アメリカから輸入したエルゴタイプの無線キーボードである。

 


 開封。



 違和感に気づいただろうか。


 実はこのキーボード、一般的に見られるものとは配列そのものが全く異なる。この配列は「Dvorak配列」と呼ばれるキーボード配列のものだ。



 Dvorak配列という「新世界」



 なんじゃこれ?とお思いの方の為にWikipediaの記事を貼り付けておこう。

 物凄く簡単に説明すると、現在主流のQWERTY配列はタイプライター時代の配置をそのまま引き継いでいるものであり、人間工学に基づいたものではない。入力効率的にはよくないんじゃないかと。そういう研究をワシントン大学のドヴォラック博士が発表したわけだ。

 実際にキーマップを見てみると、頻出するアルファベットが所謂「一等地」に配置されており、あまり使われないアルファベットが僻地に配置されている。特に注目して頂きたいのは、左手のホームポジション付近のキー配置だ。

 見事に母音が左手4指で運指出来るように並んでいる。そう、実はこの配列はローマ字においても結構入力しやすいのだ。

 実は私は以前からこのDVORAK配列を好んで利用しており、完璧に扱えるように徹底的に特訓を重ね、わざわざキーマップを変更したりアプリケーションを噛ませてでもこの配列を使えるようにしていた。自作のカスタムキーマップなんかも作ったことがある。

 実際、ある程度以上の長い文章を打つ際、QWERTYに関しては完全な見様見真似で小学生から変な癖を付けて覚えてしまったので途中から手が疲れて腱鞘炎になってしまう。DVORAK配列は運指距離がQWERTYより大幅に少ないため長文、目安で言うと2〜3000文字以上の取り留めのない文章……このnoteのことだね。こういった物を書く時には手に合っているのだ。



QWERTY配列でのタイピング速度


DVORAK配列でのタイピング速度


 フリーソフトでのタイピング速度結果(同一キーボードで行ったもの)。
 誤差かな?くらいの差に見えるかもしれないが、 QWERTYはノーミスの記録が出るまで数回インチキをしている。あとホームポジションで打てないので自己流打ち。


 丁度キーボードを買い換えようかな、と思っていたところであり、折角なのでもうQWERTY捨てようと。そう思いアメリカから取り寄せたものである。

 英語圏ではQWERTY配列の次に利用者がいるとされており、かつてのタイピング世界最速王者のバーバラさんというおばちゃんもこの配列を使っていた。日本ではこの配列を使っている人間はツチノコより少ないため市場では顧客はほぼいないことになっていると思う。だから態々アメリカから取り寄せたのだ。向こうではまだ若干市民権があるためである。


 ショートカットキーどうすんの問題


 日頃から私のタメにならないnoteを読んでくれているほどかしこい皆様はすぐに気づくかもしれない。

 「ショートカットキーどうすんの」

 一般的なショートカットキー配置はQWERTYキー配列に合わせて配置されている。ゲームにおけるWASD移動などもその仲間である。Dvorak配列ではこれらのショートカットキーが使いづらくなる。どうすればいいのか。

 使 わ な き ゃ い い じ ゃ な い 。

 テキストエディタを例に挙げてみるとLinux畑でもよく利用されるVi/Vimの入力において、何故カーソルの上下左右がhjklに割り振られているんだろう。
 これはQWERTY配列ありきのキーの並びであり、例えば全く違う配列のキーボードを使用した時極めて扱いづらくなってしまう。

 ならもっとわかりやすい配列のエディタを使えばいいだけである。

 Emacsというエディタはその辺の親和性が高く、CtrlやMetaキーの修飾キーと英単語の頭文字で操作が出来る。

 Ctrl+B (Back) : 一文字戻る
 Ctrl+F (Forward) : 一文字進む
 Ctrl+P (Previous) : 一行戻る
 Ctrl+N (Next) : 一行進む
 Ctrl+A (Ahead) : 行・段落の先頭に移動する
 Ctrl+E (End) : 行・段落の末尾に移動する


 めちゃくちゃわかりやすい。

 関連する英単語だけ覚えておけばどのような配列のキーボードでも容易にショートカット出来るわけだ。
 そしてDVORAK配列キーボードにおいては頻出アルファベットは押しやすい一等地の位置にある。これが重要。
 CtrlやMetaキーを使う機会が多いため、できればAの横にCtrlのあるSUN/UNIX配列のキーボードの方が押しやすいが……

 と、またまた脱線したがショートカットキーに関してはEmacs式というか、英単語イニシャル方式に設定してキーマップでも保存しておけばいいだけだと個人的には思う。最初にちょっとしたメンドクササを支払えば良いだけだ。

