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もう一度、子ども達の声があふれる世の中に...

 基本的と言うか、原則的と言うか、子どもが元気に育つ事を願わない親はいない、と思っている。

 だけど、今、それが少しおかしな事になっている、なりかけているんじゃないか…それが気のせいであればいいんだけれど。

 まもなく40年を迎える社会人生活を、小児科医としてはやや端っこにあたる新生児集中治療を専門にして生きてきた。仕事は、今も昔も産まれた直後から健康状態に問題のある子ども達を、元気にしてご家族の元に送り出す…事で大きな変わりはないけれど、その中身は大きく変わった。
 40年前には、1000gに満たない体重で産まれて来た赤ちゃんが、元気に退院してゆく事は、一部の例外を除いてほとんどなかったけれど、今では500gにも満たない、本当に小さな赤ちゃんが退院して元気に大きく育って行く姿を見る事も珍しくなくなったなど、考えてみれば驚くべき事なのだろう。もちろん、小さく産まれた赤ちゃんばかりではなく、さまざまな病気を持って産まれてくる赤ちゃん達についても、少しでも元気にご家族の元に送り出せる様になった事は、生まれてくる子どもの数が減り続ける中、医療としてまだまだ難問山積ではあるけれど、それでも素直に嬉しい事と思う。

 その一方で、この間、予想をはるかに上回ったスピードで進んでいる少子高齢化。子どもの数はこの先どこまで減るのか、先行きが全く見えない状況だ。

 子どもの数が増えない、と言うことは、10年後20年後の働き手がいない、と言う事だけれど、深刻さの度合いが少しずつ増してきているとは言え、この先さらに人手不足が深刻化するであろうという事の重大さがどうにもまだピンと来ていない人が多い様に思う。

 実際、これは本当にとんでもな状態なのですよ…

 もう世の中、こんな状態な状態なのだから、産まれてくる子ども達は、ひとり一人、誰もがみんな貴重な存在。
 なのに、この数年、自殺する子どもの数は増え続けているし、自殺とまでは行かないまでも、貧困やらイジメやらで追い込まれている子ども達も少なくないなんて、子どもが大切にされているとはとても言えない現実がある。

 実際の所、もはやこのとんでもない状況を嘆いたり怒ったりしている場合じゃないんだけれど、残念ながら政府の言うところの「異次元の少子化対策」じゃ、こんな現場を変える事にはほとんど役に立たないだろう。

 じゃあ、どうするんだ…

 どう見ても、政治家のリーダーシップや行政からのトップダウンの対応は望み薄な感じだし、子育て世代のお父さんお母さん達が、今まで以上に子育てに「覚悟」をもって行くと言う事じゃないか。

 でも…「子どもを持つ」ことにそんな覚悟が必要だなんて誰も教えてくれなかったし、そもそもそんな事なら子どもなんて持たなかった、とか、もうこれ以上子どもを産もうとは思わない、とか思うかもしれない。それに、正直、個人が努力したところでどうにかなるって話、じゃないよね、っても思う。

 でも、じゃあ、どうするんだ…

 結局のところ、個人として「出来る事」をやる…って事なんだろう。
 四の五の言っても、結局はそれしかない、んじゃないか。

 じゃあ、個人が「出来る事」って何?

 親として、そして、子ども達の一番身近にいる「おとな」として、子ども達との接し方、子育てを今一度見つめ直してほしい。なにより、子どもを一人の「別の人」として、子どものいる毎日の生活を見つめ直してほしい。その上で、変える、変われるところを見つけてみる。日々の暮らしを見つめ直し、子ども達との何気ない日常をもう一度チェックしてほしい。

 多くのダイエットがうまく行かないのは、私たちが日常生活を変える事がいかに難しいのかを物語っているんだと思うと、日々の暮らしを見つめ直しても、それを変えて行くことは簡単じゃないけれど、毎日、一つでも二つでも、子ども達の元気な声や笑顔を取り戻す事から、はじめてみよう。

 やがてその輪が拡がって行けば、自ずと社会も変わるはず…… と信じたい。
 世の中にもう一度子どもの笑い声や元気な姿が溢れれば、電車の中で子どもの泣き声に舌打ちしたり、子どもの声が「うるさい」と保育園や学校に怒鳴り込人も減るんじゃないか。

 そして、私たちが暮らす日常が変わった先に、少子化と言う長いトンネルの出口が見えてくるんじゃないだろうか。

 泣いたりぐずったり、思い通りに言う事を聞かないなどなど、子どもを相手にしているとイライラする事も多々あるけれど、それでも彼らの何気ない仕草や笑顔を思い出して、そんな場面が少しでも増える様に、まずはそんな所から始められたらいいんじゃないかな…

 この年寄り(?)にこの先どんな事ができるんだろう、なんて考えるけれど、これからも子ども達から無邪気な笑顔や仕草があふれ出る様に、子ども達やご両親、ご家族のお手伝いができたらいいんじゃないか…なんて考えている。

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