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湖畔の春のきざし

玄関ドアを開けると同時に
飛び降りるような角度から飛んでいく鳥の後ろ姿が見えた。
モーニング・ダヴだ。
ポーチの上を見上げるといつもの場所に巣。

たいてい朝に聞こえてくるその鳴き声で
夫が言うその名を私は勝手に
morening(朝) dove(ハト)と決め込んでいた。

あの日、在宅緩和ケアに入っていた夫だったが、ひとりで起き上がってベッドのへりに腰掛け、私を見てその隣をトントンと叩いた。
私はさされたままに夫の隣にくっついて座る。
ふたり並んで窓の外の朝をしばらく眺めていた。
春の陽光の中、鳥の鳴き声が聞こえて来た。

モーニング・ダヴだ

夫がそう言った。

morning dove 
頭の中で私は繰り返した。

私たちはその鳴き声を黙って聞いていた。

それが鳴き声と言うより泣き声であることを知ったのはそのずっと後
夫が亡くなってからのことである。

モーニング・ダヴは
morning dove ではなく
mourning doveだったのである。

哀悼や喪を意味するmourningはこの鳥の鳴き声が悲哀に満ちた音であることから名づけられたらしい。

夫が亡くなった年の春先、近所に住むローリーがやって来てこの鳥に遭遇しその名の由来を教えてくれたのである。

夫が亡くなった後もこの鳥は決まって春先にやって来て同じ場所に巣を作る。

彼らは巣を作るのが下手で
いつも小枝や藁のようなものが玄関先のコンクリートの上に散らかっている。ある時などやっと巣ができたと思ったら取り壊し、そしたまた作りなおしているではないか。一旦ポーチに散らばっていたものがまた”元の巣”に収まっていく。
巣作りが下手なのではなくひょっとしたら
出来栄えにひどくこだわっているのかもしれない。

映えの巣・・?

そっとドアを閉めてガラス越しに見上げると
巣の上のmourning doveとばっちり目が合った。

今年はもう巣が出来上がっているのね
無事卵がかえりますように。

湖畔の春のきざし
さて、こちらはワイルド・リーキ(wild leek)

3年前、湖畔の家の間借り人Eの例のおばさんちの裏山にワイルドリーキがたくさんあるというので採りに行ったことがあった。
その中のいくつかを根っこから掘り起こして湖畔の家の裏庭に植えたのである。
一番に緑を伸ばし始めるワイルドリーキは春のしるし。
必ず植えたところから律義に生えて来るが、増える様子はない。
おばさんちの裏山では一面のワイルドリーキだったというのに。
ガーリックとネギの間のような香りを持つワイルドリーキ。
これっぽっちの葉っぱで何のお料理に使えるかしら?

いやいやいや、増えるのに7年はかかるっていってたぜ

と間借り人のE
と言うことは、まだ4年は辛抱である・・・。

春のきざしはそこここに見えるが
空気はまだまだ冷たい。
今朝などちらちらっと雪が舞った。

この時期に雪だなんて、絶対認めたくないぞ!
湖畔の人々はそう思って、見ないふりをしている。

だって太陽の光がもうこんなに明るいんだから。

https://www.youtube.com/watch?v=1N9nMkZt1l0&t=37s


日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。