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移民 2

旅が終わった

ふっとそんな気持ちになった

ガラス越しの
水鳥の声が
再び耳に舞い戻っ来た


旅の始まりは
エリス島の移民局。

ガレージの奥でみつけたトラベルチェストの持ち主は?

その時はこんな結末になるとは思っていなかった。
こんな結末というか・・
いつだって思わぬ偶然は見つかったりするわけで。

この古いトラベルチェストは、果たしてアメリカ・エリス島の移民局を通過してきたものかしら?
チェストの端っこに赤いペンキで記されたラインが
到着した時の振り分けに
何か意味するものだったのではないか。

ペンキの赤いライン

そんな憶測が過去への旅の始まりだった。

虫眼鏡を持ってきてトラベルチェストのネームタグを読む。
Dana?
そしてそのあとに、夫ジェイと同じファミリーネームが彫られている。
それはつまり、現在の私のファミリーネームでもあるわけで。

かつてエリス島移民局を通過したという
6400万人のデータに検索をかけてみる。

not found

え~同じ名前の人さえひとりもいないの?
ちょっとびっくりである。
ネームタグに彫られているのは筆記体の文字で私にはとても読みづらい。
ここんとこ続いてる?Dana? あるいはDona?
再び虫眼鏡で確認である。
Donaにファミリーネームを入れさらに男性
そう入力するとDonaldという名前がヒットした。
最後の居住地/出生地 の項目に
上海とある。

これはちがうだろう。
ジェイのファミリーネームはスコットランド由来だと聞いたことがあったのだ。

近い名前
スペリング違い
近い音
そうフィルターをかけるが
思うものがヒットしない

何か手掛かりがないものか。
ふと思い出したのがジェイの養父の書類が入った紙袋。
養父が亡くなった時にジェイが揃えたものである。
そしてそこで見つかったのが
Danaの名前。
やはり。
養父の父の名前として、養父の出生届に記入されていた。
しかしよく見るとそのDanaの出生地もバモントとあるではないか。
アメリカ・バモントはつまり夫ジェイの生まれ故郷だ。

Danaがアメリカに移住してきたわけではなかった。

裏にDanaと記されていた
トラベルチェストの持ち主

Dana が1900年代初めにスコットランドからアメリカに移住
このトラベルチェストを持って
そんな事を夢みたいに考えていた。

でもその上の世代だとしたら?

試しにファミリーネームだけで検索にかける
243件のヒット
ひとつずつスクロール
すると
Thomasのファーストネームで1868年、スコットランドからこのエリス島移民局を通過した人物がいるではないか。
Danaの生まれは1881年
可能性としてはそのまた父?

しかしそれ以上の手掛かりはなにもない。

とにかくこのトラベルチェストの持ち主がエリス島の移民局を通過したのでないことだけは判明した。
それだけのことだったか・・・

Danaの写真を袋に戻そうとしたとき
それに重なった袋の上に走り書きで
The wood family
と書かれているのが見えた
Wood?
誰のファミリーネーム?
それは私たちのファミリネームではない。

中には黄ばんだ紙数枚に、Woodファミリーらしき名前がずらりと並んでいる。

ひとつずつを追っていく
あった!Danaの名前が。
DanaがこのWood家のAlmaと結婚している。
そういうことか
Alma Woodも検索にかけてみる
12件のヒット
しかし1900年代にエリス島移民局を通過している。
違う
これも違う

手元のWood family を初めから読み直すと
Danaのずっと前、Jesse Woodがバモントで農地を買ったとあるではないか。
1800年。
Settle inとあるのでどこか違う土地からやって来て新しく生活を始めたということだろうか?
彼の生まれは1776年。
まさにアメリカが独立した年だ。

なんのことはない
エリス移民局ができるうんと前にこの家族はもうアメリカに住み始めていたのである。

移民局ができる前の移民って?
入り放題?知りませんけど(笑)

このデータベース以前の出来事である以上
それを知る手だてはもうなかった。

しかしこれはトラベルチェストの持ち主Danaの妻側のファミリーヒストリー。今私が持っているDanaと同じファミリーネームの側、あるいは夫ジェイの養母側のことを考えるとその膨大な数の中で確実に誰かはこのエリス島を通過しているのではないだろうか。
なんせ現アメリカ国籍の人の40%の先祖はここから入国していると言われているくらいだから。

しかしこの結末で私を大きく驚かせたことがひとつあった。
こんな偶然があっていいものか?

トラベルチェストの持ち主Danaの妻側のファミリネームWood。
woodは暖炉に使う薪などのことであるが、時として単数形のまま小さな森も意味する。

そしてなんと
私の旧姓が森。
それも母方の姓である。
近い血縁ではないが、今も京都の母のお墓の近くにその姓の人々が住んでいる。
アメリカ・バモントと京都のつながり(笑)


なぜか同じ意味の日本名を旧姓に持つ
アジア極東の島国から突然現れた人間が
Danaと同じファミリーネームとなって
このWood familyの最後にひょっこりあらわれることになった

というわけである。

トラベルチェストの持ち主Danaは想像もつかなかっただろう。

ちょっとふふっとしながら私は
エリス島移民局検索ページを閉じた。

検索の旅ですっかり疲れてしまった。
気が付くとガラス越しに見える湖にたくさんのカナダグースが飛来している。


その中に混じってトランペタースワンが見えた。

北のハドソンベイがもう凍り始めているのかもしれない。
昨日からここ湖畔はうっすらと雪である。

日本が恋しくなった。

移民:つづく

日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。