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小学校プログラミング教育の5つの留意点の提案 ~小学校プログラミング教育の授業を参観、参与観察して感じたことから~ 2/2

 昨日投稿した、その1に続いて、小学校のプログラミング教育が必修化された現在において、5つの留意点を提案していく。今回は残りの3点を取り上げる。

(3) 児童のプログラミング的思考を伸ばす展開
 ビジュアルプログラミングソフト「Scratch」を操作しながら、行き当たりばったりでプログラムを組み変えることは、試行錯誤ではあるものの、学習の前後で、自分がどこまでできて、何ができないかをメタ認知することができないからである。つまり、学習の質を下げてしまう恐れがあるからだ。
 プログラミングに取り組む前後の活動が重要となる。

 活動前では、「自分の実現したい理想の動き」に対し、どのようにプログラムを組んでいくとよいかを予想させる機会が大切である。参観した授業では、「設計シート(ワークシート)※」を用い、想定した動きを言葉に表し、それをもとにして、設計図やフローチャート図で、どのようにプログラムを組むかを考えていた。なかなかこれらを書きまとめることができない児童は、絵で表現させていた。 
 「どのような順番で指令を与えるのか」「何がきっかけで動作するのか(条件分岐)」や「スプライトごとに動きが必要であること」を児童に意識させること上で、活動への見通しをもつことができ、一つ一つの活動がもつ意義を意識して活動に取り組むことができた。

 ※設計シートについては、後日画像で掲載を予定している。

 活動後では、組んだプログラムを実際に動かし、実際の動きと「理想の動き」とを比較し、どこまで「理想の動き」に近付けくことができているかを検討する時間をもつことが大切である。
 この活動において重要なのは、「実際」と「理想」を比較して、その差異を見出すだけではなく、なぜ「理想の動き」ができたのか、できなかったのか、その原因を追求していくことである。そして、新たにどのようにプログラムを修正・改善したらよいかを次への課題を考えてさせたい。
 この場面を設けることで、1時間の授業で考えたことを整理することができ、この1時間で、どこまで自分自身を高めることができたのかメタ認知することができる。たまたまプログラムを組んだら「理想の動き」になったとしても、児童の思考力の伸びはないのである。
 参観した授業では、要所要所で、赤ペンで自分の「設計シート」を修正する時間をもっていたが、予想していたプログラムではうまくいかなかった箇所に、印は付けていたものの、改善案が書き加えられることはなかった。残念ながら、プログラムを組みながら、紙のワークシートに書き加えていく方法は、思考を遮断する傾向にあり、現実的ではないと思われる。
 授業の終末に、全体を通して「どんな壁に当たり、どうその壁を乗り越えていったのか」活動後に、振り返るくらいしかできないのではないかと考える。よい方法があれば、ぜひご意見いただきたい。

(4) 教師の立ち振る舞い
 プログラミング教育は、児童主体で学習が展開されるため、これまでの一斉型学習のように、教師主導で児童に知識を教え込む(制御するような)学習スタイルでは、当然うまく機能しない。
 そこで、教師の立ち振る舞い(指導観)の転換が求められる。児童が自ら考えて、学習を進められる学習環境をつくることと、その質を高めるための支援する「ファシリテーター」でなくてはならない。操作に困ったり、プログラムの組み方が分からなかったりするのを助けるような単純な支援ではなく、学習の質を高めるための支援であることを間違えてはならない。

 学習の質を高めるための支援に必要だと思った要素を、以下に箇条書きで記したい。

〇 発問を吟味し、本時の活動目的(ゴール)を児童に明確に意識させている。
〇 活動の見通しをもたせ、目的達成のために自分がどう行動すべきか意識させている。(プログラミングは目的達成の手段)
〇 教師が答えを簡単に言わない、児童の思考の機会を奪わないようにしている。
〇 児童の活動が目的から逸脱した場合など必要に応じて活動を止め、活動の目的を再確認し、活動の質を落とさないようにしている。
〇 児童の自由な発想を肯定的に捉える意識をもっている。
〇 活動の時間をあらかじめ、児童に伝え、時間のメリハリをしっかりしている。
〇 授業の終末でまとめや振り返りの場面を確保し、活動をやりっぱなしで終わらない。
〇 児童の言葉(気付き)から、一時間の学びを振り返るようにしている。

(5) 小学校プログラミングに関する今後の展望
① 教師自身が、プログラミングの楽しさを知るべき
 よく言われることであるが、教師は新しいものに対し、石橋をたたきすぎて渡る傾向にある。
 もともと私自身も、Scratchを含め、プログラミングの経験がない一人だった。一人で、Scratchの解説書を見ながらプログラミングするよりも、NHK for Schoolの「Why?プログラミング」を視聴したり、ゼミ生と一緒に遊んだりして、慣れていった経緯がある。まずは一つ一つの操作を覚えるのではなく、触ってみて、何となくの感覚を覚え、プログラミングの楽しさを感じて欲しい。

② GIGAスクール構想によって消えたのか?小学校プログラミング教育
 現場では、GIGAスクール構想により、日常生活の中でどのようにタブレットを使おうか。まだ、そのステージにいる学校が垣間見られる。その状況もあり、小学校プログラミング教育は消えてなくなったのではないかと思うほど、プログラミング教育の授業研究の報告が聞こえてこない。
 小学校プログラミング教育が、タブレット導入に現場がその対応に追われていて、プログラミング教育に労力を注ぐことができないことが挙げられる。また、教科ではないことで強制力が薄いことや、現段階でも、何から手を付けてよいのか分からない教師が多数いることが原因として挙げられる。プログラミング教育の活動ありきではなく、もう一度、なぜプログラミング教育が必要なのかを再確認し、市教委レベルで奮起しない限り、小学校プログラミング教育の再起は無いように感じる。
 GIGAスクール構想による1人1台端末が揃った今だからこそ、一人一人の思考力を高めることができる小学校プログラミング教育がさらに活発に行われるチャンスであることは確かである。


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