いい本ないかな

読書感想文「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」大島 真寿美 (著)

「傑作を通じて,才能を世に知らしめる」ことを待ってもらうことが許された男・近松半二その人の物語である。中年になっても阿呆ぽんと呼ばれつつ,そうして待ったもらえた時間の末に,因果の渦の底に身を置き,立体的な関わりが筆を走らせた。
 治蔵や正三が虚無に襲われながらも,半二は酒や仕事に溺れない。芝居という虚の世界にズブズブと自分を沈め,「毒をもって毒を制す」ことで真っ黒な深淵を覗き込むのを防いだ。虚無は

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読書感想文「チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学」小川 さやか (著)

2019年,最もホットな一冊だ。抜群に面白い本なのだが,何が面白いのか。愛すべきキャラクターの主人公・カラマが面白いのか。カラマ大好きの著者である突撃姉さん・小川さやかが面白いのか,シェアリング経済と人が次々と入れ替わりながらも維持される香港のタンザニア・コミニュティとICTテクノロジーの関わりが面白いのか,いや,どれも面白いのだが,本当に面白いのは,こうした香港のウラ社会・ダークサイドを研究する

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読書感想文「戦国の教科書」天野 純希 (著), 今村 翔吾 (著), 木下 昌輝 (著), 澤田 瞳子 (著), その他

最新の歴史学の研究成果を踏まえ,歴史小説をアップデートさせようとする意欲的な試みである。6人の今,注目されるべき小説家が,下克上・軍師,合戦の作法,海賊,戦国大名と家臣,宗教・文化,武将の死に様のテーマに挑み,小説の面白さが解説・ブックガイドに直結する楽しみを与えてくれる良本だ。
 時代小説は,これまで江戸時代の軍記物や講談,浪曲などの影響が強く,歴史学上の新発見や新たな定説は置き去りにされること

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読書感想文「仕事にしばられない生き方」ヤマザキ マリ (著)

2019年版の最新のマリ伝である。当然,いまのマリの視点から人生を省みている。息子デルスがハワイ大学を卒業する,この区切りのついたタイミングでの一冊と言えば,通底するものが伝わるだろうか。生業としてではなく,食いつなぐためにサバイバルしてきたマリ。
 そんないつものマリ節ではあるもの新たな話もあった。それは,キューバ。疲弊する一方のイタリア時代にあって,より貧しいはずの現地で幸せを発見する。大地と

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読書感想文「八本目の槍」今村 翔吾 (著)

世に響いた「賤が岳の七本槍」それぞれを描く短編集。同級生,同期入社組の関係である。いつまでも,当時の話しで盛り上がれる互いの関係を持ちながらも,三成の死をそれぞれが解きほぐす。七本槍と三成と経済の組み合わせを一冊の本とした著者のアイディア勝ちである。
 財政と金融の実務官僚として,その仕組みを握ってしまった三成。兵站の供給だけでなく,戦争を止めるのは財政であると,その本質を見抜ぬく三成のヴィジョン

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読書感想文「ランチ酒 おかわり日和」原田ひ香 (著)

その後が気になっていた話しを読むことができた。娘と別れて暮らす見守り屋の祥子が主人公の続編である。時間というものは,人を一つの状態に留め置かない。祥子と関わる顧客らとの関係が,それまでの「見守る」ことから,はみ出してしまう。それは彼女と,娘や元夫との関係も同様で,彼らの今を尊重しようと思うばかりに,自分の気持ちを押しとどめていたものが,アウトプットを始める。そうして自分と娘,自分と顧客たちの関係が

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読書感想文「稽古の思想」西平 直 (著)

お稽古について,正面から答えを出していこうとする著者の企図である。「稽古はそのつど本番である」。あぁ,これを言ってくれてスッキリしましたよ。対比される練習とは,「本舞台(試合)を目指した事前準備である」。稽古が重たいのは,本番だから。稽古とは,試験会場に向かうことだ,と思うことにした私は間違ってなかった。
 「固くならないで」,「力が入りすぎている」と言われることについては,「力を抜く」とは,まず

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読書感想文「ある男」平野 啓一郎 (著)

変身である。能面をつけること,仮面ライダーがポーズを取ること,遠山の金さんが着けた裃を脱ぐことなど,何者かになった後,その何者かであることを理由に「力」を発揮する。このとき,A→Bなのか?という疑問がついて回る。A→A′ は本質的にはAなのであって,決して,そもそも異なるBになったわけではないのではないか?という疑問なのだ。それは,A→A′ →Aと,なすことをすませると戻ることからもわかる。
 あ

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読書感想文「本所おけら長屋」 畠山 健二 (著)

毒にも薬にもならない,ただただ眺めていられる話しがある。最近の時代劇だと,NHK「小吉の女房」,「大富豪同心」なんかがそう。安心して眺めていられる。この本もそんな一冊。
 下町の長屋が常に舞台。通りを面した12世帯と大家が繰り広げる短編集なのだが,決まって飛び出した案件を,そっと片付ける役が,浪人・島田鉄斎。このお侍さんが,格好いい。問題は必ず解決する。しかし,大家をはじめ,その活躍を知る人はごく

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読書感想文「ランチ酒」原田ひ香 (著)

乾き,かさついた主人公・祥子をとりまく事態が,日々,新たに起きる。そんな中,みずみずしさを現すのが,夜勤明けのランチ(夕食か?)と酒,そして別れて暮らす娘だ。
 それぞれの食事のシーンでは,まばゆい位に食事に日が当たる。そして気がつけば,注文してしまうランチ酒。昼酒とは,カタギが飲まないものである。その罪悪感と優越感が,祥子を際立たせる。自由さ,とも言えるが,ドロップアウトである。この寄る辺なさ,

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