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意外と知らなかった?海の区域って何だろう 【海上保安シリーズ#1】

皆さんは中学校の公民や、高校の現代社会・地理の授業で国家を構成する三要素を学んだかと思います。国民、主権、そして領域ですね。
今回はその中の領域を構成する領海をはじめとした、世界各国の海に設定されている目に見えない区域の数々について今一度、あらためて見ていこうと思います。


1.そもそも海の区域ってなに?

ここで言う「海の区域」とは領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)などを指します。まずはどのような区域があるのか、復習を兼ねて確認していきましょう。

 I.領海

領海は国家の領域のうちの一つとして、海岸線を持っている全ての国に設定されている区域の一つです。その幅は干潮時の海岸線やのちに説明する内水の外側の線を「基線」として、そこから12海里となっています。1海里=1.852kmなので領海の幅は約22km少しと言うことになります。意外と幅は狭いんですね。

 II.排他的経済水域

基線から200海里以内、つまり領海の限界線から188海里以内に設定されている海域を排他的経済水域(経済水域、EEZ)と呼ばれています。

 III.接続水域

基線から24海里、つまり領海の限界線から12海里以内に設定されている海域を接続水域と呼びます。

 Ⅳ.内水

聞いたことがない方も多いのではないでしょうか。内水とは領海よりも内側に存在する区域の事で、複雑な海岸線を直線で繋いだ内側の水域となります。海だけでなく、湖や河川も内水に含まれます。内水は更に旧内水新内水に分ける事ができますがそれらについては後ほど解説したいと思います。

 V.群島水域

以上で挙げた区域はご存知の方が多いことかもしれませんが、群島水域は知らなかったという方もいらっしゃるかと思います。
それもそのはずで、群島水域とはフィリピンやインドネシアなどの大小の島々がひしめき合って構成されている一部の島嶼国に見られるもので、日本では群島水域は存在しません。

日本が持つ水域
(出典:海上保安庁)
最も濃い青色で塗られた範囲がフィリピンの群島水域
(作成者:Roel Balingit氏)

2.それぞれどんな役割を持つの?

先にあげた5つの水域が一体どのような働きをするのか具体的に見ていきましょう。

 I.領海の役割

領海とは先ほども説明した通り、領土や領空とともに国家の領域を構成する要素の一つです。領海はそれを持つ沿岸国の主権が全面に及んでいる国の完全な法治範囲内ということとなります。つまり、領海の中に入った段階で事実上の入国となります。
領海内では沿岸国の法令を遵守しなければ沿岸国の司法に基づいて処罰されます。
領海は沿岸国の独立が守られるために必要不可欠な海域ですね。

 Ⅱ.排他的経済水域の役割

EEZではその範囲内にある海洋資源の独占的な利用が沿岸国に認められています。そこを泳ぐ魚や貝や海藻だけでなく、砂や珊瑚、さらには海底に眠る鉱物や石油・天然ガスも沿岸国の所有する資源として帰属します。それらを沿岸国の承諾なしに勝手に他国の漁船などが採取する事は禁止されており、沿岸国の司法によって罰せられます。これが“排他的”経済水域と名付けられた所以です。
ただし、領海とは異なるため不当な資源採取以外で沿岸国では違法になるような行為を船の上でしていても、沿岸国の警察組織に摘発されたり司法によって罰せられることはありません。例えば現在の日本ではカジノは禁止されていますが、領海の外に出ていればEEZ上で外国の大型クルーズ客船がカジノを開催しても問題ないわけです。
これが領海とEEZの違いという訳ですね。 

 Ⅲ.接続水域の役割

接続水域はおそらく領海やEEZと共に認知度はそれなりにあるとは思いますが、詳しく知らないという方が前者に比べて多いものと思います。しかし、接続水域は前者に並ぶほど国家にとって重要な水域と言えるでしょう。
接続水域に課せられた役割とはすなわち、国内犯罪の防止と主権行使の延長です。
例えば外国からやってくる日本の主権を犯しそうな怪しい船に対しての警告や監視などを行ったり、領海内で日本の法令を犯した船舶が域外へ逃亡しようとした際に領海を超えても接続水域において追跡や捜査、実力行使ができる権利が保証されます。

 Ⅳ.内水の役割

内水はおそらく最も知名度の低い水域の一つなんじゃないでしょうか。しかし、内水は私たちが最も身近に感じることのできる水域です。先に複雑な海域を直線で繋いだ海域と説明しましたが、それがどのような理由で設定されてどのような機能を持つのか解説いたします。
湾や狭い範囲に島々が点在する海域の洋上に、領海設定の基準となる海岸線と同等の機能を持った直線基線というものが設定されていてその内側までを内水、外側からを領海としています。それは複雑な海域でいちいち律儀に海岸線から12海里を測って領海を設定すると非常に煩雑なり、どこからが領海でどこからが接続水域になるのか分かりにくくなってしまう事を防止する為です。
内水は従来から存在する旧内水と直線基線の新設によって追加された新内水の2つに分ける事ができます。旧内水の代表例は東京湾や瀬戸内海といった、その中に位置する港湾施設が目的地でない限り通常は航行する必要がない海域が基本的に旧内水となっています。
新内水とは旧内水の外側にあり、ほぼ領海と同じような性格を持ちます。
内水は領土とほぼ同じような地位を持ち、領海以上に排外的な水域となっています。
特に旧内水ではそれが顕著に見られます。
例えば領海でも外国船舶の航行は一定以下の条件で自由(無害通航権)とされていますが旧内水では無害通航を沿岸国が認める必要はなく、それ自体が禁止されている事があります。新内水ではもともと領海だった由来があるので、中には昔から船舶の往来が比較的多い場所もあるため無害通航が保証されています。
基本的に内水は領土と領海の二つの特性を併せ持った海域と捉えて良いでしょう。

 V.群島水域の役割

群島水域は島嶼国における、拡大された領海のようなものです。広い範囲に多くの島々が点在している海域で通常のように領海を設定すると煩雑になったり、周辺海域の統治に不都合が生じるため、群島基線を設定してその内側に群島水域と内水が存在し、その外側12海里を領海としています。群島水域は領海と同じような性格を持ち、外国船舶に対しては無害通航権が保証されています。


領海内で不当な操業をしていた台湾漁船に法執行をする海保巡視艇。
(出典:海上保安レポート2005)


広大なEEZをもつ沖ノ鳥島
(出典:海上保安レポート2010)
小笠原近海のサンゴ礁。中国漁船の密漁が相次いでいます。
(出典:環境省)
尖閣諸島沖で中国海警局の船を監視する海保巡視船
(出典: 内閣官房 領土・主権対策企画調整室)

終わりに

今回は海上保安シリーズ第一弾として海の区域について見てきました。
日本を取り巻く海の安全保障や世界的な海のルールをこれからの同シリーズによる記事でぜひご確認いただければと思います。
このシリーズは今のところ不定期投稿となりますが、なるべく最新記事の投稿から2週間以内に新しい記事を上げたいと思います。
それでは失礼いたします。

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