読書感想文「仕事にしばられない生き方」ヤマザキ マリ (著)

 2019年版の最新のマリ伝である。当然,いまのマリの視点から人生を省みている。息子デルスがハワイ大学を卒業する,この区切りのついたタイミングでの一冊と言えば,通底するものが伝わるだろうか。生業としてではなく,食いつなぐためにサバイバルしてきたマリ。
 そんないつものマリ節ではあるもの新たな話もあった。それは,キューバ。疲弊する一方のイタリア時代にあって,より貧しいはずの現地で幸せを発見する。大地とともに暮らす人々,そして喜び,悲しみを分かち合い,踊る人々。そんなゴーギャンのような「発見」をし,孕んだ場所。今後,キューバはより詳しく書かれるのではないだろうか。
 その一方で,リスボンの記憶は美化されている。あれだけ愚痴ってたのにな,とも思う。
 自分の経験や知識をもとにやりたい仕事を自分の生業やミッションだ,と感じながら邁進できる環境を得,ますます魔女になるマリの一方で,ただただ優しく,研究者生活を送っていたはずの夫ペッピーノの人生とは?どんな爺さんになれるのか?といらぬ思いが湧き上がる。少し気の毒だな,と。


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