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中森明菜「スローモーション」

「スローモーション」
作詞:来生えつこ 作曲:来生たかお 編曲:船山基紀

1982年5月1日発売。記念すべき彼女のデビューシングル曲。
オリコン初登場58位。

この年は後に「花の82年組」と呼ばれたスーパーアイドル候補が彼女に先行してデビュー。
1981年末から「センチメンタル・ジャーニー」でブレイクした松本伊代氏。
82年に入ってすぐにチャートを席巻し早くもヒット曲を連発したシブがき隊。
その他堀ちえみ氏、小泉今日子氏、石川秀美氏、三田寛子氏、早見優氏などがデビュー作からオリコン20〜40位以内に入っていたこともあって、中森明菜の出遅れ感は否めなかった。

だがこの後に発売された2ndシングル「少女A」の大ヒットにより、その相乗効果もあって後に本作もオリコン最高位30位まで上昇。オリコン100位以内在位週39週(約9~10ヶ月!)という、結果的に日の目をみることができた曲である。

そして注目すべきなのはこの「スローモーション」を収録した1stアルバム「プロローグ(序章)」のセールスだ。
「少女A」発売前にリリースしたこのデビューアルバムは、「少女A」のリリースを待たずオリコンアルバムチャートで週間7位に初登場。
そして「少女A」のヒット後、最高位5位まで上昇。
1982年の年間アルバムセールス32位、Top100在位週計47週(約1年間!)という、デビュー1年目としては快挙とも言える成果を上げた。

ちなみにこのアルバム「プロローグ(序章)」には、「スローモーション」と共にシングル候補となっていた「銀河伝説」、「あなたのポートレート」、「Tシャツ・サンセット」の3曲が収録されており。ファンとしてはお得感極まりない作品である(以上、Wikipediaより引用)。

この作品はかの有名な来生姉弟による作品。
デビュー作ということもあり、極端にコンセプチュアルな詩曲ではなく、10~20代の少女(女性)のナチュラルで等身大の内容を提供している。

どうしてもアイドル然とした曲と派手めな演出・売り方でセンセーショナルなデビューを目論見やすい当時の風潮には乗らず、「中森明菜プロジェクト」は彼女の「シンガー」としての力量をメインコンセプトにスタートしたことが想像できる。

そして編曲は現在でも現役バリバリで活躍中の船山基紀氏。
改めて聴くと分かるのだが、当時の最新技術をヘタに使うことなく生演奏で編曲していることから、40年以上経った今聴いても古臭さなど一切感じさせない。

変な形で1曲目から大ヒットをせず、後に続く作品で注目を浴びてから再評価されるという意味では、松田聖子氏「裸足の季節」、チェッカーズ「ギザギザハートの子守歌」の認知過程に似ている(この頃から、大成する歌手はデビュー曲が売れないという都市伝説がまかり通ることになる)。

そのカテゴリーに確かに当てはまるケースではあるが、この曲がそれ以上の価値を持つのは、作品自体のクオリティが恐ろしく高いからこそのこと。
明菜本人もお気に入りであり、後にファンとなった人たちにとっても特別な曲になり、中森明菜人気シングルの上位に常にランクインするのは、必然だったのだ。

詩曲そして編曲の素晴らしさは上述の通りだが、さてデビュー前にしっかりとヴォーカルレッスンを受けた明菜のヴォーカルはどうだろうか。
「スター誕生」で披露した山口百恵氏「夢先案内人」の頃の伸びやかな中低音を活かした素直かつ実直な歌唱法はそのままに、本来彼女が持つ声、抑揚などの歌唱法、そしてそれらを駆使した表現力が、デビュー作にして既に存分に発揮されておる。
彼女が潜在的に持つ並外れた素材を存分にドカーンとぶつけてきた快作だ。
それでいて彼女本来の柔らかい感性、年齢相応の瑞々しさ、爽やかさ、そして可愛らしさも魅力的に表現されている。

ここで細かなところに言及する。

単調な音になりがちな節の終わりを、彼女は微妙な「揺らぎ」とも言える抑揚を既に発揮しているのは特筆すべきところ。
2コーラス目の「口笛吹くあなた」の「吹く」と「た」の余韻が、少し背伸びをした少女の「憂い」を感じさせてたまらない!

ラストの「今あなたとともに…」の、締めに向かってどんどん音が下がっていくところは、何故にこんな作りにしたのか?と不思議に思える。
だが一方で、この部分を聴くことで、この曲がただのデビュー曲として作られたのではないものだと思えてならない。
「名曲」にすべきものと見越した詞、メロディそしてアレンジ。
それをデビュー曲として十分に消化(昇華)した16歳の明菜。
そして経験とともに大事に育てていった彼女の力量を、その時々で存分に感じさせてくれる作品。
なんて幸せな楽曲なのだろうと、この曲を世に出してくれて本当にありがとうと、この場で改めて述べさせていただきたい。

ちなみにこの曲は当時の明菜の得意な音域内で収まっている曲なので、多少のキー調整さえすれば、カラオケなどでは歌いやすいものだと思う。
数年後の作品に見られる明菜特有の低音は、それこそラストの「今あなたとともに…」のあたりだけ出てくるので、そこで音を外して盛大にコケないよう、そこだけは気を付けていただきたい。
それだけ中森明菜の初期の作品は、一聴簡単そうであって大変難易度の高い曲が勢揃いなのだから。

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