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中森明菜「Everlasting Love」

「Everlasting Love」作詞:大貫妙子 作曲・編曲:坂本龍一

1993年5月21日発売。
NOKKO・坂本龍一作「NOT CRAZY TO ME」との
ダブルAサイドシングル曲として、
MCAビクターに移籍して初のリリース作品。

同時期のヒット曲は、
TUBE「夏を待ちきれなくて」、ZARD「揺れる想い」、
大黒摩季「別れましょう私から消えましょうあなたから」、
B'z「裸足の女神」等々。
ビーイング系アーティストがチャート席巻。
そんな中で、ドラマ「ひとつ屋根の下で」の主題歌である
財津和夫「サボテンの花」がロングヒットし始めている。
デジタルサウンド全盛期の中で、
ホッとする曲も、やはり求められていたのだろう。

「Everlasting Love」もまた、癒しを感じられる曲。
憑きものがすっかり落とされて、
彼女の本来の優しさ、女性らしい柔らかさが、
坂本教授の環境音楽的にキラキラと流れる曲に乗って、伝わってくる佳曲。
大貫さんの言葉少ない歌詞にも、大人の女性の余裕が表現されている。
歌番組などでは、柔和な笑顔を見せながら歌唱する、
これまでにはなかった彼女の変化を観ることができ、これがまた美しい。

この辺りから
中森明菜はこれまでの身を削って歌いきるような曲だけでなく、
自然体の女性の心情を、サラッと表現する楽曲を、
シングルに出してくるようになる。

ただ、その「サラッとした表現」が、
彼女にとっては非常に難しい作業だったのだろう。
試行錯誤した結果というものが、この曲を聴くと手に取るように分かる。
それだけ当時のプロデュースでは、
高いレベルのものを求めてきたのだろうと想像がつく。
ただでさえ、明菜は完璧主義であるのだから、
その困難さは想像を遥かに超えただろう。

中森明菜のトレードマークである、ウィスパー、抑揚、
また「明菜ビブラート」を完全に封印したにもかかわらず、
伸びやかで美しいロングトーンと、低音域での音程のコントロールが抜群。
やはり、一番声が美しく艶があり、安定している時期の作品。
改めて聴き直す価値のある楽曲だと思う。

残念ながらファン内ではあまり人気のない曲のようであり、
ライブセットには組み込まれたことがないようだ。
この後にリリースされた
アルバム「UNBALANCE+BALANCE」にも収録されておらず、
同アルバム内の「愛撫」が「あの明菜が帰ってきた!」と
話題になってしまったせいか、この曲は完全に陰に隠れてしまった。

だが僕は、
彼女が笑顔で「夜のヒットスタジオ」で歌っていたこの曲が、好きだ。
幾つになっても歌える普遍的な曲であるので、
いつかまた、この曲を披露してくれることを願ってやまない。

なお、この曲はカラオケで歌うのは、かなり難しい。
勢いで一気に歌い上げる歌ではなく絶妙なゆったり感を表現できなければ、
とても凡庸なつまらない曲を歌ってしまった、
という残念な結果になりかねない。
できれば、相当好きで歌いこんでいなければ、避けるべき一曲。
やはり、これは当時の「中森明菜」でしか歌えない曲なのである。

ちなみに少し触れたアルバム「UNBALANCE+BALANCE」。
彼女と相性抜群の玉置浩二提供の楽曲に
異なる歌詞とアレンジをのせて
序章~最終章という構成を築きつつ、
小室哲哉氏、松本隆氏などの作家陣による
アップテンポから都会的なミディアムチューン、繊細なバラードなど、
バラエティに富んだ作品群で構成されている。
全盛期のみしか知らない方々にも是非聴いてもらいたい、
中森明菜のチャレンジと安定感が味わえる名盤。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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