はじめて写真集を出版する人へ

昨年私は写真集『Eostre』を自費出版しました。

写真家をしている人、写真家を目指している人なら自分の作品を写真集として発表したいというときがあるかもしれません。
しかし、写真集を作ると言ってもどこに相談したらいいかわからず、諦めてしまう人や納得のいかない物を作ってしまう人が多いようです。
せっかくなので、私が写真集を作ったプロセスをここに記したいと思います。

私は広島県竹原市にある大久野島を撮影していました。
ここはうさぎ島としてとても有名な場所ですが、一方で日露戦争の頃から軍事利用されてきた場所で、太平洋戦争当時は毒ガス兵器が作られていた場所でした。
私はこの歴史を小学生の頃に学び、そのことがずっと気になっていました。
大人になって、うさぎ島の印象だけが世間に広がり毒ガスの歴史がおまけのように扱われている気がして、私は大久野島に赴きました。
大久野島には毒ガス兵器を製造していた頃の廃墟や日露戦争の頃に作られた要塞跡が残されています。
私はそれらを撮影し、まずは写真展を行おうと思ったのです。

ギャラリーの人やアートスペースの人に相談したところ、皆首を横に振りました。
どうにも日本の加害の歴史というのがちょっと扱いにくいということでした。
また、作品としての注目より政治的、思想的なところで注目されて偏ったお客さんが来そうというのが理由でした。
ついには「竹下さん、左寄りですね」と言われる始末でした。
私はそんなつもりは全然なかったのですが、どうもウケが悪かったのです。
このまま発表を諦めてしまうのもアリだったのですが、大久野島の廃墟は年々劣化が激しく、豪雨の影響などで一部損壊しているところが目立ってきています。
遺跡がなくなってから「あれは大切なものだった」と嘆くより、今ある内に発表をしたい。
そう思い、写真集を作ることにしました。

写真集を作るに当たって出版社や写真業界の人に相談しました。
まず私のように売れてない写真家の写真集を出版社から出すのは難しいということでした。
まあ、それはそうだなと思いました。
また、写真集をもし出版したとしてそれが売れても写真家には印税が入らないと言われました。
世間的に評価をされている写真家でも出版に当たっては写真家が費用の半分を出し、残りの半分を出版社が出すという仕組みだと言われました。
もちろんこれは出版社ごとに仕組みが違いますし、ふげん社が行っているような出版ができるような賞もあります。
ただしそういう有名所の賞の場合、かなり名の知れた作家が多数応募するので競争率が高くなります。
はっきり言って私の実力では勝てません。
私は写真家の諸先輩方(写真家なら誰もが知っているだろう写真家たち)に相談をしました。
すると彼らも自費で写真集を出していると言いました。
自費で写真集を出す方法は大きく二つ。
出版社を通して自費で出す。
もしくは自分で個人出版社のようにして自費で出版する。
このどちらかです。
以上のことを踏まえて私は写真業界の先輩に会いに行きました。
この方は数々の写真家と交流があり、様々な企画もされてきた方です。
そこでこの人から提案されたのが自費で個人出版として出すことでした。
私のやりたいことをするにはその方がフットワーク軽くできるからいいだろうということでした。
また、かかる費用も回収できる費用も私のような立場の場合は出版社を通そうが個人でやろうが対して変わらないからです。

そうと決まれば早速準備にかかります。
写真集の個人出版にかかる費用から調べます。
写真集の出版にかかる費用は概ね100万円ほどです。
これは紙代、デザイン費、製本費、印刷費など含めてです。
私の場合はマット紙にカラープリントで300冊作ってこのくらいの価格でした。
本のデザインにこだわったり、色校をこだわったりすればするほどかかる費用は高くなります。

私は写真集に載せる写真を選び、ページ割を作ってから印刷屋さんにお願いしました。
デザインは印刷屋さんと相談してデザインし、色校をしながら作品を作っていきます。
この際、印刷屋さんと私(写真家)をつなぐ言語は写真プリントです。
出来上がりの写真のイメージをこちらが作ってあげないと印刷屋さんは困ってしまいます。
なので、写真集の紙とほぼ同じ紙でこちらが写真プリントを行い「色やシャドウ部のトーンなどこれでお願いします!」と自信を持ってお願いしなければなりません。
写真家によってはここのプロセスをあまりこだわらず、印刷屋さんに任せるという方もいらっしゃいます。

最初の頃はデータでのみでお互いやりとりをしますが、徐々に印刷屋さんから完成形に近い形の原稿が送られてきます。
こちらはそれを見て直してほしい点など指示をして、完成に近づけます。
ちなみに印刷屋さんにとって初めてのお客さんの場合は代金は先払いでした。
なので、印刷屋さんに相談の段階から作業の段階に入るときにはお金を用意しておかなければなりません。

印刷屋さんに相談をして、概ね数ヶ月ほどで写真集が出来上がりました。
出来上がりの写真集は宅配で送られてきます。
印刷屋さんと言ってもプロの写真家を相手にしているところなので、いわゆるネットプリントとは全然わけが違います。
プリントの質が違うというのはもちろんですが、こちらがわからないことをほんとに丁寧に教えていただけます。
そういう意味でも個人で出版をした意義はあったなあと感じています。

繰り返しになって恐縮ですが、大久野島の写真集を販売していますので、もし興味がありましたらどうぞ。


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