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ほんとの空

10月14日の土曜日、彩られた山並みを愛でに安達太良山を訪れました。
ロープウェイが動き出すと大混雑となるので、静かに穏やかに山を愛でる為、夜明け前から早めに山に入ります。

この薄明の刻の空の色が好きです。

そうして山中の見晴らしの良い開けた場所でご来光。

安達太良山の山肌は圧倒的な光を浴びて輝き饗宴します。

そしてここは、彫刻家であり著述家でもあった高村光太郎氏の奥様が「ほんとの空」があるとされた場所。

その空の下に身を置いて思い浮かんだ言葉は歓喜と圧倒。

写真のように観光用の標語のようになって立派な標柱に刻まれた言葉は、高村氏が奥様を想って綴られた詩集「智恵子抄」の内、「あどけない話」に奥様の言葉として書かれています。東京の空はほんとの空では無い、阿多多羅山の上に毎日出ている青い空が「ほんとの空」なのだと。
そんな愛らしい言葉と、この雄大な美しさに心が晴れやかになります。
しかし、「ほんとの空」をご存じの多くの方々で、実際に「智恵子抄」をお読みになった方は、意外と少ないのではないでしょうか。
詩集の前半で奥様が見せられる表情は純粋。そんな奥様への高村氏の深い愛情が詩集から溢れ出ています。しかしその奥様は若くして他界され、この詩集はその死後に発表されたものです。
亡くなる時の様子が描かれた「レモン哀歌」は、妹さんの死に直面された宮沢賢治氏の「永訣の朝」を想起させる狂おしいまでの悲しみです。

ただひたすらの喜びを感じた山歩きの翌日、雨音の中で再読した美しくも哀惜に満ちた詩集に触れた朝でした。
是非とも一度お読みになってください。

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