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【ひよわな校長の処方箋60】僕は給食でできている

 前任校の小学校では、給食を学校で作っていた。校長には検食という重要な役割が与えられていた。
 給食時間の30分前に校長室に給食が届けられる。味はどうか、異物など混入していないか、また量は適当か、などを見る。以前、かた焼きそばの麺が固すぎて児童の歯が欠けたという事案もあったらしい。校長の責任は重大である。
 「食べること」というのは生きる上での最重要課題だろう。子どもの関心も極めて高い。朝から「校長先生、今日はカレーだよ」と教えてくれる児童もいる。
 たまに校外学習などでお弁当の日がある。そうすると、子どもの好きなものばかり入れてくる家庭が多い。ほとんど白黒茶系のお弁当である。ポテトフライ、唐揚げ、海苔むすび、ハンバーグ、コロッケ、…。ここに玉子焼きやコーンの黄色が入ればいい方である。ブロッコリーやトマトなどで緑や赤を入れればと思うのだが、ほとんど冷凍食品なので生ものは登場しない。家庭ではちゃんと栄養バランスを考えた食事が用意されているのだろうか。心配になってしまう。
 検食しながらそんなことを考え、給食は子どもの一日の中で、最重要の食事なのではないだろうかと考える。
 その小学校の低学年に、いつも授業に集中できず落ち着かない男の子がいた。よく前日と同じ服を着てくる。どうも、朝ご飯を食べさせてもらっていないのではないかという疑いが上がった。体育の時間、みんなと離れてステージで転がっていたので、そばに行って聞いてみた。
「眠いか。夕べ夜ふかししたか」
「ちゃんと10時にゲームやめたよ」
「じゃ、朝ごはん食べてきたか?」
「菓子パン食べた」
 いつも菓子パンだ。本当かどうかあやしい。
 ある日、授業を抜け出て、校長室に入ってきた。それが丁度、検食の時間だった。彼は、今が検食の時間だということを知っている。まずここでは授業を抜け出てきたことには触れないで、とりあえず給食を見せる。
「今日はクリームシチュー!うまそー」
「あとシュウマイもある」
「一個ちょうだい」
「あと20分で給食だからね」
「ちぇっ」
「朝ご飯、ほんとは食べてないでしょ」
「うん。晩ご飯も無い時あるよ。自分でカップラーメン作れるけど」
「すごいねぇ」
「だから、おれの体は、ほとんど給食でできてる」
 ここで校長は、涙が出そうになるが、ぐっとこらえて笑わなくてはいけない。
「それなら栄養はばっちりだな」
「うん。じゃね」そう言って彼は自分から教室に戻っていった。

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