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仕事を辞めてアメリカを歩くという決断

2022年夏、僕は仕事を辞めてアメリカのロングトレイルを歩くことにした。歩く道はアメリカのPacificCrestTrail(以下PCT)。
アメリカ西海岸のメキシコ国境からカナダ国境までの約4200kmという長い道のり。数日分の食糧を担いで毎日30kmほど歩く。熱い乾燥地帯もあれば、標高が高く雪のあるエリアもある。そんな道。


翌年2023年に僕はこのPCTを歩き切った。ついでに言うとこの旅は「最高」だった。
出発前に過去PCTを歩いた先輩方の話を聞いていて、みんな口をそろえて最高と言っていたが、その理由が行ってみて分かったし、こればかりは歩いてみないと分からないと思う。

ただ、当然苦しい場面やつらい場面も多々あったし、なんならもう辞めてしまおうかと思う場面さえもあった。



だけど、そんな記憶はどこかへ行ってしまった。ふと思い出すのは、あの壮大な景色の中、毎日歩いていた時の映像と、トレイル上や街で会った人々との記憶。あの道を歩いた人でしか感じることのできない感覚。

そんなことばかりが思い出されるので、結局最高だったなとなってしまう。自分の脳が都合のいいようにできていてありがたい。



そもそも、なんでPCTに行こうと思ったのか、備忘録と自分の中の整理のために文章で書いてみたいと思う。


なぜPCT?

世界を旅するという憧れ

僕は学生の頃から、「旅」するということに憧れていた。学生時代ママチャリで淡路島まで行ってみたり、小豆島を一周してみたり。ロードバイクで四国のお遍路に行ってみたり(無計画すぎて44ヶ所目で終了)と、旅っぽいことはちょこちょこやっていた。

この流れでずっと海外を旅してみたいなと思うようになった。ただ、一歩踏み出す勇気が出なかったし、今の時代、世界一周もありきたりなようにも感じてしまっていて、なかなか動き出せなかった。(行ってみて思ったがSNSで見るだけと、実際に行くとでは感じ方は全く違うと思ったので、世界一周もいいなと思った。でもPCTの方が面白いと思う。)

そんな折、世界でコロナが流行する。海外に行くどころではなくなり、なんとなく直近の人生において”海外を旅する”という選択肢を削除していた。

2022年。コロナも落ち着き。いつもの立ち飲み屋、いつもの常連友達にふと、「海外に旅したりせえへんの?」「俺は28歳の頃に海外貧乏旅してたで」と言われた。その時に、今まで頭の中から削除していた”海外を旅する”という選択肢が蘇ってきた。

ここで海外に旅しに行きたいと、又思うようになったおかげで、PCTという存在にも敏感に反応できたんだと思う。


アウトドアを手段に旅ができる

元々僕はアウトドアが好きだった。近くの低山に登りに行ったり、年に1,2回はテント泊をしたりしていた。(アルプスとは行ったことない)

多分自然が好きなのだ。特に人があまりいない自然の中を淡々と登ったり歩くのが好きだ。

そんな時YouTubeで知ったPCT。(現代っ子なのでカッコよく本とかではない、、)
衣食住を全て担ぎ、約5か月間もの間、アメリカの広大なトレイルを歩くことができる。

縦断するという目的のためにアウトドアをしながら、自分の足で歩き進めていく旅。

しかも、この道はすでに50年以上の歴史があり、ルート周辺の地域にはPCTハイカーへの理解もある。”ハイカーボックス”や”トレイルエンジェル”といった、アメリカロングトレイルカルチャーが根付いている。この感じはお遍路に行った時の感覚と似ている気がした。

歩くだけで自然に溶け込んで、向こうの人々とも触れ合えるのである。

歩いている中で感じたが、当然これらのことは世界一周の旅でもできると思うが、ハイキングという共通認識があることで、簡単にこれらのことがしやすいと感じた。

この旅を知った時、これは確実に世界一周を旅するより絶対に楽しそうだと思った。

しかも、専門的なスキルも資格もいらない。手順を追って準備すれば誰でも歩くことができる。こんなに魅力的な旅は無いなと感じた。


決断できた理由

結局僕の場合タイミングが良かったんだと思う。ギリギリ20代、独身、貯金もある程度あった。仕事を辞めても再就職は何とかなるかなという楽観的な感覚もあった。(帰国して1か月ちょっとなのでまだ無職)

先延ばす理由もなかったし、先延ばしにすれば行きたいという熱が下がってしまうという不安の方が大きかった。

ただ、正直安定した仕事を手放すのにはとても悩んだ。本当に辞めてまで行く価値があるんだろうか。ありがたいことに今まで何事もなく、レールに沿う人生を送ってきたので、そのレールから脱線して大丈夫なのかという不安もあった。決断するまでは自問自答を繰り返していたと思う。

自分の中で決め手になったのは、自分が死ぬときに行っとけば良かったなと、後悔してしまうと思ったからだ。大げさに感じるが当時それだけPCTに行きたかったんだと思う。そしてその決断は今のとこ間違ってはいなかったと思う。


最後に

PCTを歩いているときコテンラジオ聞いていて、仏教に少し興味をもった。特に原始仏教らへん。

調べていくと色々と考えさせられることがあったけど、その中でも「諸行無常」の考え方が特に印象的だった。聞いたことある言葉だったけれど深く意味を考えたことがなかった。

これは「すべての存在や事象は恒常的でなく、絶えず変化している」という意味。要は変わらないものなどないということ。これはPCTを歩いて強く感じたことの一つだと思う。

自分の気持ちだって変わるし、トレイルの状況だって少しづつ変わっていると思う。自分が見た景色は、前の人とも違うだろうし、後ろの人とも違うはず。2023年の景色は去年や来年とはまた違う。常に世界は変化しているんだと身をもって実感した気がする。

やりたいと思うことがあるなら、やるべきだと思う。いつでも出来ると思っていたらまさかの理由で出来ない可能性だってある。

当たり前は当たり前じゃないんだと、この旅を通して感じることができたし、これからの人生その感覚を忘れずに生きていきたい。














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