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【ひよわな校長の処方箋71】トラウマは消えない

 最近は精神的な疾患で休職したり、中には辞めてしまう教師も増えている。そこまで病んでいなくても、クレーム対応や仕事上の失敗などで思い悩み、それがトラウマのようになって苦しんでいる教師は多い。
 ある職員から、「何年も前に人から受けた一言が、いまだに思い出されて苦しくなることがある」と相談を受けた。帰宅途中の車の中で突然そのときのことを思い出し、涙が出てきて車を止めてしまうこともあると言う。心療内科のクリニックにも継続的に通っていて薬を服用していた時期もあった。だいぶ良くなってきたのだが、いまだに数年前のそのことが突然よみがえってくるのだという。
 このような相談を受けても、校長としてはなにもしてあげられない。とりあえず、時間をとって聞き、全部受けとる。その症状に対して自分ができることはないので、あとは私の思いつきや経験などを話してそれを受けとってもらう。
 自分もそんな忘れられない言葉を受けたことがある。ずーっと昔の記憶がよみがえってくることもある。ひよわ校長は失敗が多いのである。
 まず確かなことは、そういったトラウマ的な記憶は消えない。そもそも人の記憶というのは消えない。脳は見たこと聞いたこと経験したことのすべてを覚えている。忘れたと思うのは、ただ思い出せないだけなのだ。催眠状態にしたりすれば全部思い出せる。
 すべてを記憶するということは、記憶量は人生と共に増えていく一方だと言うことだ。いったい人間の脳にどのくらいの量の記憶ができるのかは知らないが、記憶でいっぱいになってしまったと言う人を見たことはない。
ただ、一度に思い出せることはそのたくさんの記憶の中のひとつだけ。見たこと聞いたことすべてを一度に思い出してしまうと精神的な破綻を来たすらしい。
 さまざまな経験をしていけば、記憶の項目が増え、思い出す選択肢が増えてゆく。記憶の項目は増える一方なので、そのトラウマ的な記憶を思い出す頻度は確率的に減少していく。とくに、今自分がやらなければならないことや、やりたいことが増えてくると、ますますそのことを思い出すヒマがなくなってくる。
 時間はかかることなのだが、そうやって記憶とつきあっていくしかないのではないかと思う。
 だからそれを思い出しちゃった時には、あ、来たな、と思ってストップサインを送る。ストップサインには肉体的な痛みが効く。私の場合、親指の爪のつけ根を人差し指の爪先で刺すというストップサインを使っている。
 思い出せるということは脳が機能している証拠である。

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