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動物病院のカルテ 背筋が寒くなる映像

ある時急に倒れてしまうが、しばらくで起き上がり普通に動き始める。
特定の状況でけいれんするが、普段は何の問題もない。
家の中でだけ、吠えたり噛んだりする。

これらの症状は、動物病院を受診した時には消えてしまっているので、獣医が実際に目にする事が出来ません。
そのため、動画を撮ってもらえると助かるのです。
昔は確認が難しかったのですが、近年はスマホで誰でも簡単に動画を撮れるようになったため、すぐに診断出来るケースが増えてきました。
そのせいかその他の症状でも、患者さんのご家族から動画や写真を見せてくれる事が増えて来ています。

ケースレポートその1
後ろ足の指が根本から無くなってしまったミニチュア・ダックスフント

「人のように神経を繋げるような処置は出来ないけど、くっつけることは出来るかも知れません」
羽尾先生がそう言うのに答えて、
「指先はもう無いので無理です」
残念そうにしながら、連れて来たお姉さんは自身のスマホにある動画を見せました。

楽しそうなショッピングモール。
今、目の前にいるミニチュアダックスフントの子が、尻尾を振りながらエスカレーターに飛び乗ります。
「乗れるの!すごいねー!」
褒められてさらに嬉しそうにします。
そしてエスカレーターはてっぺんに。
「キャン、キャン、キャン!!」
魂切るような悲鳴。
「どうしたの!?マロン?マロン!?」
「キャキャキャキャキャン!!」
「マロン!マロン!!!」


ケースレポートその2
陰茎が傷つきかなりの出血をしたウサギ

「あそこから血が出ているんです」
保育園の先生に連れてこられたウサギを見ると、陰茎が傷つき、ほとんど千切れかけています。
これだけでも羽尾先生は自身までも痛いような、真の同情心を催しました。
「どうしてこんな…」
「これです」
先生のスマホには、2匹のウサギが映っていました。

サカリがついたようで、他方のウサギに腰を振っているのが、連れてこられたウサギです。
そのウサギは、なぜか相手のウサギの顔に向かって腰を振り始めました。
その瞬間、
「ピィーッッッ!!」
あまり知られていませんが、ウサギって、鳴くんですよね。
余程のことがあった時に限りますが。
ボタボタと血が地面にに滴り始めました。

羽尾先生は絶句しました。
「どうして…」
ウサギがこんなことをしたの?
どんなテンションで何を考えていたのかわかりませんが、これは相手が怒っても無理はないよな、と。
また、何よりどうして保育園の先生が、こんな動画を撮っていたのか。
どちらの疑問も聞くのは虚しい気がして、羽尾先生深く聞きませんでした。
そして改めて、下腹の奥がキュンとなるような、とても嫌な感覚に襲われたのでした。

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