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今月の3冊 #2 『私鉄3.0』

東急電鉄の役員 東浦亮典さんによる、鉄道と都市開発のお話。鉄道事業での継続収益を狙いたい、電鉄会社だからこそ、街の継続的な発展へコミットする意識が面白い。

・急速に高齢化が進んでしまう分譲ばかりにしないこと
・学校を誘致して平日昼間・下り方面の乗客を確保すること
・エリアマネジメントの手助けをすること

長期視点での誘客につながる学校誘致

「平日・日中・都心→郊外」の利用客促進が鉄道会社にとっては収益面で重要。東急は1929年に慶應義塾大学を日吉に誘致。東急は日吉台の24ヘクタールの土地を慶應義塾大学に無償提供しているが、それくらい大学誘致は生命線だった。
メリット1:平日に学生が通学で利用
メリット2:大学があることで沿線のステータスが上がる
メリット3:学生時代を過ごした沿線への思い入れで社会人になっても戻ってきてくれる可能性がある


エリア開発と高齢化


エリア開発の際、分譲ばかりの場合、終の棲家と思って購入するため、時間が経つと街自体の高齢化が進みやすい。一方、賃貸物件もバランス良く配置されていると、入れ替わりがあるので、急速な高齢化を食い止めることができる。

谷地形に作られた私鉄の鉄道敷設


鉄道敷設の際、耕作に向いていない土地から、地主が販売することが多かったため、結果的に谷地形や水路敷のような場所から敷設が進んだ。地域の地勢的な分かれ目であり、後々行政区分の分かれ目になることが多かったため、駅周辺は複数の行政区にまたがることが多い


技術・コスト面から、山に穴を開けてトンネルを掘るよりも、谷地形の平地に線路を通すほうがよかった、という背景もありそう。ほぼ公的事業といえる山手線も、山地形を通っている場所はほぼない。
また、自由が丘のように谷地形にあるのに(線路は高架になっている=地面が低い)、丘という名前がついているところも私鉄沿線には多い。私鉄は「目的地(終点の行楽地-ターミナルの娯楽・商業施設)」や「住宅地(都心に出るための郊外の暮らしやすい住宅)」の開発により、鉄道需要を喚起し、利益をあげる。だからこそ、住宅地の見栄えを良くするために、”〜ガ丘”といった名前がついていることも多い。

谷地形に作られることも多いが故に、災害リスクもある。例えば、渋谷は典型的な谷地形にあるので、現在進行中の工事では、歩行者導線の整理のほか、4000トンの雨水を貯められる貯留槽を整備している

二子玉川の起源


二子玉川が元々栄えたのは、大正〜昭和初期にかけて、風光明媚な観光景勝地として。多摩川の後背地の国分寺崖線には緑豊かな丘があり、富士山も望める。凱旋沿いに政財界の著名人の別荘が建ち並び、川沿いには料亭が軒を重ね、目の前で釣れる鮎を提供したり、舟遊びができる場所だった。

エリアマネジメントとその主体


武蔵小杉では鉄道会社が開発しているところもあるが、マンションデベロッパーが開発しているマンションも多い。鉄道会社の場合には沿線全体の継続性が重要だが、マンションデベロッパーは住戸販売が目的のため、販売が完了すると、当該地域からは去って行きたく、いつまでもエリアマネジメントに付き合っている気はない。
BID(Business Improvement District)=エリアマネジメントを行う特定のエリアに不動産を所有するオーナーから資金を出してもらって、それをベースに特定のエリアマネジメント団体が街並みづくりや治安維持、イベント展開を行うこと。
BIDにより地域価値があがり、居住者・来街者・就業者の増加につながれば、オーナーのもとに資金が還流する。

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