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中森明菜「AL-MAUJ(アルマージ)」

「AL-MAUJ(アルマージ)」
作詞:大津あきら 作曲:佐藤隆 編曲:武部聡志

1988年1月27日発売のシングル曲。

この曲が発売された当時、
光GENJIが日本のポップス界を揺るがすほどの一大旋風を巻き起こした。
この年の日本レコード大賞も「パラダイス銀河」が大賞受賞。
前年1987年秋にデビューして以来あらゆる記録を塗り替え続け、
ヒットチャート、ランキング番組でも1位を何週も獲っていた。

当時の歌手、バンドの誰もが光GENJIのパワーに圧倒され、
ランキング上位をことごとく阻まれた。
その中で孤軍奮闘したのが、中森明菜その人である。

正直言ってこの作品、今となってはシングルの中でも知名度は低く、
好きな曲として挙げる人も少ない。
それもこれも、運悪く(?)「難破船」「TATTOO」という、とんでもないインパクトを放った両シングルに挟まれてのリリースであったことで、影が薄くなったのだろう。

しかし光GENJIの名曲「ガラスの十代」の連続1位記録を止めたのは、
この曲「AL-MAUJ(アルマージ)」なのだ。
まぁ確かに実際のところ、曲の人気が上回ったというより、
中森明菜というシンガーの人気が当時それだけのパワーを持っていたから、と言えなくもない。

ではこの曲に魅力がないかと問われたら、そんな訳がない。
1988年オリコンシングル年間14位に食い込んでますからね!
十分ヒット曲と言える結果はきっちり残しているのだ。

アラブの不可思議で謎めいたイメージと
愛の駆け引き・揺れ動く心情とを重ねた作品。
詞・曲・アレンジ、そして明菜の表現力、
どの一つが欠けても成立しない難曲が、見事に融合し合って形になった曲。

「AL-MAUJ(アルマージ)」とはアラビア語で「波」「深い愛」。
他にも幾つかの意味を持つ言葉だと
「ザ・ベストテン」で明菜は語っていた。
彼女の当時の作品はトータルコンセプトを観て知って聴いて初めて、
その魅力が分かるものが殆どなのだが、
この曲はその中でも群を抜いて、歌番組で鑑賞すべき曲。
作品をイメージした特別な衣装とマイクスタンドで妖艶に歌い踊る彼女を観れば、ジャケットのイメージだけで聴くよりも、よりそのエンターテインメント性に気付き、楽しめる筈だ。
※↓は「AKINA EAST LIVE index ⅩⅩⅢ」のパフォーマンスで「特別な衣装とマイクスタンド」ではありません。

作曲者はシンガーソングライター佐藤隆氏。
この曲は中森明菜プロジェクトのコンペティションに
彼が参加した際の作品で、シングル候補にまでなったが一度選から漏れてしまう。
その後ご本人が「デラシネ」という作品としてリリース。
ところがこういうことが実際に起こるとは不思議なもので、
改めてシングルとして採用されたという、なかなか数奇な運命を辿った曲だ。

「デラシネ」は作詞の大津あきら氏が、女性視点から男性視点に書き直した詞で発表されている。
この↓佐藤隆氏のパフォーマンスも、似て非なる魅力を放っていて、素敵だ(カッコ良過ぎる…)。

一方女性シンガーでこのディープかつマニアックな世界を完璧に演じられるのは、今も昔も中森明菜しかいないと断言してしまおう。
いわゆる「明菜ビブラート」がサビで全力全開。
また本作では囁くような歌唱法は皆無。
声を張らないところでも彼女は割とはっきりと声を出している。
その方法で曲のイメージを形にしたということは、
彼女はこの曲の主人公が、意志が強く強烈な魅力を放つ女性と解釈したのだろう。
実際その表現は見事に開花し、彼女以外誰にも演じられない世界を創り上げた。

編曲は現在も活躍中の武部聡志氏。当時主に斉藤由貴氏のプロデュースを担っていたが、明菜プロジェクトでは「ここぞ」という時にいつも彼を頼ったのだそうだ。
ちなみに2000年代にユニバーサルへ移籍した後の
シングル「Days」とアルバム「I hope so」は、
武部氏のサウンドプロデュース作品である。
本作とは全く異なる世界を具現化しているので、
それらについてはまた別の機会にお話ししたい。

さて、詞を担当した大津あきら氏は、本作のB面(カップリング)である「薔薇一夜」の作詞も担当。
つまりこのシングルは8cmの「大津あきら作品集」とも言える。

僕個人の感想だが、大津氏は明菜の表現できる世界観を
非常に深く理解していた作家の一人だったと思う。
彼の紡いだ明菜に提供した言葉が、僕はとても好きだった。
「TANGO NOIR」のB面「MILONGUITA」も彼の作品で、僕のお気に入りだ。

徳永英明氏「輝きながら…」、高橋真梨子「for you…」、
男闘呼組「DAYBREAK」「TIME ZONE」、
杉山清貴「さよならのオーシャン」、
坪倉唯子(B.B.クイーンズの女性ヴォーカル)「ジュテーム」など、
素晴らしい作品の詞を書いてきた大津氏。
1997年に若くして急逝されたのが本当に悔やまれる。

さてこの曲、明菜は激しく踊り歌っているが、
音域はそこまで広くなく、高過ぎず低過ぎず歌いやすいほうだと思う。
踊らないのならサビのビブラートだけちょっと頑張れば割と歌いやすい。
歌い踊るなら…息切れ必須(そりゃそうか)。
実際にステージでこの曲を歌い踊った僕が言うのだから、間違いない。


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