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【ひよわな校長の処方箋62】大切なことが目に見える授業

 大切なことは目に見えない。それを見せるのが授業だ。
 子どもたちの目に、この世界はどう映っているのだろう。
 コンピュータゲームの中で撃ち殺されたら、さっきの保存先からまたやり直せばいい。ネットゲームの中では、死んでもパーティーの仲間が再生してくれる。さもなければ、自分もゾンビになって人を殺せばいい。
 これらのゲームは教育上よくないと大人は言う。しかし大人はもっとリアルな殺し合いを戦争という名の下で行っている。人殺しは一人殺しても殺人という犯罪だが、戦争なら何人殺してもいいらしい。いっぱい殺せば英雄になれる。
 教師たちには、子どもたちが見ているそんな世界が見えているだろうか。教えることばかりに夢中になっていると、教わることを忘れる。子どもたちから、その目に映っている世界を教わってみるといい。
 それでも教師にはなかなか見えない世界もある。家で貧困や虐待などの辛い思いをしている子、学校の隠れたところでいじめられている子、自分の特性が誰にも理解されずに一人で困っている子、教師の気づかないところにいろんな不幸が存在する。教師は、学校は、それらを見ようとする目をもたなくてはならない。大切なことは目に見えないということを心に留めて。この子たちが見ている世界はどんな世界なのだろうかと。
 その上で、せめて、授業だけは、「希望」を見せなければならない。学校は子どもを育てている。子どもは未来である。だから未来は学校で作られているのだ。ここを卒業したら、この子たちが未来を創る。大人が戦争を続けているのなら、そして大人がそれをどうしてもやめられないのなら、学校は世界を守る最後の砦なのかもしれない。
 しかし、「希望」ってなんだろう。授業では不幸の歴史として戦争が語られる。子どもが話し合えばみんなが戦争はいけないという。教師も同意している。しかし戦争はなくならない。今はそれが「本当」のこと。
 でも君たちの未来はちがう。いつか戦争がなくなり、この地球を守るために世界の全部が協力する日がやってくる。そんな未来が今、君たちの目には見えているだろうか。
 大切なことは目に見えない。だから、こうしてみんなで思いを受けとりあって語りあい、想像し合って、そんな未来を見ようとする努力を続けるんだ。今はまだ「そんなの嘘だ」っていうかもしれない。でも嘘は、それが「本当」になれば嘘じゃなくなる。
 授業は受けとりあう心で未来を創っていく。楽園は愛の中にある。

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