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動物病院のカルテ 驕れるものは久しからず

サーベルタイガー
牙が物凄く発達した、猫科の肉食動物。
現在ではすでに絶滅している。
一説では、牙が発達し過ぎて狩をしにくくなったのが、絶滅の原因といわれている。

バビルサ
四本の牙がとても発達した動物。
イノシシの仲間。
一般的な個体で牙は上顎の皮膚を突き破って、なお伸び続ける。
一部の個体は、そのカールして伸び続けた牙が頭蓋骨に達する事もあり、それが脳に刺さり死を迎えるとか。


ヒトの社会に溶け込んでいる、最も身近な肉食動物。
鋭い四本の犬歯と爪を持ち、小動物や昆虫を捕食する。
一般家庭では、主に人が用意してくれるドライのキャットフードやちゅーるを食べるので、牙や爪の出番はあまりない。


猫の口が変だ、ということで、羽尾先生の病院に三毛猫が連れてこられた。
見てみるとその猫は、上顎と下顎が左右にずれている。
外に遊びに行って帰って来たら、この状態になっていた。
いつもはニャーニャーなくのが全くなかないのも、やはりおかしい。
羽尾先生がその猫の口を開けてみると、下顎の犬歯が舌に刺さっていた。
堂々と舌の真ん中を突き破るような状態で、猫自身では、にっちもさっちも行かなくなってしまったようだった。
「先生…、こんな事って、あるのでしょうか?」
こんな状態の猫を羽尾先生は自分で診察したことはないし、聞いたこともなかった。
(バビルサなら)
と思ったが、ふざけていると思われると不味いので、やめておいた。

慎重に舌を手前に引っ張りながら上に持ち上げたら、意外にすんなりと外す事ができた。
止血と消毒をして、この猫はことなきを得た。
「どうしてこんな事になってしまったのでしょうか?」
この質問で羽尾先生は、自分が幼かった頃、でんぐり返しをして膝を下顎にぶつけて舌を噛んだ記憶が蘇った。
「どうしてなんでしょうね」
やはりふざけていると思われたらいけないので、お茶を濁すように答えた。

あれから15年経過して多くの診療経験をしたが、あの症状の予防方法は現時点でもわかってはいない。

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