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泣きたい時に読む小説「知恵の実をかじる私」vol.2

前回のお話 ↓


第1章 想い出の街


凛と街で再会してから数週間。ふとした時に思い出すことが多くなっていた。そんな折、凛から突然のLINEが入る。

「都合の良い日に会えないかな」

凛からの突然のLINEに、私の胸はドキドキと高鳴った。そもそも久しぶりの連絡だったので驚いたが、街への誘いに思わず顔が緩んでしまう。

それでも、私には家族がいる。気持ちを抑えつつ、ためらいがちではあるが返信を始める。

「はい、喜んで」

送信ボタンを押すまでに、長い時間を要した。頭の中では「本当にいいのかな」との声と、「楽しみだ」という気持ちがもつれ合っている。

しかし、わたしはそのまま送信ボタンを押したした。

その後、LINEのやり取りを重ねて約束が決まった。近日中に会えることが決定した時は、胸の高鳴りが収まらなかった。

当日を楽しみに過ごす毎日だったが、その間もふと凛のことを思い出す場面が多かった。

スーパーで買い物をしていて、凛が好きだった駄菓子を見つけると、ついつい昔を思い出してしまう。遊びに出掛けた公園で、凛と鬼ごっこをした思い出が甦る。料理をしていても、幼いころに凛の家で食べたお母さんの手料理を懐かしく思い出す。

そうした日常の些細な場面で、過去の記憶が蘇るたび、胸の高鳴りを覚えるのだった。現実とのギャップに戸惑いを感じつつも、凛と会えるその日が楽しみで仕方がない。

迎えた当日の朝。いつもより1時間ほど早く目が覚めた。念のためにセットしたアラームを自然と切り、ベッドから飛び起きる感覚があった。

朝ごはんのメニューを考えていると、凛が好きだったサンドイッチや果物を想像しはじめる。こんなにはしゃいでいる自分が少し恥ずかしくもある。

洋服を選ぶときは、しばらく前から用意していた新品のワンピースを即決した。少しおしゃれ目の服を着てみたいと思っている気持ちがあった。

平日以上に力を入れ、メイクを少し濃くしてみたり、自分でも意外なほどきれいに見えた。でもちょっぴり不安で、この出で立ちで大丈夫かしらと鏡の中で確認を重ねている。

この日を楽しみに待ちわびた分、いざそのときを迎えると、ドキドキしながらも嬉しさで胸がいっぱいになっていった。

約束の時間より少し早めに駅前につくと、すでに凛の姿があった。ほっと一安心して近づいていく。

「ごめん。待たせちゃった?」

「いや、そんなことないよ。さっき来たばかりだ」

気軽な言葉を交わしてから、二人で公園へ向かう。

「変わんないなぁ、20年経ったけど。懐かしいな」

「そうだね。小さい頃よく遊んでたもんね」

「よく鬼ごっこしてよね。楽しかったなぁ」

「本当だな。あの頃が一番楽しかった」

そんなふうに過ごした日々を偲びながら、次の場所へ向かっていた。

公園を後にし、次に訪れたのは子どもの頃に通っていた小学校だった。

「この校門も昔のままだな」

「うん、全然変わらない」

校庭は休み時間に駆け回っていた昔の姿が目に浮かぶ。

「ねえ、凛ってあのころはクラスで一番の人気者だったよね」

「そんなことないって。でも楽しかっよな」

「そうだね、楽しかった」

当時の楽しかった思い出話に花が咲き、ふと時間の流れを忘れそうになる。

その後、二人は街をぶらぶらしながら、懐かしの思い出話に酔いしれていった。

しかし、街を歩いていると現実がよぎる。私には家族が、彼には仕事がある。

ふとした瞬間、私たちは立ち止まり、互いの瞳を見つめる。

「本当に楽しかったな」

「うん、楽しかった」

そう言葉をかわし、しばらくの沈黙が流れる。

過ぎ去った日々の絆は変わらない。だが今を生きる自分たちには、それぞれに守るべき現実があった。

互いの現状を知りつつも、大切な人と過ごした日々の想い出に心は揺れ動いていた。



泣きたい時に読む小説「知恵の実をかじる私」vol.3
第2章 日常の狭間で へ続く…

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