 DVORAKを使う時にショートカットが障害となる、ではなくDVORAKを使うためにOSのショートカットを書き換えればいい、ということだ。


 


 変態役満


 と、変わった配列のキーボードを使いたいがために変わった操作のテキストエディタを使っている私だが、実はもう一つ変なものを使っている。
 それは日本語入力システム「SKK」と呼ばれるものだ。
 これは文章書き全てに無条件でオススメしたい入力システムなのだが、これに関して気合を入れて書くと文章量が今の数倍というとても気持ち悪いことになるので、このシステムの紹介周りで最も解説が詳しく分かりやすいニコニコ大百科の記事を貼り付けておこう。
 ここより平易でしっかりとした解説を私は知らない。



 まあ簡単に言うと
「予測変換能力を捨てて漢字変換する範囲をユーザーがマニュアルで指定することで誤変換や誤区切りを著しく減らす」
という入力支援システムである。

 この発想は80年代にNECが採用していた「M式キーボード」というものの変換方式に近い。M式は予測変換をするのではなく
「漢字モードに切り替え音読みで漢字を入力、ひらがなモードに切り替え送り仮名を打つ」というような仕組みとなっていた。
 発想としてはSKKもこの方式に似て「ここまでは漢字、ここからは平仮名」をユーザーがマニュアルで指定するという特徴を持っている。

 何故これが物書きにオススメか、というと。
 一般的な漢字変換入力システムでは
『打ちたい文章をある程度区切りごとに入力してから変換する』ものとなっている。

こんにちは →確定
あなたは →変換 →貴方は →確定
げんきですか? →変換 →元気ですか ? →確定
 
 あなたは鉛筆で手紙を書く時こんな手順踏むだろうか?
 即ち、文節ごとに一旦平仮名で書いて平仮名を消して漢字に書き直す、という手順である。 

 ごく一部の特殊な人を除けばそういった事はせず、文章を漢字を交えながら頭から書いていくはずだ。余計な変換の先送りによるワンクッションが発生しない、ということでかつてのM式やSKKは脚本家やライター界隈に意外と支持者が多い。有名所では首藤剛志(アニメポケモンの初代メインライター)氏が全く同じ理由でM式を愛用していたようだ。

 さて、その古のキーボード配列、M式の配列を見てみよう。

 ※実際は漢字変換モードなどでもっと複雑な動きをする

 んんん……?
 んん……?

 この配列、何処かで……

 そう、Dvorak配列に発想が似ている。


 そう、即ち私がDvorak配列とSKKというニッチなシステムを推す理由がここにあり、この2つは非常に相性がよく、組み合わせるとM式キーボード入力っぽく扱うことができるのだ。
 つまりは入力の負担が少なく、考えた文章が考えた順番に変換・入力されていく、という形である。

 実はこの2つを組み合わせるとめちゃくちゃ扱いやすいので、暇があれば試してみるといい。勿論運指を覚えるまでに血の滲む程度の努力の初期投資はいるが。


 このように、私は

 ・DVORAK配列
 ・Emacs
 ・SKK

 と、日本国で全うに生きている人間はまず選ばないであろうニッチな組み合わせを好んでいる。なにがメクラチビゴミムシだ!その程度で嘆くんじゃないよ。こちとらドボラックイーマックスエスケーケーおじさんだぞ!!!!まいったか!


 

 課題点



 この変態役満。騙された!と思って一度試してみると面白いかもしれない。

 問題はDVORAKの物理キーボードというものはハッキリ言って絶滅危惧種で、今回はアメリカから手配することができたが、今後の供給・生産は果たしてどうか。ラスト1台だったし。

 また、Emacsは修飾キーとしてCtrlキーを多用するため、Ctrlはブラインドで押しやすいAのキーの左横にあってほしい。Capslockとかいうどこの馬の骨かもわからんやつにそのキー位置は相応しくないのだ。

 できればキーボードがメカニカルスイッチだと尚良い。

 しかし、これらの条件を満たすキーボードはほぼ存在しない。
 普通のQWERTY配列キーボードをフリーソフトウェアでDvorak配列として認識させるのもありだが、キートップに書かれたQWERTY文字によるまやかしがどうにも判断の邪魔をする。

 現状で要件に一番近くなるのは
「無刻印のHKKBを買って」
「フリーソフトでDvorak配列として認識させ」
「キートップにDvorak配列のシールを貼る」

 というのが一番無難だろう。

 もう自作した方が早いんじゃないかな。




 kaz





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