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中森明菜「ジプシー・クイーン」 

「ジプシー・クイーン」
 作詞:松本一起 作曲:国安わたる 編曲:小林信吾

1986年5月26日発売のシングル曲。

同時期のヒット曲は、
KUWATA BAND「BAN BAN BAN」、1986オメガトライブ「君は1000%」、
杉山清貴「さよならのオーシャン」、TUBE「シーズン・イン・ザ・サン」、
チェッカーズ「Song for U.S.A.」、
高井麻巳子「シンデレラたちへの伝言」、菊池桃子「夏色片思い」等々。
男性ロックが絶好調であり、またチャートも夏色全開の頃である。
当時は、「夏といえば…」という数多くのアーティストが、夏のチャートを賑わせていた。

同年末の日本レコード大賞で大賞を受賞した
「DESIRE」の次にリリースされたシングル。
衝撃的な前作とは打って変わって、
昭和の女性歌謡の典型のような、懐かしささえ感じる曲を持ってきた。

電子楽器と打楽器でメリハリを出しつつ
間奏のサキソフォンがスパイスになり、
キラキラと華やかかつゴージャスな、
明菜らしいドラマティックなアレンジ。
リバーブのかかった彼女の力みのないソフトで伸びやかなヴォーカルも、
上手く調和した作品だ。

愛する男、そして人生に翻弄されながらも、
その別れた男を一途に思い続ける女性の心情を、
タロットカード、星座、化石といったフレーズを用いて、
神秘的に描いた歌詞。
「貴方との日々今は かくしてしまったから
 以前(まえ)より悲しいけど 寒くない」
という2番のサビのフレーズが、個人的にはとても印象に残っている。

レコードの歌声だけでなく、
イブニングドレスで艶やかかつ穏やかな表情で歌唱する
歌番組での姿においても、
まだ20歳の彼女が一気にぐっと大人びて見え始めた曲でもある。
言い過ぎかも知れないが、後光が差している…
…仏様・女神様のような神々しさを、この楽曲を披露する彼女からは感じた
(決して宗教的、という意味ではない)。
この楽曲、また同曲を歌う姿に、
絶頂期の山口百恵さんを重ねた人が当時多かったようである。

この作品は彼女らしいエキゾティックな世界と同時に
大人の女性を表現している。
個人的な感想だが、
前々作「SOLITUDE」で挑戦した大人のシンガーへの進化を、
この作品で完全に結実させたと思う。
前作「DESIRE」を経て新たなステージに上ったからこそ本作がより輝いた。
そしてこれ以降の彼女の作品の幅も、更に広がっていった。

この年「不思議」「CRIMSON」という
両極端にチャレンジングなアルバムをリリース。
彼女自身がその広がった可能性を実感したからこそ出せたのだと思う。

「DESIRE」や「飾りじゃないのよ涙は」を歌った人は、
このような歌も、ごく自然に歌いこなす人なのである。
歌唱法も表現方法も、曲に応じて時代に応じて、
変幻自在に変化させるのが、彼女の真骨頂。
歌手中森明菜に「マンネリ」という言葉は、
デビューから現在においても、存在しないのである。

この曲は、カラオケでも割と歌いやすい曲なのだが、
ややもすれば凡庸になりやすい。
イントロ後、サビ前、そしてサビでのロングビブラートを
しっかりと盛り上がるものにしたいところ。
そして、サビ最後の「クイーン」での「イーン」を伸ばすところ。
ここはかなり難易度高めであり、それなりの練習が必要である。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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