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自分が愛すものを信じ大切にすること - Officine Universelle Buly ラムダン・トゥアミ トークイベント

1803年パリで創業した美容専門店Officine Universelle Buly(オフィシーヌ・ ユニヴェルセル・ビュリー)
2019年7月19日に代官山 T-SITE で行われたオーナー兼アーティスティックディレクターであるラムダン・トゥアミのトークイベントから。

来日して

ラムダン(以下R):アーバンリサーチでフィッシングジャケットを購入したんだ。東北限定の凝ったデザイン。義理の兄が日本人だから、これを着て一緒にフィッシングをする予定。
フィッシングジャケットをおしゃれにするなんて日本だけだよ。釣りをしているときにボートの上から「おい、あいつのクールなジャケット見ろよ!」なんて言わないだろ?そういう点からもファッションにおいて日本は特殊な国だと思うよ。

香りは記憶、香りは魔法

ビュリーのパフュームには苔と鉱物を組み合わせた香りなど、ユニークな香りが揃う。

R:以前はファッションの仕事をしていたんだけど、やがて服なんてなんでもいいと飽きてしまった。今はファッションにかける時間は毎朝の5分だけだよ。
僕の生まれ育った場所はひどく田舎で、子供の頃はやることがなくてひとりサッカーをしたり虫に話しかけたりして遊んでいたんだ。虫に話しかける、虫の匂いを嗅ぐ、危険なマッシュルームを食べてみる、雨に驚くなど。退屈な暮らしだと何もかもが刺激になるんだ。

R:香りの記憶を呼び起こすのが好きなんだ。図書館の香り、新しい箱を開けた時の香り、花の香り、雨の香り...香りはマジックだよ。香りと記憶が結びついているんだ。

R:世の中に溢れる香りは何も呼び起こさないだろ?工業的に作られたケミカルなパフューム(ラムダンはこれを馬鹿な香りと呼んでいる)はいったいどこに繋がるというのか、自分にとっては不思議なものだよ。
ビュリーには南フランスのペボリコ(今年吹く最初の風の香り)なんてものあるよ。

日本の香りが製品になったものはありますか?

R:京都に行った時、寺院の木材が黒いのが気になった。調べてみると、ヒノキを燻して建材に使っている。独特な香りのする炭ヒノキ。これが僕にとっての日本の香り。
とても気に入ったので、アメリカから特別な機械を持ち込んで香りを採取した。炭ヒノキは好みが分かれるけど、僕は好きだよ。
歴史が好きで特に江戸時代末期に興味がある。歴史の本を読むのが週末の楽しみなんだ。

欲しいものはすぐ手に入るのに、欲しいものを見つけることが難しい時代

R:多くのブランドはお客の欲しいものを作ろうとするだろ?アンケートしたりして、あなた方が好きそうなものを考え作る。結果的にみんなが好きなものが出来上がる。
僕はそれが大嫌いなんだ。この中(100人くらい)に6人、ビュリーを好きでいてくれる人がいればいいと思う。
みんなが欲しがるものを作る気は無いよ。市場や、アメリカや中国のニーズもいらない。少数の人が好きになってくれればいいんだ。

R:1968年にはデヴィッド・リッチのライブTシャツを着ていることはとても誇らしいことだった。当時は周りが持っていない物、手に入りづらい物を所有することに価値があった時代。今はGoogleで検索すればライブ会場に行かなくても誰でも手に入るよね。

インスタグラムはつい何度も見てしまいますね。

R:僕らはイメージに晒される最初の世代だからね。インスタグラムの仕組みに人間の脳がついていけていないんだ。イメージ中毒になっていて、脳が情報量の処理に適応出来ていない。
コンサートに行った人はモニターでステージを見ているよね。見てるようで映る側になっている。人々にはテレビの向こう側でいたい願望があるんだ。
だけど僕達はこんな状態を望んでいたのだろうか?
ソーシャルメディアの中に人生を埋もれてしまうと人生自体を生きていけなくなるのに。

