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なぜ今スタートアップスタジオがスマートマネーを惹きつけるのか

監修:玉井和佐 翻訳:和田健太郎、和田みさと

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スタートアップスタジオとは、複数のスタートアップを同時連続的に立ち上げる組織のことを指し、別名「ベンチャービル ダー」とも呼ばれます。スタートアップの初期段階で重要となる経験豊富な人材プールと専門的な知見を提供することで、スタートアップ立上げを担います。

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スタートアップスタジオが投資している会社にはユニコーン(企業価値10億ドル以上の企業)も数多く現れはじめ、遠隔医療のスタートアップであるhims & hers、データウェアハウスを提供するSnowflake、ユニリーバが10億ドルで買収をしたことで知られるカミソリのDTCブランドのDOLLAR SHAVE CLUBが事例として挙げられます。

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スタートアップスタジオの背後にはピーターティールや、マークアンドリーセンをはじめとするエンジェル投資家や、ディールフロー及び投機を目的としたベンチャー・キャピタル、アマゾンやナイキ等の新規事業創出を目的としたコーポーレートマネー、そしてBLACKROCKをはじめとする機関投資家があげられます。

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代表的なスタートアップスタジオの事例及び調達額

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スタートアップスタジオの機能
 

スタートアップスタジオのコア機能は4つに要約されます。
   1. 複数プロジェクトの同時開発・発足
   2. エクイティや人的資本への投資
   3. 経営スピード向上とオペレーション効率化への集中
   4. 強力なサポートを提供する内部チームの確保
スタートアップスタジオの運用メリットは3つ挙げられます。
   1. 経験豊富なチームによる人的資本への投資
   2. 創業から初期のファイナンスに至るまでの確立されたプロセス
   3. ビジョンと成果を一致させるための経営権の共有

スタートアップスタジオは、投資先の支援機能をもつアクセラレーターやVCとの差異がよく論点としてあげられます。

アクセラレータは通常株式と引き換えに、限定された期間の中で資金調達支援やコミュニティを通じたサポートを行うのに対し、スタートアップスタジオは、共同創業者兼チームメンバーとしてプロダクトやトラクション作りといったより実務的なオペレーションを担います。

スタジオと他のスタートアップ支援を行う組織との比較

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悪いアイディアを素早く殺し、資本の再配置を迅速に行う仮説検証型のプロセス

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スタートアップスタジオには、それぞれアイディエーションからスピンアウトまでの体系化されたフレームワークが存在し、"Stage Gate"と呼ばれるフェーズごとの予算とマイルストーンが設けられています。スタジオはこの体系化プロセスの中で、「アイディエーション」、「仮説検証」、「トラクション(顧客)作り」、「規模の拡大」、「スピンアウト」を行います。悪いアイディアを素早く殺し、良いアイディアに資本の再配布を行うことでより高い資本効率で多くの仮説検証を行うことを目的としています。

また、報酬をエクイティでもらうことで、スタートアップの成長とともにスタジオは利益を最大化しています。スタートアップスタジオのエクイティは「スタートアップスタジオ主導型」、「パートナーシップ型」、「スタートアップ創業者主導型」のいずれかによって、10~60%あたりまで変動します。

スタートアップ創業者主導型は、創業者自らがアイディア創出や検証を行うケースが該当します。この場合においては、スタートアップスタジオの持分は約10%程度になります。

スタートアップスタジオ主導型では、スタートアップスタジオ内部のアイディアを基に、創業チームを外部のリクルーティングによって結成します。スタート時点では、スタートアップスタジオは100%エクイティを所有していますが、リクルートした創業メンバーの貢献に応じて、持分の10~50%をメンバーと分け合います。

パートナーシップ型では、スタートアップを創業者と共同で作り上げることでイノベーションを支援します。スタートアップスタジオ持分は、おおよそ10~60%の中間となります。

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創業時のスタジオの平均のシェアの獲得率は34%と高いものとなっています。

何故スタートアップスタジオがスマートマネーを惹きつけるのか

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スタートアップスタジオは通常、ディールソースとしての認知を投資家側から得ていることが多くあります。蓄積されたリスク回避のための知見、投資家のネットワーク及び、ファイナンスの再現性を活用できるため、通常のスタートアップよりも、より高いシリーズAまでの到達率を有しています。

