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心の底から感動した一冊『アンコール・ワットと私』

読み終わった後の感動を忘れないうちにnoteに書き残しておこうと思います。

まだ興奮冷めやらぬ状態なので、乱文お許しください(いつもかな?)

一昨日から『アンコール・ワットと私』を読み始め、昨晩ちょうど読み終わりました。

実はもともと発売された2018年に購入していたのですが、他にも遺跡関連の本を「積ん読」していた状態だったので、申し訳ないことにずっと寝かせた状態のままでした。

早く読めばいいのに、もったいないことをした……

そんな自分に転機となったのは、先週放送された「世界ふしぎ発見」のカンボジア特集。数秒だけ、著者である石澤良昭先生が出演なさっているのを拝見して、この本の存在を思い出しました。

せっかくならこの機会に読んでみるか……と思って、何気なくページを捲り始めたのですが、もう止まらない!笑


おそらくカンボジアや遺跡にあまりご興味のない方(きっと大半だと思う)は、「え?何が面白いの?」と思われるかもしれませんが、この本の魅力は歴史的な考察部分ではなく、著者である石澤先生がいかにしてアンコール遺跡の研究に辿り着いたのか、というご自身の軌跡の部分です。

「これ、大河ドラマにしたらいいんじゃないかな?」と思うようなドラマチックな展開は、遺跡に直接興味のない方でも十分楽しめると思います。

石澤先生といえば、アンコール遺跡研究の泰斗として有名ですが、くわしいご経歴についてはあまり知られていなかったように思います。

ざっくりと本書の内容から抜粋すると、こんな感じです。

  • 1937年に北海道で生まれ、1939年にお父様のお仕事の都合で旧満州(現中国東北地方)に移住

  • 旧満州で国民学校に通うが、2年生のときに現地で敗戦を迎え、1949年に日本に帰国

  • 小中高は北海道で過ごし、高校時代は英語に熱中する

  • 上智大学フランス語学科に進学。一年先輩の井上ひさしとともにポール・リーチ神父に師事し、学生時代にフランス語を習得(フランス人と対等に議論できるレベル)

  • 1960年にリーチ教授に連れられて、アンコール遺跡を保存修復しているフランス極東学院を訪れ、はじめてアンコール・ワットを目にする

  • 1961年、再びリーチ教授に同行してカンボジアを訪れ、アンコール研究の道に進むことを決意。日本に帰国せず、そのまま現地に残りグロリエ氏に師事する


この後、ベトナム戦争(1960〜1975年)とカンボジア内戦(1970年〜1993年)が勃発するのですが、その後も一途にアンコール研究を続けるお姿に感銘を受けました。

1960年といえば、石澤先生がまだ20代前半の頃。

その年齢で、「自分の人生を賭してもいい」と思えるような存在に出会い、ひたすら情熱を傾け続けることがいかに稀有なことか。

年表に出来事を書き出すだけだと無機質な感じがしますが、本書を一行ずつ読み進めると、そのときの状況がありありと伝わってきます。


石澤先生の著書はほかにもたくさんあり、わたしも既にいくつか読んでいるのですが、本書はその中でも際立ってすばらしい名著だと感じました。アンコール研究に対する情熱とお人柄が伝わってくる一冊です。

本書にこんな一節があります。

私は、アンコール・ワットの歴史の解明をわかりやすい普通の言葉で語り、お伝えしたいと願ってきました。こうした学問や研究成果というものは、いつも一般のみなさまに還元され、現地カンボジアの人たちに還元されていくべきものであると考えております。

石澤良昭『アンコール・ワットと私』より抜粋

石澤先生率いるアンコール遺跡国際調査団では、常に「カンボジア人による、カンボジア人のためのカンボジアの遺跡保存修復(By the Cambodians, for the Cambodians)」を掲げてきたといいます。

単なる遺跡研究や修復活動ではない、相手への思いやりが根底にある一連の活動に胸を打たれました。



久しぶりに心を揺さぶる一冊に出会えたなぁ……と今は心地よい充足感でいっぱいです。

ふだんは同じ本を読み返すことはあまりしないのですが、この本は改めて何度でも読み返したくなります。「一流の研究者ってこういうことなのか…」と噛めば噛むほど味わい深いです。

願わくば、こういう名著こそ世に出回ってほしい。

たしかに、テーマとしては一般的に馴染みが薄いし、流行りの本みたいに目立つ表紙も帯もありませんが、中身はまさに「ホンモノ」です。


もしも近所の図書館などで見かけることがあったら、前半だけでもぜひ読んでみてください!



みな

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