スキンとウェア

R:今は人から良く見られることやスタイリッシュであることの優先度が生活の中で重要になり過ぎているとも思う。アメリカ人はファッションにおいて即興せず準備されたものを着る、フランス人はあえてカジュアルにする。
その方が心地良いから。
ウェアは2枚目の肌だから、着ている自分の気持ちが心地良ければ似合っているということ。そもそもスタイリッシュであることは大切なのかな。 

(スタイリッシュという言葉の捉えかたもあるが、わたしは大切だと思っている。なぜなら清潔で整っている状態は自分にとって心地が良いからだ。)

R:僕にとってストリートファッションは資本主義のファンタジーだよ。友達にもストリートウェア好きがいて買ったり集めたりしてる。ニューコラボレーションが出るたびに、みんな過剰に大騒ぎする。これは世界で最も愚かなことだと思うよ。

ストリートスナップの発祥は日本と言われています。

R:1980〜90年代に日本人カメラマンがパリの街角でストリートスナップを撮り始めたんだ。
遡ると1950年代の日本から始まった文化かもしれない。
(そういえばSTREETというスナップだけの雑誌もあった。)

R:見て真似るスタイルは画一的だった。ベルボトムならみんなベルボトムという風に。テレビがカラーになったことで色が氾濫した。スタイリストがこぞって色を使い始めたんだ。
今はファッションの変化の振れ幅が小さくなっているね。

美肌がすべて

R:肌はとても大切。いちばん大切なコスメティックは素肌。僕が女性の一番最初に見ることは肌だよ。
肌が綺麗でない女性は環境や暮らしが自分に合っていないんだ。幸せでない。だからビュリーではいい肌の人しか採用していないよ。

R:20年間、妻と世界の美の秘訣を採取してきた。 日本由来のものでは鶯の糞を美容に使っていたというのがあるよ。後継者不足で生産が途絶えると聞き最後の生産者を訪ねた。その人は泣いていた。僕は残っていたすべての鶯の糞を買い占めたけど、パリですぐに売れてしまったよ。

R:湯の花も素晴らしい。髪の毛には椿オイル。良質な椿オイルを求めて五島列島に行ったよ。京の芸子さんの紅花もいいけど、近年は化学的な紅が主流になっている。
プラスチックは肌を通して体に吸収されるから、天然の素材で作られた製品を使うことをおすすめする。

R:頬に大きなニキビができたとき、薬局の薬を塗ったら余計に大きくなったんだ。妻に勧められてドラゴンズブラッドというオイルを塗ったところ直ぐに良くなった。
僕の母はクレイジーな人で、泥で髪を洗ったりするから、子供の頃は自分についた泥に臭いが嫌で仕方なかった。だけど母は知っていたんだ。本当に良いものは昔からあるんだって。
ケミカルな「アルガンオイル配合」の商品を買うならアルガンオイルを買う方がずっといい。

製品について

ビュリーのパフュームで特におすすめはありますか?

R:特定のおすすめはないけど、ビュリーの水性香水はアルコール使わずに水を使っている。アルコール自体に香りが付いているし、水の方が肌にいい。
パフュームは元来体臭など体の不調を隠すためのものだった。現代では異性を誘惑するためのものということが広告の表現に現れているね。ビュリーのパフュームはアルコールよりも香るのは控えめだけど、日本で生活すると他人のために香りを纏うよりも、自分と、その近くにいる人のために使うことが多いと思うよ。

R:柑橘系の香りなら元気な気持ちになれるし、気分を落ち着かせたいならフラワー系がおすすめ。最初に言ったように、記憶を呼び起こす香りが好きなんだ。チュベローズは花そのものの香りを閉じ込めている。

感想

アメリカの小売店やアパレル、食品業界の不振続いている昨今。世の中の売る買うの合理化が進めば進むほど、ラムダンの自然の中に美を見い出す視点とそれを表現するビュリーの世界が輝いて見えた。
ラムダンもインスタユーザーだし、美容界でビジネスする人のひとりだ。世界で起きている「現象」を細かく観察しながらも、特有の視点で本質を掘り下げ生きる姿が美しと思った。

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上:お土産にもらった紙石鹸。ビュリーの包装はギフトでなくてもひとつひとつ手書きでレタリングしてくれる。

#OfficineUniverselleBuly  #buly

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