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前述の到達率に加え、体系化されたプロセス及びタレントプールを有することによる「成長スピード」にも大きな差が見られます。通常のスタートアップのSeries A到達に有する時間が平均で56ヶ月なのに対し、スタジオ出身のスタートアップは25.2ヶ月となっています。

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これらのモデル、プロセス、スピードを踏まえVCの視点から見たスタートアップの平均のIRR(内部収益率)21.3%であるの対し、スタジオ出身のスタートアップの平均IRR(内部収益率)は、53%となっています。

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ケーススタディとして最も老舗のスタジオであるidealabを見てみると、5,000以上のアイディアが生み出され、150以上の企業が誕生し、45社以上がIPOか買収でエグジットに成功し、全企業の5%がユニコーンになっています。

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現在、スタートアップスタジオの数は560以上あり、2012年から2019年にかけて625%成長していることを踏まえると、新たなアセットクラスとしての認知が広がりつつあることが言えるかとおもいます。

まとめ: スタートアップスタジオの4つの強み

第一に、スタートアップスタジオは、同時並行で複数のスタートアップを手掛けているため、多様性に富み、優秀な人材・テクノロジー・データ分析・AI・マーケティングなどのリソースを水平展開することができます。これは、VCにはないスタートアップスタジオの優れた特徴といえるでしょう。この水平展開により、単体では多様性の小さいスタートアップのリスクを分散することができます。

第二に、優秀な人材を必要な場所に素早く配置することで、新規プロジェクトを滞りなく前に進められる環境があります。スタートアップ単体よりも、スタートアップスタジオのネットワークを利用する方が、優秀な人材を集めやすいのです。優秀な人の中には、一つのプロジェクトに集中するのではなく、共通の性質を持つ類似したプロジェクトと一緒に仕事を進めたいという人も多くいます。

第三に、過去に起きた失敗、創業者のバイアスを回避することや、悪いアイディアを早めに潰したりと、あらゆる損失リスクを軽減するための体系的なプロセスを確立しています。

第四に、スタートアップスタジオは、IPOやM&Aによる第三者への売却などのイグジットを素早く行っています。ゼロから会社を立ち上げ、規模を拡大し、イグジットするまでの期間は、従来のスタートアップと比べて約半分近い数値となっています。

このようなメカニズムにより、スタートアップスタジオは新たなモデルとして認知を広げています。

参考文献

1. GSSN (2020, December 15) Disrupting the Venture Landscape White Paper.https://www.gan.co/wp-content/uploads/Disrupting-the-Venture-Landscape_GSSN-White-Paper_121520.pdf
2. CB Insights (2018, September 6) Venture Capital Funnel Shows Odds of Becoming a Unicorn are About 1%. Research Briefs. https://www.cbinsights.com/research/venture-capital-funnel-2
3. Pitchbook (2017, October 23) 2008 Vintage US Buyout Funds with Materials and Resources Investments. PitchBook Platform. https://pitchbook.com/newsletter/2008-vintage-us-buyout-funds-with-materials-and-resources-investments-Ypp
4. Wood, M. (2020, February 3) Raising Capital for Startups: 8 Statistics that Will Surprise You. Fundera.
https://www.fundera.com/resources/startup-funding-statistics
5. Rider, J. (2018, September 12) What Does It Take To Raise Your Next Round in 2018? Crunchbase News. https://news.crunchbase.com/news/what-does-it-take-to-raise-your-next-round-in-2018
6. Bowden, A. (2017, May 19) VC Investing Still Strong Even As Median Time to Exit Reaches 8.2 Years. VentureBeat. https://venturebeat.com/2017/05/19/vc-investing-still-strong-even-as-median-time-to-exit-reaches-8-2-years
7. GSSN (2019, March) The Rise of Startup Studios White Paper.
https://www.gan.co/wp-content/uploads/2020/03/The-Rise-of-Startup-Studios-White-Paper.pdf
8. Idealab 
https://www.idealab.com
9. Enhance Ventures 
https://www.enhance.online

尚、本記事は「GSSN: The Rise of Startup Studios White Paper」の翻訳、編集記事として掲載させて頂いております。当該和訳は適宜、英文の原文を参照いていただくようお願い致します。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。

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